第38話 管理人

「今この2人は鏡の幻覚により洗脳されています。この領域のルールに従うことになり、本心を話さなければならない」


「2人の本心が分かる……」


「さあ、続きです。レオ君とレオ様、その2つの存在が人間関係に亀裂を生むとは考えませんでしたか?」


「なんのことだよ」


「そこの2人に聞いてみるんだな」


「ミレイ、ユズ、2人は僕のことをどう思っているんだ?」


「私はレオ君が大好きだよ」


「ユズ……」


「私は……」


 ミレイは言葉に詰まっている。


「ミレイ?」


「分かってる。ユズにとってはレオ君は昔から付き合いでコンビでもあるのだから、そう思うのが自然でしょうね。でもはっきりいう、私じゃあ、その立場には立つことができない。レオ君とのコンビ、それはとても羨ましいことだわ」


「そんなことないって」


「そういうことなのよ。でも私も下がるつもりはないの。この気持ちは大切にしたい」


「僕はミレイの気持ちが分からない」


 ミレイは敵になったり味方になったり忙しい存在だ。その本質を見抜くのは難しい。


「考え方を変えればいい」


「考え方?」


「ああ、ダンジョン攻略においてレオ様とレオ君の2つの人格は最も重要なキーになる。双方の共存はできない、レオ様の人格はダンジョンクリア後に消滅する」


「そんな!」


「薄々勘づいていたのだろう? そんな中で2人の心境に揺らぎを感じているんだよ」


「ユズ、ミレイ」


「僕から問わせてもらうよ。ミレイ、ユズ。君たち2人はレオ様のことをどう思っているの?」


「確かに私はレオ様に酷いことをされたわ。でもそれも一つの性格としてレオ君が受け入れたというのなら私は二つとも許容する」


「ユズ……」


「私は……」


「ミレイ……」


「私は酷いことをするかどうかは問題ではない。あのカリスマ性がレオ君とあわさることで意味があると思っているの。だからレオ様と一緒にいたい」


 難しい問題……双方ともに好みがはっきりしている。ミレイはレオ様と一緒にいたい気持ちが強い。ユズは僕と一緒にいたい気持ちが強い。でもどちらも両方とも受け入れている。決定的な違いとなるのはダンジョンパートナーであるかどうか。


「僕は2人の言っていることは両方とも納得ができるよ。だけどどちらかを選ばないといけない時はどうするの!」


 ミレイは黙る。一方でユズの回答は早かった。


「私はレオ様の部分はレオ君が受け入れたから認めたというだけ。一貫してレオ君のことを信頼している。その思いは誰にも負けない」


「……」


「ミレイ?」


「私は……レオ様と一緒に過ごしてみたいの。確かに好きだけど、その距離は近づけないと思った。やっぱり違うと思うの、そこじゃない」


「ミレイ!」


 ミレイの本心はダンジョン攻略を拒むということだったのか。


「でもね、違うの。これは本心じゃないってわかってる、ここが私の敗因よユズ」


「ミレイ?」


「私は勿論どちらも両方のレオを認めている。でもその気持ちと関係は明らかにあなたの方が上なのよ。なによりゆるぎないのはパートナーであるということ」


「それって」


「認めるわ。私の負けよ、私はレオとユズを応援する!」


「答えはでた2人を開放する」


 ミレイとユズが消えた。


「2人をどこへやったの?」


「2人の洗脳はといたよ。後は君が答えを出せばここからでれる」


「何を答えればいいの?」


「君の本心を問いたい」


「これは」


 レオ様の残像が深層心理に入ってきた。


 深層心理では自分の意思関係なく本心が明かされることになる。



「ダンジョンの世界を体感してどう思った」


「やっぱり僕がいないとだめなんだって思った。僕がいないとダンジョンは管理できない」


「どういうこと?」


「フーコさんの認知スキルで僕はダンジョン深層の全貌を知ったんだ。まるでchを管理するかのように、全貌を見渡す、これをできるのは僕だけなんだよ」


「管理者の器は君なのかな?」


「管理者の器?」


「ああ、実は僕はこのダンジョンの管理者なんだ。君の持っているマテリアルコード、それは僕が管理者権限で与えたものだ」


「え? あなたが僕に与えたの?」


「うん、コードとスキルは繊細なんだ。いくつもの思想を組み立てて緻密で高クオリティなものを生み出すことができる。これが管理者たるものの権利だよ。それができるのはもう僕だけなんだよな」


「じゃあ、ずっと疑問に思っていた質問をしたい。なんでレオ様が生まれたの?」


「言ったでしょ、コードは繊細なんだ。いくつもの思想を組み立ててもたらされる変異体のようなもの。だから、時折君のようなもう一つの人格をレアケースとしてもたらす。人は悲しみと絶望の中で闇に沈んでいく。その闇が深くなればなるほど、他のものとは一線を画す異質な存在へと変貌をとげることができる、コードはその性質を反映しているんだ」


「それはつまりかつての僕のこと?」


「そうだ。闇の中でこそ核心をさがすことができるんだ。闇に沈んだ時に掴んだ光、それがレオ様と君のようだね」


「難しくてわからないけど、レオ様が出てきたのはそれくらい曖昧なことなんだね」


「そういうことだ。あの日の始まりのダンジョン、君の中のレオ様のスキルは覚醒のためにレイドボスを引きつけた。全てはコードが惹きつけた必然の出来事だったんだよ」


「あの日の覚醒は必然だったのか」


「さて疑問も解消したところで最後の質問といこう。君はレオ様とどう向き合う」


「僕は……」


 レオ様についてのかつての嫌な思い出を思い返す。だがアイシアとレオ様が分かりあったようにいい面も思い起こした。


「レオ様は相反するものだった。けど僕は変わらなきゃいけないと思った。だからもっと突き詰めていった」


「つきつめる?」


「そう、力を持つ者同士はやがて分かりあい協力して新たな力をもたなければならないんだ」


「どちらかが消えると、分かりきっていてもかい?」


「そうだ、もっと考えていかないといけない。これから思いつく最善策という奴をだ」


「思いつかなかったら」


「いずれにしても、もっと進歩をしなければならないからだ。これまで以上に」


「ミレイとユズに危険が及んだら?」


「ミレイもユズもコードの力に取り込まれずに守る。それは僕自身がダンジョン最深部に行く必要があるんだよ」


「答えがでたようだ」




「うん?」


 深層心理の世界から脱出した。


「最後に聞きたいんだけどミレイとはこれからどう接するつもり?」


 全てを答えると管理人は僕も解放した。95層クリア。

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