第22話 異変


「……ふぅ、今日はここまでにしましょう。少し疲れたわ」


翌日、今日も一日中マリー様との決闘を繰り広げられていた。


最近は街にも顔を出さずに、毎日彼女と剣を交わらせてばかりいるせいか、たまに毎日こんなことするのか……?と疑問を思ってしまう時がある。


そんな俺だが……彼女の様子に違和感を持った。


「今日はここまでって……まだ昼も過ぎてないですよ?」


空を見ても光があまり強くない。またいつもよりも早く終わったと感じたせいでそう言うが……。


「……私にも都合があるのよ」


それだけ言う始末だ。

確かにマリー様にも都合があるのはそうだけど……。


「何かありましたか?今日のマリー様……少しだけ動きが鈍かった気がします」


いつもよりも手応えが無かったのだ。

それを指摘すると、少しだけバツが悪そうにしている様子が見えた。


「……………貴方には関係ないでしょ?」


「いや確かにそうなのですが、心配になるじゃないですか。無理に話せとは言いませんが」


「……ペットの癖に生意気ね」


そ、それとこれとでは何が関係あるのでしょうか?

心の中で訴えるが、口に出してないので伝わるはずもなかった。


「……貴方って親はいる?」


「親、ですか。今は……いません」


フェリシアさんが親代わりということで孤独というわけではなかったが……それでも、あの時の悲しみは今でも覚えている。


「……そうなのね。聞きづらいことを聞いたわね」


「いえ。大丈夫です。親の代わりに育ててくれた人はいましたから」


「……私は……父様が死んでからは一人だったわ」


ポツポツと、彼女は突然何かを吐き出すように語り出す。


「母様は、忙しくて私には構っていられないみたい。周りの連中は私に恐れて近づいてこない……それ以降、私の近くには誰もいないわ」


「マリー様……」


初めて見る、彼女の弱々しい姿。

そこにはあの天真爛漫のマリー様ではなく、ただの寂しがり屋のマリー様がいた。


もしかしたら、行動全部が誰かに自分を見て欲しくてやってきたことなのかもしれないと考えると……胸が痛んだし、納得もできた。


「変なこと聞かせたわね。今のは忘れて頂戴。それとこれ、今日の報酬金よ」


「……ありがとうございます」


その報酬金が何故かいつもよりも重く感じてしまったのはきっと俺の気のせいではないのであろう。


それを受け取ると、マリー様は立ち去ろうとして……再びこちらに振り返る。


「……貴方なら、どうする?一人になった時、どうすればこの空っぽの心が満たされる?」


「………俺は」


その彼女の問いに答えようとした時……突如、誰かが近づく音が聞こえてくる。

まさか魔物か……!そう思い、俺は持っている剣を構えようとして……その姿を見て動きを止める。


「マリー様……ここにおられましたか」


「……スミーヤ?なんでここに?」


あの時、ウロス様のそばに仕えていたメイド長さんだ。

スミーヤさんだったか?その人が俺の姿を見て、やはり……と少し顔を険しくさせている。


「お嬢様。至急お屋敷に戻ってきてください。奥様が……」


「ッ!母様に何かあったの!?」


今まで見たことのない彼女の取り乱している彼女の姿。

だが、俺も少しだけ顔を険しくしていたと思う。


(ウロス様に何かあったのか……?)



「……申し訳ありませんがレクス様。貴方も一緒に来てくれませんか?」


すると、スミーヤさんが俺に向かってそう言ってきた。

それに対応する様にマリー様も必死な形相でこちらのことを見ている。


「分かりました。俺も一緒に行きます」


「……感謝します。レクス様」


「スミーヤ!早く案内しなさい!お母様のところに行かないと……!!」


「…それもそうですね。ではついてきてください」


少し焦りの感情を感じながらも、俺はマリー様とともにスミーヤさんのあとをついていった。





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