第37話 95層
「お前、才能がある奴を倒したいっていったじゃないか」
「確かに少し前まではそうだったが今は違う。俺は変わっちまったんだ。あいつらの純粋なダンジョン攻略の熱意にやられちまった」
「知らねえよ。メイルさん、こいつやっちゃっていいんだよな」
「ああ」
「ひゃははははしねえええ」
「爆裂斬!」
辺りが爆音につつまれた。
「こ、こんなことが」
「ふん、俺の最強の力をみせるっていっただろ」
「き、貴様シュウ! ヘルの人員を過半数もよくもやってくれたな!」
「出し抜かれたんだよお前らわ」
「卑劣な真似をここまでだ。増援をよんだぞ」
更に黒装束が増えた。
「これだけで終わりなわけねえだろうが」
「……もう分かった、お前は救えない奴だ」
黒装束集団とシュウが衝突した。
ー
これこそ俺が思い描いていた最後の光景だ。
ヘルの人員を根こそぎ倒して力を使い果す。
いままでのもやもやが全て晴れた。俺は才能に嫉妬していたのではなく羨望をもっていたのだ。極度の信仰から、やがてそれは嫌悪に繋がったが、本物を前にして俺が嫌っていたのはその崇高な才能の純粋さを妨害するものだったのだ。
そして盲目だった俺はずっとその妨害の一派に身を置いていた。
これからどうすればいいんだろうか。
過ちを認めなくてはならない。
完全に間違えた。おそらく認識能力の低さからなのか。
ここまで来ると、あまり自分を客観視しない方がいい。その時目の前の風景が全て崩れ去ることになる。
風景が崩れさると何が起きる?
自分を見失い立ち上がれなくなる。
ここから先の景色をみるのが辛いよ。
何もかもが過去の思い出、次第に自分という存在がアップデートしなくては意味がなくなってくるんだよ。
亡くなった存在は、これ以上、修復できない。
これはもう生き地獄だろ?
俺は道を誤った。自分の本質を見間違えたから憎むべき存在の方に身を置くということを続けてしまったのだ。
ここまできた自分のやるべきことを考えた結果、命の灯を燃やすことが大事だと気づいた。
ー
「はあ、はあ、はあ」
「貴様、シュウゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
「よう、お前の兵は全部片付けたぜメイル」
「許さん! ぶっ潰す」
「全力でこい!」
「はあああああああああああああ」
「だあああああああああああああ!」
「ドドドドドドドドドドド」
ギルド・オブ・ヘル、幹部黒の剣士シュウと、参謀のメイル、裏ギルド内トップの実力者同士の最後の衝突がダンジョン90層でおきた。
そのエネルギー衝突による爆風波周囲の残存黒装束を全てを飲み込み、ともども塵となってダンジョンから消えた。
「あっシュウはやってくれたみたい」
「それってさっきレオ君がいってた?」
「うん、メイルは最初から俺たちをはめようとしてた。80層の黒装束の戦力の大部分を僕たちにけしかけようと天秤スキルの大技の準備をしてた」
「うわあ、じゃああのままだったら総力戦になってたじゃないの」
「ああ、だが結果的にシュウに助けられたな」
「あいつ黒装束を全部倒したってそんなに強かったの」
「うん、自分のやるべきことが見えたプレイヤーは強いよ。あれがシュウ本来の力だったわけさ」
「敵ながら賞賛に値するわね」
「さあ、ここは95階、もうすぐだ、キルレを倒すよ」
これまで倒した階層ボスはどれも一筋縄ではいかない強敵だった。
これから95層ともなると、敵がどうなるか全くよめない。
「これまでのダンジョンとはかなり変わっているわ、魔物もいない。何もない空間がただそこに漂ってるだけという感じ」
「逆にここまで簡単にこれたわね」
「どう考えてもボスが怪しすぎる2人とも心してはいろう」
「うん」
一気に緊張感が走った。
「鏡?」
95層の深層に入ると無数の鏡があった。
「ユズ、ミレイ!」
ふと振り向くと2人はいなくなっていた。
「これはどういうことなんだ」
「やあ、こんにちはレオ君」
「レオ様!」
「ここは鏡に自己を映し出すところ。自分の中の心の壁を越えたもののみが先に進むことを許される」
「じゃあ、僕にとっての心の壁はレオ様ってこと」
「そうですね。確かに君は僕を受け入れて、強大な力を手に入れましたが、まだ僕に対する根底的な恐怖は残っているということです」
「そんなはずは」
「思い出してみてくださいよ。君が力を手に入れるきっかけになったのは僕のおかげです。本来ありもしない力を持った僕という存在は明らかに君と同じ存在ではないですか?」
「そんなはずはない!どっちも本人だよ。そこに違いなんてない」
「そうですか、じゃあ君の傍にいるそこの2人の本心を聞いてみたらどうですか」
「ミレイ!ユズ?」
鏡の中にミレイとユズが現れた。
「2人に何をした?」
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