チャプター3
国家図書館で報道を見ていたモノムは、頭を抑えて弱った声で言った。
「すいません、気分が悪くなりましたので、早退していいでしょうか?」
ロングヘアーの男は頷いた。
「しょうがないね。それに、モノムはいつも遅くまで残って仕事をしているし、疲れも出たんだろう」
「次から気をつけます。念のため、明日も休ませてください。こんな状況なのに、申し訳ないです」
先輩たちは笑顔を作った。
「心配ないよ。ニュースの担当は他の部署だし、ゆっくりやすめ。クーリーさんにはこっちで連絡しておくから」
モノムはお辞儀をすると、具合が悪そうな表情で国家図書館を出ていった。
髭面の男は言った。
「あいつはハーフエルフだからな。半分は人間だ。だから、ああいう事件に気分が悪くなるやつもいるらしい」
「そうなのか。なら、今後も似たようなのが起きたらまずいな」
「俺達もスターダスト・グロウの逮捕に協力してやればいいだけさ。パステの対応も良かったし、解決は時間の問題だろう」
「ああ、そうだな」
だが、国家図書館を出たモノムは元気に歩いていた。
車で5分の距離なので、考え事をしながら帰宅した。
自宅のマンションに入ると、早速コンピューターに向かった。その長方形の部屋は壁沿いに長い机が置いてあり、ディスプレイが4台あった。キーボードやマウスは3つで、中央がマルチディスプレイである。足元は配線だらけだ。
その他、電子機器を調査するためのデバイスや、コンピューターのパーツなども置いてある。
扉の横の本棚には、技術書が並んでいた。モノムが読む本はこれだけではなく、アナリスト向けの本や経済、政治、法律、環境といった分野のもの、ライブラリアンやエグゼクティブルートの資格を取るためのものもある。技術書以外は別の部屋に置いてあり、そこは一部屋すべてが本棚で埋まっていた。3層のちょっとした図書館よりも高品質の書籍で埋め尽くされている。
モノムは椅子に座り、腕を組んだ。
ここから先は犯罪だ。
ポルタランドへの反逆に繋がり、見つかれば即、処分である。先に進めばもう、後戻りはできない。
大きく息を吐くと、モノムはアーティフィカルシグナを耳からはずし、机の上においた。
携帯電話を震える手で操作し、アドレス帳からライブラリアンのディレクター、ミラデュリスの番号をさがす。そして、ボタンを押した。
ディレクターはすぐに出た。
「モ、モノムです。お疲れ様です」
「どうした?さっきクーリーから具合が悪くて帰ったって聞いたぞ。大丈夫か?」
「はい、明日も休暇をいただきました」
「それよりも、電話なんかでどうしたんだ?シグナでいいじゃないか」
「じ、実は……その……。シグナをなくしてしまいまして……。耳が痒くてはずしたときに、下水にぽちゃんと……」
しかられると思ったモノムだったが、ミラデュリスは豪快に笑った。
よく考えれば、2層のエルフが犯罪に使うなどとは思わないだろうから、しかられることはないはずだ。3層の企業であれば、どういう管理をしているのだとしかられるだろうが、ここではそういったことはない。
「年に何回か、そういうことがあるんだ。下水なら、回収は無理か……すぐに新しいのを送るから……って、お前、明日も休みなんだよな?」
「はい」
「速達で送るよ。朝には届くと思う。自宅にいるんだろ?」
「その予定です。手間をかけてすいません」
「次から気をつけろよ?じゃあな!」
電話を終えると、モノムはテーブルの上のアーティフィカルシグナを指でつついた。
1層のオーバーテクノロジーの一つ、アーティフィカルシグナ。政府関係者にのみ配られるデバイスだ。
どういう仕組みで通信をしているのか?不明。
なぜ相手を思うだけで通信ができるのか?不明。
電力はどうしているのか?不明。だが、太陽電池の強力なもので、室内の明かりでも充電できると推測。
盗聴されているか?されていないと推測。
位置情報は特定されているか?されていないと推測。
プロトコルは?コンピューターと同じ、パケットであることがわかっている。
通信は暗号化されているか?されているが、解析済み。
中継している場所はあるのか?パケットを解析する限り、おそらくない。
誰でも使えるのか?おそらく使える。
ライブラリアンの仕事を終えたあとに、時間を作ってここまでは把握することができた。
あとは、このアーティフィカルシグナを3層に送ることができれば、向こうと通信ができる。携帯電話やメールと違い、サーバーを通さない仕組みであるため、極秘の通信が可能となるはずだ。
送り先はもう、決めてあった。スターダスト・グロウだ。
1か月前、パステの問い合わせに対し、犯行声明をアップロードをしたものは特定できないと告げた。ライブラリアンの他のメンバーも、他の仕事があったため、さっさと手を引いていた。
だが、モノムは執念で時間をかけ、特定することができている。引っ越しをされていればお手上げだが、おそらく大丈夫だろう。当然、パステにはこのことを伝えていない。
この行為は、完全にポルタランドへの反逆だった。
モノムはマウスを操作し、テキストを開いた。
本文は何度読み直したかはわからないが、もう一度チェックする。問題がないことを確認すると、印刷ボタンをクリックした。
すぐにレーザープリンタが唸りをあげて起動し、数枚の紙を印刷した。
紙を折りたたみ、アーティフィカルシグナとともに厳重に梱包をする。2層の輸送技術に問題が出ないことはわかっているが、万が一があってはいけない。
モノムはサングラスをかけ、帽子をかぶった。念のため、服も着替える。
マンションを出ると、自動運転の車を呼び止め、宅配センターへと向かった。
なかを確認すると、丁度、受付が一つだけあいた状態だった。注意を浴びたくないのでちょうどいい。
モノムは素早くあいているカウンターに向かった。宛先を3層のエリア3のリージョン6のホテルと伝えた。相手はパステとする。
もちろん嘘だ。
宅配センターをさっと出たモノムは、すぐに自宅のマンションへと帰宅した。
急いでコンピューターに向かうと、自作したツールを起動した。
これは、国家図書館へのハッキングツールだ。電源をオンにしたまま帰宅したため、国家図書館のモノムのコンピューターでも、受信用のツールが立ちあがっている。ディスプレイの電源は切っているため、バレることはないだろう。
国家図書館のデータベースについては全貌を把握している。権限のないものはアクセスできないが、今回のデータは権限がある。
システム管理部に移ってから、最優先でおこなったことだった。今では入社数年程度の先輩よりも詳しい自信があった。
もしリアルタイムで通信を傍受されていれば、これからおこなうことはすぐにバレる。だが、ログなどを監視しているものはいないし、特殊な方法をとらないと外部からの侵入も不可能なため、アラートのようなものもない。歴史を検索するなど、アラートが鳴る仕組みはあるが、この作業は該当しない。
そもそも、国家試験を突破してポルタに忠誠を誓ったライブラリアンが、コンピューターにハッキングツールを仕掛けて外部から侵入するなど、まったく想定されていなかった。
よくも悪くも、これがポルタランドだった。あのポルタでさえも、ポルタランドに穴は無いと言い切っているぐらいだ。
国家図書館に接続したモノムは、早速データベースを検索した。このアクセスログはリアルタイムで削除されていく。
先程の宅配情報はすぐに見つかった。登録されている、最新のものだ。3層に宅配される荷物は多くないので、そうなるのは当然だった。
モノムはデータベースを書き換え、宛先をスターダスト・グロウの住居かアジトかわからないが、関係する拠点にした。宛名は『ガイロン』とする。そこはマンションのようで、部屋の契約者だったためだ。
念のため、ガイロンという男のことも事前に検索しておいた。
彼は国家図書館に記録がある程度の有名人ではあるらしい。大柄でガタイの良い男で、運動の成績が優秀でなにかのスポーツの大会で賞を貰っているが、それ以上に法律に関するレポートや論文をいくつか出していた。
モノムはいくつかあるレポートの文体と、犯行声明の文体を比較し、クセがガイロンのものであるだろうというところまで推理していた。こういったものはプロファイリングの一環として、3層の警察の捜査で使われることもあるようだが、2層の解析ライブラリは更に優秀で、自動でマッチングをしてくれる。
やることはやった。
あとは成功を祈るだけだ。
-※-
その夜、アーティフィカルシグナでほかのエリアのエグゼクティブルートを呼び出したパステは、昼間の件について説明をした。
一番不安だったのは、テレビのインタビューでの自分の回答だったので、まずはそこが問題なかったかどうかを聞いてみた。
エリア1のマルジェドも、エリア2のビピルも、エリア4のワーディックも、エリア5のギルガンディーも、皆、パステの対応に納得していた。まさに、エグゼクティブルートは全員ポルタ様の代弁者であり、ポルタ様のために行動をしているため、他のエグゼクティブルートと意見の食い違いになることはありえない……、であった。
ギルガンディーは満足そうに、
「あれぐらいのインパクトがあれば、スターダスト・グロウとやらもそうそう無茶はしてこないだろう」
と言った。
「それにしても、ビルを破壊するなんて、よく思いついたな」
「いえ、それなんですが……、ここだけの話、私はなにもしていないんです」
「どういうことなの?あれってパステがやったんじゃないの?」
パステは、突然ペンダントのバリアが発動し、足元から白い光が出てきて破壊したと伝えた。光はディザスターに似ていて、あれを強力にしたようなイメージだと。
マルジェドは知らないと返した。
「20年のキャリアのなかで、こういったことが起きたことはないんですか?」
「そもそも、ディザスターを使う機会なんて、無いんだよ。エリア1は平和だしね。もしそれがディザスターやペンダントの隠された力だと言われると、納得するしか無い」
ワーディックとギルガンディーも同意した。
「それよりも、パステ。これについて考えるより、『異常気象』のほうが優先度は高いぞ?ライブラリアンのレポートは見ているだろう?」
「はい。起きる可能性が高いと、把握しています。前にマルジェドさんに相談したとおりに、政府の貯蓄は始めております。それでも足りずに被害はでてしまうでしょうね」
ワーディックが言った。
「私からアドバイスをするとするなら、支援の優先順位を決めておいたほうがいいと思いますよ。と言っても大げさなものではなくて、高くても食料の買える富裕層よりも、貧困層を優先するというようなものです」
ビピルが割り込んだ。
「でも、パステのところは今、建設ラッシュでしょ?グラディエーター・バトルの事務所のスタッフなんかもたくさん雇ってると思うし、無職やニートって減ってきてるでしょ?」
「ビピルさん……、『ニート』って、なんです?」
「働く気がない無職だよ」
それを聞いたパステは驚愕した。
「そんなのがあるんですか!それはポルタ様にとって、どう貢献しているんですか?」
「してないよ」
「えっ?」
「知らなかったんだ。なら、調べてみなよ。無職とニートの違い」
「わかりました!ありがとうございます」
結局、白い光の謎は解決しなかった。だが、マルジェドの言う通り、異常気象について、真剣に検討しなければならないことは事実だった。
-※-
次の日の昼、ガイロンのマンションに一台の車がとまった。
リージョンは4。貧困とまでは言わないが、裕福でもない。農村の多い地域だが、現在はリージョン5に出稼ぎにいくものが多かった。
そこは郊外の古ぼけた3階建ての建物で、周囲の住宅はまばらだった。マンションも設備も都市へのアクセスも悪く、ほとんどが空き家である。良い部分をあげるとすると、部屋が3LDKで広いという程度だ。
車は2層の自動運転のトラックである。荷物はモノムのものしかないため、それ1個を運ぶために移動してきた。
トラックはしばらく停止したあと、反応がないと判断し、スピーカーでガイロンの名前を呼び出した。流石にガイロンを含めた住民も気づき、ガイロンは何事かと走ってそとに出た。
見慣れないデザインのトラックは、荷台の扉がひらいていた。ガイロンが足を踏み入れてみると、スピーカーは鳴りやんだ。
奇妙だなと思いながら、荷台を見ると小さなダンボールがあった。それを持ち、トラックからおりると、扉が閉まり、トラックは走り去った。
なにが届いたのだろうと不思議そうにダンボールを見ると、ガイロンの目が見開いた。国家図書館のライブラリアン、モノム・クロムレックスとある。
「国家図書館とか、ライブラリアン……って、なんだ?」
胸騒ぎがしたガイロンは、急いで部屋に戻った。途中、住民からあれはなんだったんだと聞かれたが、適当に誤魔化した。
すぐにギッターと萌黄を呼び出す。2人とも何事かと尋ねるので、正体不明の荷物が届いたが、まだあけていない……とだけ伝えた。
緊急でアジトに集合と声をかけると、自分も小さなダンボールをバッグに入れ、家を飛び出した。
アジトはギッターの家で、車で10分ほどだ。
片側一車線だが、周囲の住宅がまばらな地域のため、信号もなく、渋滞も無い。周囲の景色は畑や田んぼだ。
ギッターの家は古い一軒家だが、屋敷といったほうがいい広さだ。周囲の地主である。塀に囲まれた宅内は車もたくさんとめられるため、メンバーが押しかけても問題なく、そとからは見えない。
彼は一人暮らしだが、スターダスト・グロウのメンバーが住み込みで家事をやっている。メンバーで固めているのはガイロンたち他の住民が話し合いにやってくることに対し、秘密を守るためのもので、当然、仕事の報酬は出る。
アジトはここの倉庫の地下にあった。
ガイロンは車を適当にとめると、倉庫に向かって歩き出した。
倉庫のなかは農作業に必要な道具やダンボール、木箱などが散乱しているが、奥に扉があった。その先には地下におりる階段があり、その先には会議室や寝室、風呂、トイレなどの部屋があった。突き当りが普段テレビを見ている部屋になるが、今回は会議室に入った。
ギッターはすでに待っていた。
ガイロンがバッグから小さなダンボールを取り出したところで、萌黄が入ってきた。
「どうしたんだよ、急に」
「これを見て欲しい。国家図書館のライブラリアンというやつから荷物が届いた」
「どこだよ、それ」
「わからん。だからお前たちを呼んだ。それに、運んできたトラックも怪しかった。普通のトラックじゃないんだよ。2層の自動運転のものだ」
「ふーん。まあいいじゃん。なかを見れば解決だし、あけようぜ」
ガイロンは頷くと、ガムテープをはがした。
そこには、梱包材で厳重に包まれ、ガムテープでグルグル巻きにしたなにかがあった。
「手紙と……ピンクのピアスか?」
萌黄が言った。
「そのピアス、どこかで見たことがあるぜ?」
ギッターは手紙に手を伸ばした。そしてすぐ、目を見開いた。
「とんでもないぞ、これ……」
「なにが書いてあるんだ?」
「国家図書館って、2層の政府の施設だぞ。ライブラリアンてのはそこのスタッフで、政府関係者だ。2層のな」
「はあ?つまり、あたしたちの存在がバレたってことかよ!どうすんだよ!」
「萌黄、落ち着け。どうやらそういうことじゃないらしい。そのピアスは『アーティフィカルシグナ』といって、相手を思うだけで通信ができる、2層の政府関係者にだけ配られるデバイスらしいんだ」
ガイロンは言った。
「そうか、これはパステやルートが耳につけているやつか。あれはアクセサリだと思ってたけど、高性能な通信機だったのか……」
「でも、そんなヤバいもんが、なんでうちに送られてくるんだよ」
ギッターは手紙をヒラヒラと見せた。
「これを書いたのは、ライブラリアンのモノム・クロムレックスという人物らしい。モノムもポルタへの反逆者で、俺達の味方だ」
「ありえるのか?2層のやつは、生まれた時からガッツリ調教されてるんだろ?ポルタ様に感謝ですー!って」
「だが、こいつはハーフエルフで、ポルタに反逆するために必死に勉強して、国家図書館のデータベースをハッキングできるようになったと書いてある。前から俺達にアプローチしたかったらしいが、アーティフィカルシグナを運ぶための用意が大変だったらしい」
「ほう。で?」
「俺達にまずやって欲しいのは、シグナを耳につけて、モノム・クロムレックスとイメージしながら触れること……だと。ようは、モノムが俺達に連絡を取りたがっている。当然、俺はやろうと思うが、どうだ?盗聴や位置情報の特定は無いらしい」
ガイロンと萌黄は頷いた。
「やれよ。これはチャンスだぜ。このことは政府も知らないはずだ」
ギッターはアーティフィカルシグナを耳につけると、モノムをイメージした。
すぐに、女性の声が聞こえてきた。
「モノムです」
ギッターはその、高度なテクノロジーに身を震わせた。2層にはこんな凄いものがあるのかと、驚愕する。
「あの……俺はギッターという者だが……。あんたがガイロンにこれを送ってきて……」
「良かった!ちゃんと届いたんだ。ということは、ギッターはもしかして、ガイロンの上司あたりかな?」
モノムは国家図書館のデータベースを見て、荷物が届いたことは把握していた。データは書き換え済みなので、記録上はパステに音声認識デバイスが届いたことになっている。
「ああ、そうだ。スターダスト・グロウは俺とガイロン、それから萌黄ってやつの3人が幹部で、俺がリーダーだ」
「全員そこにいるの?」
「いる。それで、手紙によるとあんたは俺達の仲間だって書いてあるが……信じていいのか?」
「うん、もちろん。私はずっとこの機会を待ってたんだ。2層にいる私だけじゃ、なにもできないからね。そっちにだって、私が協力するメリットはあるはずだよ?」
ギッターは強く同意した。
「こっちには情報がなにもないからな。アーティフィカルシグナなんて、今日初めて知ったよ。ガイロンも変なトラックに届けられたっていうし」
モノムは笑った。
「あれは自動運転システムなんだよ。2層の車は自分で運転しないんだ。そこらじゅうを走っていて、乗りたかったら手をあげると止まるから、場所を告げるだけで運んでくれる」
「……凄いな」
萌黄がなんだよと言うので、ギッターが説明をしてやった。当然、ガイロンと二人で驚く。2層のテクノロジーは凄いと感じる。
「ペンダントやディザスターも2層のテクノロジーなのか?」
「あれはアーティフィカルシグナと同じで、1層のテクノロジーだよ。どういう仕組みか、私にもさっぱりわからない。まあ、アーティフィカルシグナと違って私は触れたことも無いんだけどね」
「ディザスターなら持ってるぞ」
「えっ?なんで?」
ギッターはパステの前のエグゼクティブルートを襲撃した時に奪ったと説明した。だが、ボタンを押しても何も反応がなく、使い方が全くわからないと付け加えた。
「そうか、あの襲撃もスターダスト・グロウだったのか。ディザスターってのは指紋認証だから、登録した人しか使えないんだよ。私のところにあれば解析できるかもしれないんだけど、こっちに持ってくるのは厳しいかな」
「2層から持ってくるのとはわけが違うんだな?」
「うん。パステが運んでくれればいいんだけど、それは無理でしょ?」
ギッターは頭をかいた。それはいくらなんでも無理だ。
2人はそれから、お互いの情報を共有し合った。
時折、ガイロンと萌黄にも伝えたり、彼らの質問を投げたりするため、中断することもあったが、モノムは不満を漏らさずに付き合った。
モノムはなぜポルタに反逆するのかという質問に、自分がハーフエルフだから、純粋なエルフとは考えが違うのだと言った。実際は違うのだが、そこは説明する必要がなかったので省いた。
ハーフエルフと言っても、パステのようなエルフよりのものがほとんどだが、自分は人間よりの異色であると。
ギッターたちも深くは追求しなかった。
最後に、ギッターは言った。
「モノム。『魔法』というものを信じるか?」
「魔法?物語のあれ?信じるわけないじゃない」
「実は、萌黄は魔法使いなんだ。ディザスターみたいなことができる」
会話はそこでとまった。
30秒ほどして、モノムはなんとか口をあけた。が、
「ウソでしょ?」
というだけで精一杯だった。
「やっぱ、エルフも知らないんだな。人間のなかには極稀に、そういう能力を持ったものも生まれてくるんだ。これは、俺達が政府と戦うための切り札なんだよ」
「……確かに。もし、ペンダントを壊せるなら、話が変わってくる」
「ああ、そうだ。で、これからどうする?」
「しばらくはパステの様子を見たいんだよね。情報は定期的にそっちに流していきたいから、アーティフィカルシグナはつけておいて欲しい。ただ……バレたら問題なんだよ……」
「色を塗っちゃダメなのか?ピンクじゃなくていいなら、萌黄がつけている分には問題ないだろう。俺達もそういうアクセサリだと思ってたし、似合うだろう。こいつは黙ってりゃ、それなりにモテるんだよ。黙ってりゃな」
モノムの耳に萌黄の声が聞こえてきたが、無視した。
「なるほど!そんな単純なことでいいのね。ぜひ、やってよ。ただ、気をつけてね。パステとかにも通信できちゃうから」
「わかった」
「ところで、なんで『スターダスト・グロウ』っていうの?」
「ああ、それな。『阿伽羅流星群』にかけてるんだよ。俺達でもう一度、この世界を破壊する」
「そういうことね」
通信を終えると、ギッターたちは面白くなってきたと感じていた。2層から情報がやってくるというのは、大きな収穫だ。
一方、モノムも大きく息を吐き、充実感を得た。
大きなハードルを一つ超えた。明日からは仕事に戻り、パステから得た情報をスターダスト・グロウに流していくことになる。
幸い、パステからの信頼は十分に受けてきたため、隠し事をせずにすべてを教えてくれるだろう。逆に、こちらからも都合よく誘導していきたい。
「それにしても……魔法使いか……」
モノムは余裕があったら、こちらについても調べてみようと思った。
自分が検索できる歴史の範囲は狭いが、過去にそういう人物がいればいいなと思った。
それよりも重要なのは、セントラルエレベーターの攻略だ。
あれが自由に使えるようになれば、ポルタの元にたどりつくことが出来る。スターダスト・グロウのメンバーと乗り込めれば大きな前進だ。
1層がどういうフロアなのかは知らない。もしそこでオーバーテクノロジーの武器が手に入れば、ポルタの攻略になるかもしれない。フロアの状況を知らないので、エレベーターの扉をあけた瞬間、ペンダントとディザスター、もしかしたらそれ以上の武装をしたガードマンに囲まれる危険もある。そうなれば一瞬でアウトだ。
なんにせよ、まずはセントラルエレベーターだ。
公式の記録では、あれを非正規の手順で動かした記録は無い。
だが、非公式であれば、モノムは1件だけ知っていた。
具体的な手順は一切わからなかったが。
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