目と鼻の先

ろく

目と鼻の先

僕は


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┃23:59┃

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この瞬間が


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┃00:00┃

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好きだ。

この一瞬だけで何十時間も経ったかのような錯覚を味わえる。


こうしてタイムスリップを体験したあとは、日めくりカレンダーをめくる。これが僕の夜のルーティーンだ。


このカレンダーには、日付に加えて名言が書かれている。今日はどんなことが書いてあるだろうか。


『どれだけ遠くにいても、心の距離は目と鼻の先』


なるほど。似たような言葉をよく聞くし、ちょっとクサいセリフだなという気もするが、僕はこの言葉が好きだ。僕もその通りだと思う。


ネットで知り合った女の子がいる。最初の頃はただのゲーム友達だったけど、長いこと一緒にいて色々と話しているとその子の気持ちがわかるようになったし、僕の気持ちも分かってもらえてるような気がする。


顔の写真も見させてもらったことがあるが、とても可愛いのだ。住んでる場所は遠くて会ったことは無いけど。

そして今ではその子は僕の彼女♡

こんな可愛い子が彼女だなんて、僕の鼻も高い。


ごめん。ちょっと自慢が混ざってしまった。まあ今言った通り、僕もこの言葉を実感することがあるので、いい言葉だと思う。


プルプルプルプル♪


お、そんなこと話してたら、ちょうど彼女から電話が来た。そうだ。ゲームする約束をしていたな。


「ゆーくん聞こえるー?」


相変わらず可愛い声だ。ちなみにゆーくんってのは僕のことだ。


「聞こえてるよ。じゃあやろっかー」


いつも一緒にやってるFPSゲームを始める。とは言ってもお互いエンジョイ勢なので、ゲームをしている間も雑談をしている。


「」


「」


でも最近はお互い話すことも無く、こうやって無言が続くことが多い。


「あ、そういえば」


無言が気まずかったのでとりあえずそう呟いた。なにか反応が来るまでに話題を考える。


「どした」


うわー何も思いつかなかった。とりあえず適当に嘘つくか


「この前『宵 まぼろ』好きって言ってたじゃん」


『宵ノ まぼろ』とは、最近人気のシンガーソングライターだ。


「うん!めっちゃ好き!」


「ライブ応募したら当たっちゃったんだよね」


嘘ですが。


「え!うそ!まじ?!」


「うんマジマジ笑」


ごめんね嘘だよー


「えー私も一緒に行ってもいい?」


まずい、このまま行くって流れになってしまったら嘘だとバレる。誤魔化さなくては。


「え、でも遠いよ?こっちの方だし」


「いやいや、まぼろくんのライブ行けるならなんとしてでも行くでしょ!しかもゆーくんにも会えるし」


「いや、でも交通費とか厳しいんじゃない?」


「ふふー、私、最近バイト始めてお金あるんだー」


「え凄いじゃん。でもバイト始めたならスケジュールとか厳しいんじゃない?」


「いや、別に休めるし。てか何?さっきから来て欲しくないみたいな感じの返事して」


まずい


「いや、別にそんなことないけど」


「いや、怪しすぎるでしょ。浮気とか?他の女の子と行くんだ。」


「いや、そんなわけないよ」


「じゃあなんであんな感じだったの」


ここはもう正直に白状した方が良さそうだ。


「えーっと、嘘でーす笑笑 ライブ当たってないでーす」


「は?」


やばい、キレた


「嘘なの?ねぇ、ひどくない?」


「うん、冗談だよー笑 倍率やばいし、当たるわけないじゃん笑」


「いやいや、ひどいよ。私嘘つく人大っ嫌いだよ。たとえ冗談でも。」


いやー、こわい。おこりすぎだよー


「ライブ当たったって聞いてさ、私も一緒に行けるのかなって思ってさ、ライブもいいけど君に会えるって思ったらその事ばっか考えちゃってさ、ライブの後とかご飯行ったり、できるかなって。」


「…」


「実は好きだったからさ、君のこと。もしかしたら告白とかしてくれるかなーとか、いっその事私から告白しちゃおっかな!とか笑。告白が成功して、もし付き合えたら次の日も一緒にちょっと遊んでイチャイチャしたいなーとかさー笑。」


「……」


「『ライブ当たった』って言葉だけでさ、色々妄想したんだよ。それ以降もずっと幸せになれるかなーって。でもさ、嘘って言われて。色々妄想してひとりでワクワクしてドキドキしてた私が馬鹿みたい。恥ずかしい。なんで?私悪くないのに。」


「…ごめん」


「もういいよ」


ドゥルン


電話が切れた。


「あーー!すきだったのにー!ちょっと嘘ついただけじゃん。うわーマジかよ。ほんとに好きだったのに。ひどいよー」


机の上に置いてあるぬいぐるみの、ちょっと笑ったような顔が鼻につく。


「うぜーなー!」


ドン!


うわ、台パン強くしすぎた。やばいかも


ガチャッ!!


案の定、部屋のドアが開き、親がしかめっ面をしなが言った。


「夜なんだから静かにしなさい!!」


勢いよく閉められたドアが、カレンダーを泳がせた。




おわり

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目と鼻の先 ろく @rokusan06

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