チャプター3

 アーティフィカルシグナを通じてでも、グレッギーになにが起きたのかは、モノムにも理解できた。

 だが、声をあげるわけにはいかなかった。向こうにいる誰かに聞こえてしまうのは絶対にあってはならないからだ。

 モノムは両手で口元を抑え、ブルブルと震えていた。

 アーティフィカルシグナ越しに、グレッギーのか細い声が聞こえてきた。


「ネザ……」


 そこで、通信が切れた。グレッギーの生命反応が無くなったことにより、回線が維持できなくなった。


「なんで……なんで……?」


 だが、悲しんでばかりいても仕方がないことは明らかだった。

 グレッギーがくれた情報はポルタランドの常識を覆すほどのものだった。普通に生きている人間やエルフの9割はポーメント……つまり、人工的に作られた生命であり、全員がそれを理解していない。

 純正と呼ばれる残りの1割も、同じだ。

 自分は今、国家図書館のライブラリアンとして働いているが、ポーメントのために働いているといっても過言ではない状態である。この人工生命を維持することに何の意味があるのだと考えてしまう。


 そして、グレッギーが最後に残した言葉の意味だ。

 それはすぐに分かった。


「ネザリウスか……」


 おそらく、グレッギーにわからないようにアラートがあがっており、それで5層におりてきたのだろう。

 モノムの推測は、ほぼ、当たっていた。


 -※-


 5層のサーバールームでは、グレッギーの死体を見ている、ディザスターを持つネザリウスの姿があった。

 彼は左手でアーティフィカルシグナに触れると、


「ネザリウス?」


 というポルタの声が聞こえてきた。


「はい、ネザリウスです。緊急事態なので、こちらから連絡をすることを許してください」

「もちろん。で、どうだったの?」

「結論から言うと、エグゼクティブブリーダーへの昇格と、ブリーダーの手配が2名、必要になります。推測でしかありませんが、先日ブリーダーになった『グレッギー・グリンドール』という者がバーゼルを殺し、サーバールームに侵入したと思われます」

「処分したの?」

「処分しました。動機は好奇心だと思われますが、それにしては就任から早すぎる気がします。グレッギーの性格からして、しばらくは4層で酒池肉林を楽しむと思ったのですが……」

「ルートと違って私は直接会ったわけじゃないから、なんとも言えないけど、ブリーダーの適正って、そういう人を選ぶよね」

「はい、そうです。見込み違い、申し訳ありません」

「そういうこともあるだろうし、気にしないで」

「それよりもポルタ様。今後、こういったケースを防ぐためにも、4層と5層にも監視カメラを設置しませんか?」


 それを聞いたポルタは笑った。


「あー、それはいいの。こういうのって数十年に1回ぐらいだし、ネザリウスが対応することはもう無いだろうし」

「ですが、前回のトラブルの際は、私の……」


 ネザリウスはそこまでいいかけ、やめた。神であるポルタが不要と言ったら、不要なのである。


「わかりました。では、私は死体を海に流して、床を掃除して2層に戻ります」

「うん、お願いね。それから、あなたの仕事も、そろそろ引き継ぎしたほうが良いかもね。長男が候補なんだっけ?」

「そうなります。ビピルも優秀ですがまだ若いですし、あれはエグゼクティブルートがあっているでしょう。なにも知らないまま、今の仕事をまっとうしてもらうつもりです」

「わかった。その辺は任せるよ」

「ところでポルタ様、この、グレッギー・グリンドールの記録は、反乱と正直に記録しても良いものでしょうか?」

「えっと、前回はどうだったかな?こっちで考えて伝えるよ」

「かしこまりました」

「ブリーダーは、グレッギー・グリンドールね。……ん?グリンドール?」

「ポルタ様、どうかしましたか?彼は孤児院の出身で、身内はおりません。ブリーダーに適した人材ではありましたよ」

「あっ、いや。いいの。じゃあ、通信切るね」


 ポルタはそう言うと、通信を一方的に切った。


 -※-


 次の日。

 リージョン3と4の境界付近にある山奥を歩く集団があった。

 3人の男はサングラスをしており、右手にトランクを持っているというのが異常だった。もう一人は小柄な女性で、背中に黒い枝のような杖を背負っていた。

 萌黄である。

 萌黄たちはイグナイト・ファミリーとの武器の売買のために、人目のつかない場所に向かって歩いていた。車は遠くにとめており、もう30分は歩いている。

 スターダスト・グロウはメンバーが増えていることに加え、戦闘で利用する弾の補充もしたかった。

 一方、ギャンググループは無限にお金が欲しい。この取引は、双方にとってありがたいものだった。

 男の一人は息を荒くしながら、言った。


「萌黄さん、まだですか?」

「あと半分ぐらいだぜ」

「はっ、半分ですか?」

「なんだ、もうつらいのかよ。あたしがトランク持ってやろうか?」


 男にもプライドがあったのか、ムキになってその提案を断った。

 それを見た萌黄は笑った。


「あたしはリージョン2の田舎暮らしだからな。山には慣れてるんだぜ?」

「は、はぁ……」

「言っておくけど、帰りのほうが重いんだからな?サブマシンガンに弾だぞ」


 それを聞いた別の男が言った。


「萌黄さんは戦闘要員だから、身軽でいてもらわないと」

「といっても、イグナイト・ファミリーがあたしたちを裏切ることはないと思うぜ?裏切った瞬間、あたしたちの武器はイグナイト・ファミリーから供給を受けたって言えばそれまでなんだ。相手は賄賂のきかないパステだぜ?絶対に許さないって」


 萌黄は両手を広げてケラケラと笑った。


「うちもバレたらヤバいんですけどね」

「だから、こういう山奥で取引するんだよ。なっ、頑張って歩こうぜ」


 30分後、集合場所についた。

 木々に囲まれているが、その部分はひらけており、大きな岩があった。これが目印だ。

 萌黄は言った。


「あたしたちはちょっと早かったな。あいつらは、まだみたいだぜ」

「じゃあ、すこし休みましょうよ」


 男の一人はそう言うと、トランクを横に置いて岩を背に座った。

 その瞬間、女性の声があがった。


「そこまでです!全員、両手をあげてください!」


 木のかげから、ディザスターを構えたパステと、迷彩服をきた警察官3名が銃を構えて現れた。

 あっけに取られたスターダスト・グロウの男達だったが、萌黄は反応できた。背中のアビス・バッズを抜くと、パステたちにめがけ、雷の弾を連続で飛ばした。アビス・バッズは木の枝のように見えるが、実際は金属であり、魔力を低燃費で加工して雷を飛ばすこともできる。

 無数の雷に被弾した警察官は即死だった。パステはペンダントのバリアで防ぎながら、ディザスターをスターダスト・グロウに向けて放った。


「おっと!」


 間一髪さけた萌黄は、反対方向に向かって走って逃げ出した。他の3名は岩ごと体を切断されて死んでいた。


「待ちなさい!」


 パステも追いかけた。

 だが、運動能力の差が大きいのか、山に慣れているのか、萌黄のほうが速い。

 萌黄は距離を取ったことを察して振り返ると、杖をパステに向けた。


「ヘルズ・ディストーション!」


 杖の先端から黒いエネルギーは、パステの体を包み込んで爆発した。が、ペンダントのバリアを破壊するまでにはいかず、パステはひるみながらも追いかけていた。


「マジかよ!」


 萌黄は詠唱をしながら走った。長い詠唱だった。


「こいつでどうだ!ディープ・シー・ストローム!」


 アビス・バッズの先端から飛び出したウネウネとした無数の閃光が、パステを中心に広がった。パステの体ごと、周囲の木々を飲み込んでいく。

 だが、パステは魔法に押されながらも、ペンダントは確実に機能し、無傷だった。周囲の景色はそこだけ大洪水が起きたかのようにすべてを流していた。


「これも効かないのかよ!」


 萌黄はとっさにアーティフィカルシグナに触れた。幸運なことに、相手はすぐに出てくれた。


「モノムです」

「芽吹木だけど、助けてくれ!パステに追われてる」

「はあ?なんでよ」

「知るかよ!いいからあいつをとめてくれ」


 モノムはやってみるといい、回線を一度閉じ、アーティフィカルシグナに触れ、萌黄とパステに通信を仕掛けた。

 萌黄はすぐに応答したが、パステは走るのに夢中で応答しなかった。むしろ、こんな時にうるさいとばかりに無視していた。

 耐えられなくなった萌黄は大声をあげた。


「おいパステ!さっさとシグナに出ろよ!」


 国家図書館では、両耳を塞いで大声に耐えているモノムの姿があった。

 と同時に、なぜスターダスト・グロウの人間が自分にアーティフィカルシグナの反応があると知っているのか?と、興味を覚えたパステも通信に出た。


「パステ?モノムだけど」

「今、緊急です!ごめんなさい」

「そのことだよ。萌黄と戦っちゃダメ」

「萌黄って誰ですか?黒い枝を持っている女ですか?」

「枝って言われてもわからないし、会ったこともないけど、薄い黄緑のローポニーテールの子供って聞いてる。あと、口が悪い」

「なら、追いかけてるのがそれです。モノムさん、あの人はスターダスト・グロウなんですよ?わかっていますか?」


 モノムは息を飲んだ。


「わかってる。いい?スターダスト・グロウは敵かもしれないけど、萌黄は敵じゃないんだ」

「意味がわかりません」


 そこへ、萌黄も割り込んだ。


「モノムごめん、あたしも意味がわからない」

「それを説明するから、攻撃をやめて話を聞いて。ものすごく、本当にものすごく重要なことなんだ。萌黄を逃がしたいって理由じゃないんだ」

「わかりました」


 パステはモノムの必死な言葉に足をとめた。


「萌黄さん、なんでこの会話に参加できるのか知りませんが、あなたも逃げないでください」

「信じられるかよ!あたしは逃げる!」


 モノムは言った。


「大丈夫。パステは不意打ちはしないから、戻ってきて」


 萌黄は舌打ちをすると、歩いて戻ってきた。杖はもう、しまってあった。


「あーあ、まさかイグナイト・ファミリーが裏切るとは思わなかったぜ」


 パステは息を整えながら言った。


「色々と聞きたいことがあるのですが、萌黄さんと言いましたか?どうしてあなたはアーティフィカルシグナを持っているんですか?あなた達は何人かルートを殺しましたが、これが通信機であるとは気づかないはずです」

「そりゃ、モノムに貰ったからだろ」

「ええっ?モノムさん、どういうことですか?どうやって送ったかは知りませんが、これはポルタランドへの反逆ですよ?すぐにネザリウス様に報告を……」

「いや、パステ。私がこれから話すのは、そこなんだよ」


 パステは首をかしげた。


「パステは知らないんだよ。ポルタランドっていうのが、どういうものなのかを」

「なにを今更。ポルタランドはポルタ様に救ってもらったものです。だから、私達はポルタ様に感謝して、ポルタ様のためになることをしないといけないんです。住民全員の義務です」


 萌黄は言った。


「面と向かって言われると、ヘドが出るぜ」

「なんですって?」

「萌黄、パステを煽らないで頂戴。パステ、じゃあ、ポルタランドの5層について説明できる?」


 パステは腕を組んだ。


阿伽羅流星群あからりゅうせいぐんで海に沈んだフロアですよね?」

「行く方法と、なにがあるかは知ってる?」

「えっ……?行く方法……ですか?」

「興味、持った?私がこれから話すことは、もっと衝撃的だよ?それを聞いたあとで、改めてパステに聞いてみたいよ。エグゼクティブルートの仕事って、なに?ってね」

「モノムさん、もったいぶらないで欲しいです」

「じゃあ、夕方、改めて」

「今、お願いします」

「今はこの事件の対処のほうが先でしょう?スターダスト・グロウと戦闘になって相手は全員倒したけど、こっちの警察官も全員死んだっていう報告をして、しめないと。それに、パステにも落ち着いて欲しい」


 萌黄が言った。


「あたしは死んだことになるのか?どうやってギッターたちに報告すればいいんだよ」

「それがボスの名前ですか?」

「あっ……」


 萌黄は、しまったという表情を作ったが、もう遅かった。

 ギッターの名前は検索をかければすぐに出てきてしまうだろう。


「萌黄も落ち着いて。あなたもスターダスト・グロウに関わるのはもう終わりだから。パステと同じように私の話を聞いたあとで聞いてみたいよ。何のために戦っているの?って」

「どういうことだよ」

「ごめん、私もうまく整理できていない部分があるんだ。萌黄は適当なホテルにでも部屋をとって。お金はあるんでしょ?」


 萌黄は両手を返した。


「そりゃな。取引のために用意したお金がたくさんあるぜ?なあ、エグゼクティブルートさんよ、トランクにあるやつ、ちょっと持っていっていいよな?」


 ギッターの名前を知った以上、スターダスト・グロウの件は解決したと言ってよかった。本気を出せばすぐに捕まえられるだろうし、萌黄をここで逃がすのは問題だが、こっちもその気になればあとで捕まえればいい。

 モノムの件もネザリウスに対処を依頼すればすぐだ。


「どうぞ。ただし、携帯電話はこちらに渡してください」


 萌黄は言う通りにした。

 その場は一旦、解散となった。

 パステはモノムの言う通りの報告をした。


 -※-


 夕方、自室に戻ったパステは、モノムからの連絡を待った。

 程なくしてアーティフィカルシグナの反応があり、応答するとモノムと萌黄がすでにいた。

 モノムは早速話を始めた。

 まずは、スターダスト・グロウとなぜ繋がっているのかと、彼らがアーティフィカルシグナを持っている理由だった。

 パステは驚愕した。それは、ポルタランドへの反逆の連続だった。


「こっ、国家図書館の輸送システムのデータベースの改ざんですって?リージョン1の襲撃と、10のルート襲撃もモノムさんが指揮を取っていたんですか?」

「そう。私はデータベースにアクセスするためにライブラリアンになったようなものなんだよ」


 パステは怒りよりも、別のことに興味を持った。


「あの……。そうまでしてモノムさんを動かすものはなんなんですか?」

「メタリッド・グリンドールについて知りたいのよ」

「誰ですか?」

「ブリーダーだった、私の父親」

「モノムさんは孤児では?」

「それがね……」


 モノムはメタリッドについての説明を始めた。国家図書館からも一切の記録を抹消されている、謎の存在であると。そして、幸運なことに、兄のグレッギー・グリンドールと知り合えたと伝えた。


「グレッギーって、先日ブリーダーになった人ですよね?」

「うん。グリンドールっていう苗字からもしかしたらってね」

「でも、その人はハーフではない、普通のエルフですよね?ということは、モノムさんとは、母親が違うわけですね?」

「うん」


 次に、モノムはブリーダーが試験に受かるだけではなく、いくつか審査があり、そのうちの一つに政府関係者に知り合いがいないこと……という条件があることを説明した。理由は簡単で、アーティフィカルシグナを通じて4層の情報を流されては困るというものだ。

 モノムが接触をしたのは、試験に合格し、セントラルエレベーターに乗るまでの間だったため、バレてはいないことを付け加えた。


「……というわけで、私はお兄ちゃんと情報交換ができるようになったんだ。5層の存在もその時に知った」

「セントラルエレベーターって、ボタンが4までしかありませんよね?」

「うん。ディザスターで4を押すと5層にいけるギミックがあるの」

「へぇ……。なら、この会議にグレッギーさんも呼びましょうよ」


 モノムは言葉に詰まった。そして、


「……昨日、死んだんだ……」


 と、か細い声で言った。


「えっ?」

「5層にはサーバールームがあって、ポルタランドを動かしているシステムがあるの。そこに強引に侵入したみたいで……」

「ごめんなさい」


 黙って話を聞いていた萌黄が言った。


「そりゃあ、ポルタ様への反逆だからな」

「ちょっと違うんだよ。ここからが本題。5層にあるポルタランドのシステムをマザーコンピューターって言って、その名前も『ポルタ』っていうらしいのね。マザーコンピューター『ポルタ』の生み出した人間やエルフの事を、ポルタのフラグメント……、略して『ポーメント』って言うの。ようは、オーバーテクノロジーの人工生命体ね」


 パステと萌黄は同時に声をあげた。


「えっ?」

「本物の人間やエルフのことを『純正』っていうんだけど、純正もポーメントも見た目も行動も、中身までまったく同じで見分けはつかない。そりゃそうだよね、私達、誰もそうだなんて知らないんだし、違和感なく付き合ってる」


 パステは恐る恐る言った。


「で、では、私も実はポーメントって可能性もあるわけですね?」

「いや、パステは純正だよ」

「どうしてですか?」


 モノムはポーメントと純正では子供は作れないこと、ポーメントは同種でしか配合できないと説明をした。

 つまり、ハーフエルフであるモノムやパステは純正なのである。データベースの出力にも、パステのところにはポーメントという表記はなかった。


「おい、じゃあ、あたしは?」

「萌黄も純正。魔法使いは純正なんだってさ」

「よかった……って言っていいのかな?つまり、アレだろ?スターダスト・グロウのメンバーはポーメントが混じっているかもしれないってことだろ?というか、あたしには、それのなにがダメなのかわからないぜ。別にいいだろ。ポルタは共通の敵だぜ」

「違う。スターダスト・グロウのメンバーには、純正も混じっている……っていうのが正しいんだ。ポルタランドの9割がポーメントだからね」

「はあ?9割?じゃあ、あたしたちは基本的に、プログラムと付き合ってるわけか。だから、ギッターにはこの話を聞かせたくなかったってわけか。純正かどうか区別できないし」

「うん。私が疑問なのは、なんでポーメントなんていうものがあるのかってことなんだよ。悪さをしているわけでもないし、純正に被害を与えているわけでもない。そうそう、4層だけは例外ね。4層はブリーダーを除いて全員純正」

「奴隷層ってやつか」

「そこも萌黄の認識は多分間違ってる。お兄ちゃんに聞くまで私も誤解していたけど、奴隷っていうの3層の奴隷じゃなくて、ポルタ直属の奴隷って意味らしいんだ。4層は電化製品は無いみたいだけど、3層なんかよりも平和で幸せな生活をしているし、のびのびと暮らしてるよ。本物の海で釣った魚を料理したりしてね。ランクとしては3層よりも、上なんだってさ」

「なんだよそれ……。じゃあ、ポルタランドって、一体なんなんだ?」

「それは私が聞きたいよ」


 ずっと黙っていたパステが口をひらいた。


「モノムさん。ビピルさんとかネザリウス様はどうなんでしょう?名門ドゥーリア家は純正ですか?」

「残念だけど、ドゥーリアはポーメントで確定してる。というより、パステ以外のエグゼクティブルートは全員ポーメント。その情報は、お兄ちゃんがセントラルエレベーターのアクセス権を調査して拾ったから間違いない。あとね、お兄ちゃんを殺したのはネザリウス」

「そうですか……」

「それで、昼間の話に戻るんだけど……。エグゼクティブルートの仕事って、なに?オーバーテクノロジーの人工生命体をポルタのために動かすことなの?でも、エグゼクティブルートもみんなポーメントだし、それは違うよね?」


 パステは困惑しながらも、


「エグゼクティブルートはポルタ様の代弁者です。エグゼクティブルートの言葉は、ポルタ様の言葉です」

「今もそう思うの?じゃあ、なんで純正とポーメントにわかれてるの?」

「うっ……。急に言われましても……。私も困惑しています」

「でも、パステ。萌黄が敵じゃないっていうのは、わかったよね?私達は純正なんだ。ポーメントじゃない。ポーメントは敵ってわけじゃないんだろうだけど、私達は1割の、貴重な純正なんだ」


 パステはしぶしぶ同意した。


「それで、モノムさんはどうしたいんですか?」

「私の目的はセントラルエレベーターのアクセス権の取得。それで1層にいって、ポルタを問い詰めたい。最初から、ずっとこれがゴールだよ。元々はどうしてメタリッド・グリンドールの記録がないのかって聞きたかったんだけど、今はそれだけじゃなくなってる」


 萌黄は言った。


「面白そうじゃん!」


 だが、パステは迷っていた。


「私はすこし、考えさせてください。もちろん、モノムさんがしたことは黙っているつもりです。ポーメントのことは隠さないと、3層が混乱してしまいます。知られると、どうなるか、想像もできません」


 萌黄はパステに質問を投げた。


「なあ、ギッターは処分されるのか?」

「その質問には政府の情報なので答えられません。それよりも、萌黄さん。未だに信じられないんですが、魔法使いっていうのはどういうもので、他にもいるんですか?」

「さあな。ポーメントみたいに、これもポルタがなにかしたんだろ?」

「そうですか……」


 会議は一旦、そこで終了した。

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