大好きな乙女ゲームのモブ令嬢に転生〜クズな攻略対象たちから推しの悪役令嬢とヒロインを守る為に2人をくっつくように自作します〜
四季想歌
第1話
私エマ・ミュラー伯爵令嬢7歳、前世の記憶というものを思い出したみたいです。
乗馬中に落馬し頭を強く打ったのが原因みたい。
何ともまあ、乙女ゲームとかでありそうなベタな設定。
前世の私は女優をやっていたみたい。
ドラマや映画に引っ張りだこで、『注目の若手女優』なんて言われて結構注目を集めていたところだった。
死因は飛行機事故。海外ロケへ向かう飛行機が運悪く……ということらしい。
私は今の自分の顔を鏡で見つめている。それにしてもこの顔どこかで見たことあるような……自分の顔なのに変な感じ。
「お嬢様? まだどこか具合が……」
あ、ヤバい。お付きのメイドが変な顔でこっちを見てる。私は7歳の子供だから、それらしくふるまわないと……。
「う、ううん。へいき」
「そ、そうですか……私は旦那様にお嬢様のことを知らせてきますので」
とメイドが部屋を離れていき自分一人しかいないのを確認して一息つく。
前世では演技力に定評があったからこれくらいは余裕ね。それでも油断しないように気をつけないと……。
前世の記憶を思い出して最初はかなり混乱したけど、数日もすると大分なじんできた気がするわ。
今の私はエマ・ミュラー伯爵令嬢。家族は両親と姉が1人の4人家族。
前世のことは知識や経験として私の中にあるって感じかしら。
お父様やお母様、使用人の人たちにも今のところ違和感持たれてないし、きっと大丈夫ね。
今日我が家は、お隣のフォンテーヌ侯爵家主催のパーティーに家族で呼ばれている。
侯爵家の娘のレイチェル様のお誕生日を祝うパーティーなのだと。
貴族のパーティーなんてゲームの中だけだったのに、実際に体験できるなんてちょっと楽しみ。
この日の為に最低限の淑女教育を受けたけど粗相をしないかちょっと不安もあるわ。
会場に入ると、とても煌びやかな世界が広がっていた。
その世界の中心にいる少女はとても美しくまるで妖精のようだと思った。私は一瞬で彼女に惹きつけられた。
彼女は、銀髪を背中まで伸ばし、青紫色の瞳をしていた。彼女の美しさに思わず声が出そうになるが我慢する。
「お誕生日おめでとうございます。レイチェル様。こちらは娘のエマです」
「お誕生日おめでとうごさいます。レイチェル様」
「ありがとうございます。エマ様」
――女神。
私と同い年だというのに、めっちゃ美しいんですけど!
……っといけない、いけない。つい見とれてしまったわ。
悪役令嬢の幼少期はこんなにかわいらしく、美しい方だったのね。
そう…………悪役令嬢。
最初は気のせいかと思ったけど、彼女の名前とお姿を見てやっと思い出したわ。
――この世界、私が一番やりこんでた乙女ゲームが基になった世界だ。
そして私は悪役令嬢取り巻きのモブ令嬢だということに!!
◆◇◆◇◆
乙女ゲームの舞台は王立学園。
男爵令嬢の庶子でヒロインのサラ・ロベールが、4人の攻略対象の男性と学園生活を送るっていうベッタベタの内容で、イラストの出来と声優が無駄に豪華なことで話題になったやつ。
レイチェル様は、どの攻略対象ルートに進んでも必ずヒロインの前に立ちふさがる悪役令嬢っていう立ち回り。
私は百合専だったからあんまり興味はなかったんだけど、ネットでおすすめの百合ゲーって何故か紹介されてたから、とりあえずプレイはしたの。
何でも、全ルート攻略後の隠しルート的な立ち位置で、ヒロインと悪役令嬢が友情を深めて終わる、通称『悪役令嬢ルート』というものがあるらしい。
百合女子としては何としても観ないといけないという使命感に燃えてました。
あ、攻略対象のルートは基本スキップで飛ばしたけど。なんか全員好きじゃなかったから。
でも、その隠されたエンディングを観るためには、まずは通常ルートを全部クリアしろというのが攻略サイトのお約束だったので、一応全キャラクリアしたよ。
そこまで興味なかったから攻略サイト見て、ほとんどスキップしたなー……懐かしい。
隠しルートは、おすすめって言われただけあって、超尊かったわ……。
一時期レイサラの同人誌とかあさってたなぁ……。
私が今いるのは乙女ゲームの世界で、しかも前世の私の推しが目の前にいる!
いやー、まさか自分が悪役令嬢に取り巻きモブ令嬢に生まれ変わるとは思わなかったわ。
そんな推しキャラのレイチェル様とお知り合いになれるなんて、将来取り巻きに慣れるように今から親しくしておきましょう!
「子供同士でゆっくりしてくるといい」とお父様たちは、フォンテーヌ侯爵夫妻を連れて、挨拶周りに言ってしまわれた。
その間、私はレイチェル様と他愛無い話をして、至福の時を過ごしていた。
「――フォンテーヌ侯爵令嬢」
「……レオン殿下」
そんな私たちの空気を読まずに割って入って来たのは……攻略対象その1、レオン・クレマン第一王子。
レイチェル様の婚約者。金髪碧眼の美形で顔立ちも整っているが、ちょっと軽薄そうに見えるのは気のせいだろうか。
「お誕生日おめでとう」
「ありがとうございます。殿下」
「俺が渡したアクセサリーは、気に入ったかい?」
「……はい」
「そうか。それは良かった」
うわっ、すごい笑顔。私には絶対向けられないような表情だ。
それにしても、レオン王子はゲームより爽やかな好青年という印象を受ける。これが本来の彼なんだろうか?
「それと……」
ん?まだ何かあるのかしら。もうプレゼントは貰ったけど。
「こちらをどうぞ」
レオン王子は小箱を差し出した。
えっ、まさかのプレゼント!?
「よろしいんですの?」
レイチェル様が遠慮がちに聞く。
「もちろん。レイチェル嬢の誕生日を祝うために来たのだからね。ぜひ受け取ってほしいな」
……なんか胡散臭い。本当に乙女ゲームの彼なのかしら?
「――殿下」
「ユリウス」
そこに現れたのは宰相子息のユリウス・ロバン!?
レオン殿下の側近であり攻略対象の一人じゃない!この二人はもう知り合っていたの?
レイチェル様がプレゼントを受け取ったのを確認すると、レオン王子はユリウスと一緒に別の令嬢の元へ行ってしまった。
「やはり悪役令嬢。この年であれだけ美人だとは」
「俺が抱いた後でよければお前にくれてやるぞ」
「それは楽しみです。でも、初めてはサラと決めているので」
日本語……!去り際の二人は確かに日本語で話していた。
その証拠にレイチェル様は二人の会話が聞き取れていないみたいだし。
まさか私以外にも、レオン殿下やユリウスも転生者だなんて……
しかもさっきの発言……女を何だと思ってるの!
あんな奴らに、レイチェル様とサラ様を穢させはしないわ!!!
◆◇◆◇◆
攻略対象の二人があれだと、残りの人も期待できないかもしれないわね。
となると私が目指すのは悪役令嬢ルート一択。
それもただの悪役令嬢ルートじゃない。レイチェル様とサラ様には、友情ではなく愛情を深めてもらいたい。
そう、その名も……真の悪役令嬢ルート!
そのためにはまず、この世界の人たちが同性愛に対して偏見を持たないように、考えを変えていかないといけないわね。
とりあえず身近なところから広げていった方がいいかしら……
「お呼びですか? お嬢様」
私のお付き侍女のリーナ。試しに彼女から始めてみようかな……。
「ちょっとこれ読んでみて?」
「小説……ですか」
と私は書き上げた原稿をリーナに手渡す。
さっきまで書いていた百合小説の原稿が、やっと書きあがった。
これでも前世では趣味で同人活動もしていたのよ。
この世界には同人誌はまだないし、小説はあんまり書いたことなかったけど上手くかけたかしら。
「これは……」
「どうかしら……」
「お嬢様……ちょっと私には……」
リーナは引き気味に言った。
うーん……引かれてしまったか。まあ仕方ない。
「エマ。入るわよ~」
「オリビアお姉様!?」
突然扉が開かれて、オリビアお姉様が入ってきた。
オリビアお姉様はミュラー伯爵家の長女で、エマの姉。
乙女ゲームでは当然だが出てこなかった人物。
「あら、それは? 小説の原稿?」
「えっと……」
私は自分が今書いている小説の内容を説明する。
「ふぅん。なかなか面白そうな設定ね。ねえ、それ私にも読ませてくれない?」
「えっ!? ダメです!」
「いいじゃん別に減るもんじゃなし。それに、こういうのって普通は姉妹とか家族に見せるものだと思うけど?」
「いや、でも……」
「ほら早く見せなさいよ。大丈夫だから。私そういうの全然気にしないから」
「はぁ……わかりました」
オリビアお姉様は結構押しが強いところがある。
こうなったお姉様を止めるのは、実は両親でも難しいらしい。
私は諦めてオリビアに原稿を渡す。
そして小説を読み始めるオリビアお姉様。
「へぇ……結構面白いじゃない。エマが書いたんだよね?」
「ほんとですか!? ルーナはあんまりみたいだったんですけど……」
「申し訳ありません。私にはよく……」
「ふ~ん……」
とお姉様はおもむろにルーナに近づいていく。
ルーナはじりじりと後ろに後退していくも、やがて部屋の壁際まで追いつめられる。
「オ、オリビア様……?」
お姉様はルーナを壁ドンして顔を近づけていく。
「ちょっ、お姉様!? なにしてるんですか!!」
私は慌てて止めに入る。するとお姉様はニヤリと笑った。
「何って、エマの小説の通りにしてるだけよ」
「いや、お姉様にはそんな趣味はないはずじゃ……?」
「そうだけど、なんかエマが書いてる小説見てたらやってみたくなってさ。ルーナも本当は興味あるんじゃないの?」
「いえ、私は……」
「正直になりなさい」
そう言うとお姉様は、ルーナにキスをした!
「むぐっ、んっ、ちゅっ、んんっ……。ぷはっ!! はあっ、はあ……」
ルーナは突然の出来事に呆然としている。
「どう? 気持ちよかったでしょ?」
「は、はい……」
真っ赤になって俯くルーナ。
お姉様……ルーナをあっさり落としちゃった。
っていうかルーナがチョロすぎ?
ルーナが素直すぎるのかしら。
「エマ。なかなか面白いものを書くのね」
「ありがとうございます。その、ルーナの反応をみて問題なさそうなら出版も考えてたんですけど」
「最初は受け入れられないかもね」
「うっ……やっぱり……」
「でも大丈夫。私がなんとかするわ!」
「えっ、本当ですか!? 助かります! さすがです、お姉様!」
「任せときなさい!!」
頼りになる。お姉様がいればきっと上手くいくはずだ。
流石はお姉様といったところか。それともこの世界がそういう風にできているのか。
百合やBLといった同性愛を題材にした小説が、庶民貴族を問わず国中に広く浸透していた。
「別に特別なことは何もしていないわ。ちょっとお茶会の時に、お友達に薦めただけ。いろいろと使って……ね♪」
お姉様の言う「いろいろ」は聞かない方がいいよね……。
最近社交界でお姉様を慕う令嬢の方が増えた気がするけど、偶然ね、うん……。
お姉様を敵に回すのだけは絶対に止めよう。心に堅く誓った私だった。
ちなみにルーナはいつの間にかお姉様の侍女になっていた。
「オリビア様~。あの、縄で私の体を縛って虐めてください!」
「もう、しょうがないわね……」
……私は何も聞いてない……うん…………聞いてない。
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