チャプター2
次の日。
エリア2のリージョン10の政府官邸に電話をしたパステは、事前にビピルから連絡を受けていたのか、バミューダ・オロウの連絡先を教えてもらったうえに、よろしくお願いしますとまで言われた。
続いて彼の自宅に電話をかけると、ヒマをしていたのか、すぐに本人が出た。
「はじめまして。私、エリア3のエグゼクティブルートのパステ・ルーヴェと申します。バミューダさんでしょうか?」
バミューダは見えないパステに対し、姿勢を正しながら言った。62歳とはいえ、彼は背も縮み、白髪のどこにでもいるような老人だった。
「あの……あなたから連絡があるということは、事前に政府から連絡を頂いていたんですが……その……正直驚いております」
「はい。私達のエリアで、あなたのスタジアム運営の経験を貸していただけないかと思います。詳しいことはこちらにきてお話ということになるんですが、お時間はあるでしょうか?」
ノーとは言えない。相手はエグゼクティブルートだ。高圧的に、こいと命令されないだけマシだが、断ることはできない。
「もちろん、交通費や宿泊費はこちらで用意します。2泊ぐらいの奥様との旅行という形でエリア3のリージョン6にきていただいて、そのうちの1日、時間を取っていただければと思いますが、いかがでしょうか?スーツなどのかしこまった服は不要です」
「そこまでしていただけるのでしょうか?」
「我々も、これからおこなう興行に対してのアドバイスを頂きたいんです。ギブアンドテイクです」
「日時はこちらに任せて貰えるのでしょうか」
「はい。早いほうが嬉しいですが、おまかせします。ホテルはこちらで用意いたしますので、日時と交通費と謝礼を振り込むための銀行口座をそちらのリージョンの政府官邸に伝えてください」
「かしこまりました」
「それでは、よろしくお願いします」
パステは電話を切ると、仕事に戻った。
その日のうちに、バミューダが明後日に向かうと連絡を入れてきた。次のルート試験の日だ。当然、問題ない。
パステはホテルに連絡し、リージョン6の政府官邸を通じて自分の一つしたのフロア……つまり、11階の通常の最上階のスウィートルームを2泊予約させると、料金を指定の口座に振り込んでもらった。
-※-
2日後、電車に乗ってパステのホテルにやってきたバミューダは、その豪華さに驚いた。早速やってきたホテルマンが老夫婦の持つキャリーケースを運び、フロントへと案内をした。
フロントの女性に名前を告げると、すでにパステから話を聞いていたこともあり、改まって手続きを開始した。その場でパステにも連絡を入れる。
案内されたスウィートルームに老夫婦を驚かされた。まるで王宮のような豪華な調度品に囲まれ、何部屋もある空間は2人には豪華すぎた。
ホテルマンは、
「では、時間がきたら迎えにきますので、しばらくお寛ぎください。冷蔵庫のものは自由に飲んでいただいて構いませんし、ルームサービスも遠慮なくどうぞ……と、パステ様に伺っております」
と、去っていった。
ふかふかのソファーに座ったバミューダは驚いた。
「こんな待遇、受けたことがないよ……」
「私もよ。でも、これはそれだけの仕事ってことよね?」
「らしいな。エリア3の新しい興行と言っていたが、なにを聞かされるのか」
「冷蔵庫のものは自由にって言っていたけど、ワインとかあるのかな?」
バミューダは両手を返した。
「おいおい、俺はこれから仕事だぞ?エグゼクティブルートに会うのに、それはまずいだろう?」
2人は笑った。
観光ガイドを開き、どこに行こうかと話しながら30分ほど待っていると、扉がノックされた。先程の男が呼びにきた。
「なあ、俺は本当にスーツに着替えなくて大丈夫なんだろうか?」
「はい、そう伺っております。なので、このままいきましょう」
バミューダは頷くと、部屋を出た。
一度エレベーターでしたまでおりたあと、パステのフロア専用のエレベーターに乗り換える。その前に、エレベーターの前にいるガードマンから危険物の所持のチェックを受ける。ここで、ホテルマンは去っていった。
彼はパステのことはテレビで見ているし、ディザスターでアルマ・モータースの役員を処分したシーンも見ている。これから会うのはそんなエグゼクティブルートだと思うと、緊張してくる。
ガードマンに連れられてパステの最上階のフロアに向かうと、会議室の扉をノックした。
「バミューダ様がきました」
「はいってください」
扉をひらくと、モバイルコンピューターを叩いていたパステが立ち上がり、お辞儀をした。実物はテレビで見るよりも小柄だった。
「遠いところをありがとうございます。私がエグゼクティブルートのパステ・ルーヴェです」
「バミューダ・オロウです。よろしくお願いします」
バミューダはパステに促されるまま、対面についた。
早速、話が始まった。
まずはパステが国家図書館で入手した情報について、深く尋ねていった。それは、バミューダのリージョン10でのキャリアについてであり、スタジアムの運営というのが具体的にどういうものかという質問だった。面接ではなく、単純な疑問だ。
バミューダの回答としては、観客を増やすこと、満足度をあげること、単価をあげることの3つを軸とするものだった。
パステは言った。
「つまり、試合を盛りあげて、喜んで帰ってもらうということですか?」
「はい。試合を盛りあげるといっても、試合をするのは我々ではなく球団の選手ですから、我々がやることはライバルとの対決だと煽ったり、選手の記録がかかっていると煽ったり、負けると順位が下がるから応援にきてくれと、球場で試合を見たいと思わせることですね。ようはプロモーションです」
「なるほど」
「満足度というのは試合で勝つのが一番ですが、清掃やスタッフの態度、スタジアムの雰囲気などの細かい部分も重要です。選手と子供のコミュニケーションなどもありますが、そういうものはスタジアムではなく、球団のプロモーションになります」
「ありがとうございます。では、単価というのはどういうものでしょうか?試合によって、料金が変わるのでしょうか?」
「ドリンクや食事、グッズ類ですね。チケット代、以外の部分です」
パステは頭をかいた。
「勉強不足で申し訳ないです。野球というのは、飲食をしながら観戦するものですか?」
「はい、お祭りみたいなものだと捉えてください。グッズというのは、贔屓にしている選手のシャツやタオル、マグカップ、チームのマスコットのキーホルダーなど、色々とあります」
「ありがとうございます。あとひとつ、失礼な質問ですが、これを適当な企業に任せるのとバミューダさんに任せるのでは、得られる成果はぜんぜん違うのでしょうか?」
バミューダは笑顔で頷き、ぜんぜん違うといい切った。そして、
「今回私が呼ばれたのは、エリア3でも野球を本格的におこなうという話になるのでしょうか?」
と言った。
「いえ、そうではないんです。そのまえに、一つ。ここからの話はまだ企画段階の手前のもので、極秘のものです。口外してはいけません。大丈夫ですか?」
「もちろんです。秘密は守ります」
パステはプロジェクターの電源を入れ、モバイルコンピューターと接続した。
大きな画面にはパステの作成したプレゼン資料が映された。
グラディエーター・バトルと書かれているのを見て、バミューダはなんだろうと思った。
パステがキーを押すと、次の画面に切り替わった。
画面下部には楕円形のフィールドがあり、闘技場イメージ図と書いてある。その上には、闘技場での戦士によるバトルと書いてあり、近接武器の使用のみ許可とあった。
説明をしたパステがキーを押すと、更に次の画面に変わった。
政府によるギャンブルとあり、お金の流れが書いてあった。勝者にかけた費用の2割程度をマージンとし、残りを的中者で分配とある。
「……このマージンは、政府のものと、戦士に支払われるものにわけられ……」
パステの説明を、バミューダは慌ててとめた。両手を前に出し、慌てている。
「ちょっ……ちょっと待ってください。エリア3では人間同士に殺し合いをさせ、賭け事をするというのですか?」
「ええと……、そう言われると印象が悪くなってしまうのですが、目的は別のところにあるんです。貧困層が勉強以外で裕福になるための仕組みが目的です。エリア2では、スポーツの選手はヒーローになりますよね?神様という例えは納得できませんが」
「ですが……その……これはスポーツではありませんよ?」
パステはモバイルコンピューターから手をはなした。
「そうなんですか?」
バミューダはプロジェクターの画面を指差し、
「スポーツでは死者はでません。野球ではボールが当たって死んでしまうことも稀にありますが、殺すことを目的としていない、競技なんですよ」
「そこは私達エルフとの認識の問題ですね」
「エルフは人間が死んでもいいと?」
パステは慌てて否定した。
「違うんです。私達はスポーツの良さもわからないんですよ。だから、仮にこれをやったとして、人間が喜ぶかどうかもわからないんです。ルートたちと話し合いをしましたが、誰もわかりませんでした。目的は先程も言ったとおり、貧困層が勉強以外で裕福になるための仕組みを作ることと、政府の財政を豊かにすることです。だから、誰も見なかったり賭けないものなら意味はないんです」
「すこし気を悪くするかもしれませんが、よろしいですか?」
「遠慮なくどうぞ」
「先日、あなたが処分したアルマ・モータースの役員の映像がありますよね?あれに興奮するものたちのホームページがあることはご存知ですか?」
パステは苦い顔をして頷いた。そこは別に構わないが、壁紙サイトはいただけない。目的が自分の能力ではなく容姿に関することなのは明らかだが、内容はあくまでもエグゼクティブルートの実績を褒め称えるものであり、やめろと言えずに放置をしている。
「ああいう無関係な人たちは殺し合いで喜ぶと思います。ですが、このグラディエーター・バトルが続いていくうちに、殺された者の家族や殺した相手……というのが増えていくわけです。そうすると、それは不満の種で反乱に繋がりませんか?」
パステは真顔で言った。
「それはあなたの意見ですか?人間としての意見ですか?」
バミューダも真顔で言った。
「人間としての意見です」
パステは腕を組み、
「3分、時間をください」
と言って天井を見上げた。
「では、これが木刀など殺傷能力の低いもので、ギブアップもありというものだったらいかがでしょうか?怪我はあると思いますが、死者の数は減ります」
バミューダは腕を組んだ。
「競技性を高めるというわけですね?それであれば、問題ないと思います。問題ないどころか、盛り上がると思います」
パステはホッとした。
それを見ていると、バミューダはパステは全力で仕事をしているだけで、悪意はないのだと理解できる。パステは自分の意見を押し通す暴君ではない。
「バミューダさん、こっちに引っ越しませんか?費用は全て政府が負担します。我々と一緒に、グラディエーター・バトルを成功させるための手伝いをして頂けないでしょうか?」
バミューダは考えるまでもなく、ぜひと頷いた。
それからパステはプレゼン資料を説明し、バミューダが問題点を指摘していった。
熱の籠もった長い話し合いは夜遅くまで続いた。妻を部屋に残してきたことを思い出したバミューダは、もっと話をしたかったが切り上げることになった。
彼は旅行という名目でやってきたが、こっちのほうが面白く、続きをやりたい。妻には謝ればいい。そう思ったバミューダが明日もまた話をしたいということをパステに伝えると、彼女は笑顔で頷き、今日の話をまとめて資料を作り直すといい、別れた。
パステはそのままモバイルコンピューターに向かい、今日の話を全ルートに送信した。草案を出せという指示を出しており、面白いアイデアを持ってきてくれるかもしれないため、伝えたのはエリア2から運営キャリアを持っているものにアドバイスを貰うということと、人間は殺し合いを希望しないので競技性を高めるということだけを出した。
そして、2日後の昼に集合ということを伝えた。アーティフィカルシグナでは難しいのでスケジュールを調整しろということと、途中まででもいいから考えた案をもってこいとも付け加えた。
ビピルにもバミューダがエリア3に引っ越しをすることを伝えておいた。リージョン10には移転がスムーズにいくように伝えておいてくれるだろう。
メールを確認すると、ネザリウスからのものがあった。
ルートの2人は候補が見つかったので、ポルタの辞令を受けて10日後ぐらいには3層にくる予定だと書かれてあった。
プロフィールの資料が添付されているのをざっと読むと、そこそこ優秀な人材で、素直なのであとはそっちで教育をしてくれと書いてあった。どちらも40代の男性らしい。
また、今日中に連絡をくれと書いてあったので、アーティフィカルシグナに触れた。
ネザリウスはすぐに出た。
「パステです。ルート試験の結果、確認しました。ありがとうございます」
「ああ、口頭で補足したいことがあったんだよ」
ネザリウスはそういうと、面接の状況などを細かく説明した。
「……というわけだ。どちらもお前やビピルのニュースに強く影響されていて、お前と一緒に働きたいと熱く語っていた」
「すこし恥ずかしいですが、嬉しいです」
「2層の反応は相当いいよ。自信を持って続けてくれ」
「ありがとうございます!ポルタ様のためにも、頑張ります!」
「トラブルはないか?」
「はい、大丈夫です」
「わかった。では、引き続き頼む」
ネザリウスが通信を切ると、パステは嬉しくなった。2層の評判がいいということは、今やっていることは正しいということになる。
パステはグラディエーター・バトルもぜひ成功させたいと思い、資料の作成に取り掛かった。睡眠時間など、いくらでも削ってやると思いながら。
一方、ひとつ下のフロアの部屋に戻ったバミューダは、妻に3つ、お詫びをした。
一つは今日の会議が長引いたこと。もう一つは明日も会議をすること。最後に、エリア3に引っ越しをすることだ。
2つめまでの説明で妻は怒ったが、引っ越しの話にすべて吹き飛んだ。スタジアムの運用の仕事が終わり、これから余生ということでエリア2の端のリージョン10に引っ越しをしたばかりなのだから、当然だった。
「あなた、パステ様になにを吹き込まれたの?」
「吹き込まれたんじゃない。俺がやりたいんだ」
「でも、内容は言えないんだよね?」
「ああ、しばらくはな。だが、これは俺の人生のなかで最大の仕事なんだ。これから、俺が歴史を作るんだ」
妻は微笑んだ。夫の目つきが現役のものに変わっていたからだ。
それで全てを察した。ならば、すぐに住居を決めて引っ越しをしようと。その手配は自分がするから、バミューダには使っていい予算を聞いておけと告げた。
「明日の観光も、別に明日じゃなくてもいいわね。このリージョンに住むことになるんだし」
「ああ、そうだ。こんなチャンスがやってくるなんて、パステ様に感謝だな」
「違うわよ。ポルタ様に感謝……でしょ?」
バミューダは頷いた。
-※-
2日後の昼。
会議室にはすでに8人のルートが座っていた。それぞれの前にモバイルコンピューターがあり、ここにプレゼン資料が入っている。グラディエーター・バトルのそれぞれの考えた草案だ。
扉がノックされ、パステとバミューダが入ってきた。
「紹介します。この人はバミューダさん。エリア2の野球のスタジアムの運用の責任者だったかたで、2年前に引退をしたばかりです。これからの我々の興行の運用について、アドバイスを頂く形になります」
バミューダは頭を下げた。
「バミューダ・オロウです。よろしくお願いします」
ルートたちも頭を下げた。全員、ノウハウはなにもないため、彼が重要な役割になることには気づいている。
パステとバミューダが中央に席に座ると、パステは早速本題に入った。
「では、一人ずつ説明をお願いします。この時点での否定は無しで、まずは案を一通り聞きましょう。メモは私が取ります」
パステから向かって左端のリージョン1のルートから、プロジェクターを使って説明をしていった。その間、パステは高速でキーを叩き、箇条書きでメモを残していった。
パステを含めた全員の話が出ると、質疑応答や、ブラッシュアップ案、否定意見などが飛び交った。
バミューダも遠慮なく、エルフたちの話に割り込んでいったが、エルフたちは嫌な顔ひとつしなかった。ルートもエグゼクティブルートも、ポルタランドのために仕事をしているため、人間の意見と見下すことはなく、良し悪しのみで判断をしている。
休憩もなく討論を続けた結果、夕日が沈む頃、ある程度の意見がまとまった。
ルールはこういったものだ。
闘技場のフィールドは半径50メートルとする。
試合は1対1のシングル、2対2のダブル、3対3のトリプルとする。
試合の内容は事前に新聞やニュースで伝えられ、掛け金とともに投票チケットを渡される。これは闘技場現地でもいいし、各リージョンにこれから作る政府の投票施設でもできる。
投票はどちらが勝つかと引き分けを入れた3パターンがある。ダブル以上の試合の場合、どちらが何人残って勝つかや、何人残って引き分けるかという賭け方もできる。
政府の取り分は2割。そこから運営費や選手の参加費用、勝者への配給に分配される。政府側としては、どちらが勝っても同じように儲かる。
使ってよい武器はレギュレーションによって決められた材質、サイズ、重さの近接武器であり、盾を使う場合は武器に含まれる。例えば剣の場合、両手で持つ大型の剣でもいいし、片手で使える剣と盾にしてもいい。
防具は頭部と金的を守る最低限の条件を満たしていることと、指定の材質のものであれば好きにして良い。防御力を重視するか、スピードを重視するかは選手の判断とする。
試合の時間は30分。片方がギブアップするか戦闘不能になった場合に試合終了となる。なお、治療費は政府からは支払われないので、選手の責任とする。仮に負けても、傷がいえたあとに修行をし、再度チャレンジすることも可能だ。
勝ち続けるとランクがあがり、近いランクの者と優先的に試合をすることになること。また、特別な報酬の出るトーナメント戦のようなものも、競技の人気によっては作っていく。
最後に、ポルタ様に感謝……というものだった。
パステがまとめたところで、バミューダが気づいた。
「選手というのは、申請すれば誰でも参加できるようにするのですか?」
あるルートは腕を組んで言った。
「確かに、それだとまずいね。戦えない素人が参戦しても盛り上がらない」
「いえ、そういう話ではないです。例えばスポーツの場合、チームというのがあるじゃないですか。有名なところでは、先日問題になったブラックバーズのようなものです。この競技は3対3のものもありますから、球団のようなチームというのは必要ではないでしょうか」
パステは頷いた。
「私達の目的は貧困層の救済ですから、例えばリージョン1の貧困層にリージョン10の試合に出ろと言っても、気軽には参加できません。そういった意味では、政府の認定する事務所や団体のようなものを企業に作ってもらい、登録してもらう形はいかがでしょうか?交通費やトレーニング費用、治療の費用は企業の出資ということができますし、私達は企業から税金がとれます」
ヤノヴァンが言った。
「スポンサーのようなものでしょうか?企業の利益は賞金の一部を得ると?」
「いえ、それではダメです。お前にはこれだけお金がかかったんだと言われ、大部分を持っていかれても困りますし、政府が何割と決めるのは難しいです」
「なるほど……」
ルートたちが悩んでいると、バミューダが声をあげた。
「それは、グッズやプロモーションからということでどうでしょうか?」
「グッズやプロモーション?」
「はい、選手のグッズを、所属する事務所や団体のみが作成していいとするわけです。スター選手が現れれば、ポスターやカレンダー、シャツ、キーホルダーなどが飛ぶように売れますし、テレビの番組やCMに出ることだってあると思います。スポンサーが車メーカーであれば、スター選手を自社の宣伝に使って、自社の車が売れるようになれば、十分な利益ですよね?」
全員、なるほどと頷いた。
「序盤はスター選手などは現れませんので、しばらくは残念ながら赤字でしょう。なので、最初は大企業のみが参戦できる形になってしまいます」
「では、政府が助成金を出しましょう」
「ただですね、パステ様。グッズの売上は馬鹿にできないんですよ。これを全額、企業にくれてやってもいいものでしょうか」
「そこは問題ありません。私達は闘技場のショップの場所代や税金という形で取れますので。飲食店なども同じなので、民間に任せましょう」
バミューダは頷いた。今回の運営は企業ではなく、政府なのだと。
ロニールが言った。
「闘技場の建設はどうしますか?いきなり全リージョンでやりますか?」
「できれば最初は1か10が良いのですが……集客を考えると難しいですね。私がいるからというわけではありませんが、中心の5か6の郊外にしましょう。経済効果も狙いますので、あまり発展していないところをロニールさん……あ、いえ、やはり候補地探しはライブラリアンに頼みます。みなさんは投票施設の件をはじめ、色々動いてもらわないといけないので」
「かしこまりました」
パステはそう言うと、各ルートにやってほしいことの指示を出した。
そして、バミューダには今日の話をまとめた資料作りを頼んだ。メールアドレスを伝え、出来上がったら送ってくれと言うことと、最初のテレビへの発表のときにはエリア3にきてほしいと告げた。
「引っ越しの件は妻も了承済みです。住居を探すので、いくら予算を使っていいかと聞かれております」
「あなたへの給料もありますよね。これぐらいでどうでしょうか?」
パステの出した数字は、予想を遥かに超えていた。引越し先には豪邸が建つし、年収も現役時代の5倍だった。
「その分、絶対に成功させなければなりません。引越し費用はこのリージョンの政府官邸に請求してください。話をしておきます。契約書は次にくる時までに用意します」
「全力で仕事します!ポルタ様のためにも!」
パステとルートたちは笑顔で頷いた。いい答えだ。
バミューダは帰宅の日ということもあり、お辞儀をして会議室を出ていった。
あるルートは言った。
「いいアドバイザーですね。我々だけでは殺し合いになっておりました」
「そうですね。ビピルさんは知らなかったので、ライブラリアンに頼んで候補を探してもらったのですが、バミューダさんがヒットしたんです。最初は、エルフは人間に殺し合いをさせるのかって、怒られちゃいました」
ルートたちは全員が驚いた。エグゼクティブルートにそこまで言うのかと。
「いえいえ、私の言い方が悪くて、誤解だっただけですよ。ただ、イエスマンでないのは良かったと思います」
会議が終わると、ルートたちは部屋を出ていった。見送ったパステは会議室に残ると、アーティフィカルシグナを使ってモノムを呼び出した。
「すいません、一つ仕事の依頼があるのですが、経済効果を最大限に高めてほしいので、時間がかかる仕事になるんです。こういうのは、モノムさんに直接頼むのではなく、正規のルートで窓口に依頼するべきでしょうか?」
「いや、別に私でもいいよ。大掛かりなら私からマネージャーに報告しておくし、パステも私に直接言ったほうが楽でしょ?」
「ありがとうございます」
「これって先日の人材探しの続き?」
「はい、そうです。説明が長くなりますが、時間は大丈夫ですか?」
「うん、いいよ」
「実は……」
モノムはパステの話に引き込まれていくのがわかった。
最初は凄いことを始めるものだなと感心していたが、全貌がわかってくるにつれ、貧困問題の解決に迎えるかもしれないと理解した。23歳の新人が、よくもここまでプランを練ったものだと感心する。
「わかった。リージョン5と6の駅から近い場所ね。経済効果ってことは、そのへんの地価をあげたいわけね」
「はい、そうです。グラディエーター・バトルが盛り上がれば、ホテルや飲食店、住宅などが広がる見込みでいます」
「あとはハイウェイからのアクセスだね。わざと距離をおいて、途中にドライブインなんかが作れるようにしてさ、試合前にご飯食べていこうなんてシナリオもいいかもしれないね。あー、あと、観光地に近い場所ってのも相乗効果があるかもしれない。遠方のリージョンからきた人は、せっかくきたんだしってことで、ついでにいくかも」
パステは声をあげて喜んだ。
「いいですね!そこまでは考えておりませんでした。モノムさんに相談してよかったです!」
「そういったシナリオ付きでいくつか候補地をあげて送るから、あとはそっちで考えてよ。3日ぐらい、時間をくれない?」
「はい、ありがとうございます!」
「グラディエーター・バトルの話はマネージャーに言ってもいいよね?」
「それは問題ありません。3層に伝わらなければいいです」
「わかった。じゃあね!」
通信が切れると、パステは笑顔でモバイルコンピューターをたたみ、会議室をあとにした。
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