ポルタランド

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プロローグ

プロローグ 世界の終わり

 テクノロジーが発達した世界があった。

 世界は生物の仕組みを解明した。

 これにより、病気で亡くなるものが無くなり、人類は事故が起きない限り寿命まで生きることができるようになったうえ、寿命自体も伸ばすことができるようになり、人間は120歳までは生きることができるようになった。長いものは160歳を超える。

 長すぎる人生に飽きてしまった人のために、安楽死が認められるようになったぐらいだ。

 同じ技術で農作物の生産量を増やすことができた。これにより、寿命が伸びて爆発的に人口を支えるだけの食料を補うことが出来た。長寿により、あっという間に3倍に増えた世界の人口をカバーしてもなお、余る。

 クリーンエネルギーの進化により、環境汚染も無くなった。超高層ビルの建設技術も進化し、土地もそれほど必要なくなったことで、自然も維持できるようになった。それらのビルが地震や竜巻、津波といった大自然の脅威から解放されているのは言うまでもない。

 テクノロジーの最も得意とする、仮想空間での娯楽も当然進んだ。自宅にいながら楽しめる娯楽も無数に増えた。

 面倒なことはすべてコンピューターがやってくれる。昔、物語のなかで展開されていた理想の未来というものがそこにあった。無いものといえば、瞬間移動の装置や宇宙を旅行し、他の惑星に移住するといったことぐらいだ。


 人類の幸福度はピークだった。住むところがあり、食事にも困らず、将来への不安も何もなくなった。

 当然、犯罪はゼロであり、戦争も何もない。

 人類は武器を捨てた。不要になったからだ。警察、軍、傭兵、武器職人など、争いに関わる職業の者は解雇となったが、仕事はする必要がなかったし、時間を潰すための娯楽は無数にあったため、戦争廃止によるクレームはゼロだった。

 科学者たちもやることが無くなった。これ以上、進める研究がなにもなかったからだ。

 コンピューターの進化はもう十分だし、車や飛行機の移動速度があがったとしても、もう、誰も喜ばない。むしろ、有り余る時間を使うために、遅い乗り物のほうが喜ばれるぐらいだ。

 医学も同じだった。万能な錠剤を飲めばどんな病気でも治ってしまうため、診察というものは必要なかった。また、寿命が伸びたところで誰も喜ばない。120年でも長すぎて安楽死する人がいるぐらいだった。

 だが、仕事がなくなるといっても人類は学んだ。

 子供は学校にも行くし、卒業後もそれぞれが好きなことを学んだ。テクノロジーの進化が不要と言っても『維持』は必要だったためだ。

 勉強は強制ではなかったが、人口自体が多いために人材は豊富だった。


 -※-


 ある日、科学者の一人が言った。海の上に人工の島を造らないかと。

 テクノロジーを集結した、堅牢な人工の島だ。

 人類はなぜそんなことをするのかと首を傾げたが、面白そうだと計画に賛同する者もチラホラといた。

 すぐにプロジェクトが始まった。


 まず、海の上に白く太い柱を無数に設置した。それを土台に、最初のフロアを作った。

 白く丸い人工的なフロアを構築すると、土や植物、動物を輸送した。人類はまだ移住していなかったが、人が10億人住んでも土地が有り余るほど、巨大なフロアだった。

 生態系が計算されたバイオスフィアであるそれは、すぐに独立した世界を構築した。

 次に、そのフロアから柱を建て、500メートルほど上空に小さなフロアを構築し、生態系を作った。これはバランサーと呼ばれるエリアで、重心を担うものだった。

 更に1000メートルほど上に5億人が住めるエリアを構築した。

 その2000メートル上に数十万人が住めるエリアを構築した。海上から3500メートルの高さで気圧や気温の影響を受けるが、コンピューターで制御されているため快適に生活できる。

 そして、最後に2500メートル上に頂上のフロアを作った。

 これらのフロアは中央の『セントラルエレベーター』でいききできるようになっていた。

 人工の島が完成すると、誰かが発案者に言った。

「ここに移住するのか?」

 と。

 だが、発案者は首を横にふった。移住はしないと。

 発案者は暇だったからこれを作っただけだった。


 プロジェクトは解散したが、せっかく作ったのだからと、移住するものもいた。広大な土地は不要だったため、1500メートルのエリアに集まって住むことにした。数十万人のエリアは半端な広さだったため、活用はされていない。大自然だけが残された。

 一部は面白がって6000メートルの頂上のエリアに住んだ。1500メートルのエリアとはセントラルエレベーターで繋がっていたが、お互いの交流は無かった。

 そこは、国として認められるようになったが、すでに政治というものもなかったし、通貨は共通、国境もなく移動は自由となっていたため国家である必要はなかったが。

 リーダーはいるが、シンボルとして存在しているだけでリーダーシップは不要だ。人類は世界の好きな環境の場所に住んで好きなことをして生活をすればよかった。


 -※-


 更に数百年が過ぎた。数百年が過ぎても、人類のメンバーが変わっただけで世界はなにも変化はなかった。

 その世界で、何気なく天体望遠鏡を見ていた天文学者の男がいた。

 天文学は人類が住める遠くの星や、貴重な資源のある星、異星人の存在などと騒がれていた時代もあったが、この星で十分なのではるか昔に廃れた科学だった。人工衛星の打ち上げはあっても、人を乗せたスペースシャトルが飛ぶことは無かった。

 それでも、興味を持って宇宙を観察する者が無くなったわけではなかった。

 彼もその一人である。

 いつものように望遠鏡を覗くと、見たことのない惑星があることを見つけた。サイズが大きく、すぐにわかった。

 おや?と思い、コンピューターに指示をして人工衛星から観察をしてもらうと、それらは流星であることがわかった。

 彼がこれを『惑星』と思ったのは、流星が無数にあり、望遠鏡からは巨大は惑星に見えたという理由だった。

 問題なのは、その流星群がまっすぐこの星に向かっているということだった。コンピューターの計算によると、3ヶ月後に衝突ということがすぐにわかった。

 すぐにわかったが、コンピューターはなにかをしてくれるわけではなかった。世界に武器は無かったのである。

 流星は100や200という規模ではなかった。世界中を覆い尽くすほどの範囲で、1ヶ月はふり注ぐ量があった。

 その膨大な量から、『阿伽羅流星群あからりゅうせいぐん』と呼ばれた流星群のニュースは、すぐに世界に飛んだ。


 脅威の無くなった幸福な世界だったが、宇宙からの脅威が消えたわけではなかった。隕石が落ちてくることは何度もあったが、地上の一箇所に落ちるだけで、あらかじめ位置を予測して避難しておけばよかっただけの話だったため、今まで問題はなかった。

 だが、今回の阿伽羅流星群はそうではなかった。地震や竜巻、津波といった脅威から解放されたビルも耐えられないだろうと、コンピューターは素早く計算してくれた。

 世界中を覆い尽くすほどの範囲でそんなものが降り注ぐ以上、逃げる場所はどこにもなかった。宇宙に逃げることもできない。

 つまり、世界は終わるということだった。


 人類は悪あがきをしなかった。楽しかったし、まあいいかぐらいの気分で阿伽羅流星群の衝突を待った。

 阿伽羅流星群は世界を一瞬で崩壊させた。

 建物は粉々になり、地表を削って海へと流していく。海の水位はあがっていくが、それに気づく人類はもういなかったし、大陸もなかった。

 1ヶ月後、世界は海だけが残った。その海の生物も生態系が変わり、ほとんどが全滅した。陸や空の生物が全滅したことは言うまでもなかった。

 一部を除いて。

 数百年前の人工の島は無傷だった。海上に近い一番下の10億人が住めるフロアは海の水位の上昇で沈んでしまったが、バランサーフロアから上は無事だった。

 頂上のフロアに住んでいたものが数百年をかけて科学を進化させ、バリアを作成していたためだった。


 これにより、人工の島は守られた。

 そこではなぜ科学を進めていたのか?その答えは、信じられないものだった。

 頂上のフロアには数百年前にポルタと呼ばれるものと7人の天使が降臨したという。それらは全員女性でエルフの耳を持ち、明らかに人間ではなかったという話だ。

 ポルタは阿伽羅流星群を予測し、バリアの研究をさせた。人工の島を作った時と同じように、面白そうだとプロジェクトに関わるものも増えていった。

 7人の天使は研究のサポートに回り、また、人間との子供を作った。生まれてくる者はハーフエルフと呼ばれるが、エルフの血が濃く、耳は長かった。ハーフエルフ同士の交配を続けていくと、徐々にエルフの血が濃くなっていくらしいが、人間の血が絶対に混ざるために100%にはならないらしい。

 こうして、世界は滅んだが、人工の島だけはポルタのおかげで守られた。

 この人工の島はその名前を取って『ポルタランド』と呼ばれ、未来を予言できる神様、ポルタのおかげで助かった人類は、彼女の統治のもとで新しい時代を歩むこととなった。


 2000年ほどの月日が流れた。


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