第二四話 ご褒美は下校のあとで
「男二人でカキ氷とかマジキモイんだけど? さっさと食べて出て行ってくれる?」
「良いですね。できればもう少し蔑んだ目つきで言ってください」
いよいよ文化祭当日が近づいてきた。
我らが1-6で催す予定の夏カフェだが、けっきょく水着使用の許可が降りなかったので綾小路家から侍女服を借りてきてメイド喫茶をするという方向で落ち着いた。
ただ、ドS喫茶というコンセプト自体に変更はないため、ウェイトレスおよびウェイター担当は当日に備えて目下罵倒の練習中である。
「あ、あの、セトくん、よかったらウチらでちょっと練習してみない?」
何故か名も知らぬ女子たちにそんな要求をされる。
ミスコンの準備があるのでフルタイムではないが、俺も一部の女子からの推薦によって午前中だけウェイターとして立つことになってしまっていた。
俺は女子二人に席に座ってもらうとお盆を片手に言った。
「おまえら、こんなところでわざわざ貴重な人生の一コマを塗りつぶすとは、よほど青春というものに縁がないらしいな? あまりに不憫だからおしぼりをサービスしてやろう」
「キャー!」
「むしろそのおしぼりであたしの顔をブッてー!」
謎のファンができてしまった。
「やっぱり地味な男の子がドSっぷりを発揮するとギャップでときめくのかな?」
深雪が首を傾げている。
何度でも言うが、そんなに地味か……?
※
久々の放課後情報屋タイムである。
今日は保健室ではなくいつぞやの資料室に誘導された。
これ、ひょっとして隙を見せたらガチで襲ってくる流れではなかろうな……。
「待っていたわ!」
いつもの台詞で夏樹先生が出迎えてくれた。
今回は意外にも衣服は何処もパージされていなかった。
「先生もオトナのオンナになったってことよ……」
何故かしたり顔でそんなことを言っている。
まあ、深くは突っ込むまい。
どうせこんなところに誘導された時点で、腹の底には何かを飼っている。
「あわよくばくらいには思っているわ!」
大きな声を出すな。
「まあ、今はもうヤリたくなったらあなたの家に行けばいいだけだしね」
人の家をヤリ部屋みたいに言うのはやめろ。
「違うの?」
断じて違う! ……よな?
「まあいいわ。それで、今日は何が知りたいの?」
夏樹先生が奥の棚に背中を預けながら訊いてくる。
「今日も、今の生徒会長について訊きに来ました」
「あら、随分とご執心ね? 先生、ちょっと嫉妬しちゃうかも」
さすがに冗談でもそういうこと言うのはやめてほしい。
「まあ、実を言うとあのあと先生もちょっと調べたのよね」
夏樹先生がぺったんこな胸の前で腕を組む。
まあ、先生の最大のエロポイントは綺麗な脇の下なので、胸がないこと自体はそこまで大きな問題ではない。
むしろ俺に新たなエロの境地を教えてくれた先生には感謝したいとすら思う。
というか、わざわざ調べてくれていたとは、俺が今回のようにさらに情報を知りたがったときのために準備をしていてくれたということだろうか。
情報屋としての矜持を感じるな。
「名前は高橋咲彩、三年生ね。去年度の生徒会では校外学習の復活や、校則の裁量判断による運用に対して生徒側からの異議申し立て窓口の設立みたいなことを立案したみたい」
異議申し立て窓口とな。
「要は、頭髪の色とかスカートの長さとかで、あの子はOKなのにわたしはダメみたいなのがあったりするでしょ? そういう例を出して、たとえ生活指導部の指示であっても公平性に欠けると思われた内容に対しては異議を申し立てられるようにしたのよ」
それで、その意義は誰が審査するんだ?
「そこが面白いんだけど、なんと生徒が審査するの。もちろん、生活指導部の教師を顧問においてね。その上で審査結果を生活指導部が再検討するっていう流れなんだけど、実際、最終的な決裁兼は生活指導部にあるわけだから、形骸化すると思うでしょう?」
まあ、そうですね。
「それがね、そもそも教師が細かいことで校則違反をとらなくなったのよ。だって、何か意義が申し立てられるたびに生活指導部の仕事が増えるのよ? 面倒くさいでしょ?」
確かに、ちゃんと運用されたら教師側も相当面倒くさそうだ。
「実際の運用方法とかは橘さんが考えたみたいだけど、アイディア自体は高橋さんが出したものみたいで、一部の生徒からは評価が高いみたい。ただ、アイディアを出すのはいいんだけど、具体化については執行役員に丸投げみたいなケースが多かったみたいで、生徒会の中での評判はそこまでよくない見たいねぇ」
なるほど、この辺りは橘先輩から聞いた話と概ね一致するな。
ひょっとしたら、この流れを汲んでの校則改正なのかもしれない。
俺たちは単に姫宮の思いつきからそこにたどり着いたわけだが、橘先輩の場合はそもそもちゃんとしたバックボーンがあったわけだ。
「……で、ここが実は一番面白いところなんだけど」
夏樹先生がニヤリと笑って人差し指を立てる。
「高橋さん、雑誌モデルやってるのよね」
なん――だと……?
「前にも言ったけど、この学校の生徒会長はミスコンで勝った人がなるみたいな謎の風物詩があるわ。そういう意味で言うと、高橋さんは強敵よ?」
確かに、雑誌モデルともなると舞台映えする振る舞いも分かっているだろうし、前回覇者という実績も審査をする上で少なからず影響を与えてくるだろう。
夏樹先生の言うとおり、これは下手をすると橘先輩よりはるかに強敵かもしれない。
「どう? 今回の先生の情報も役に立ったかしら?」
先生は得意げに肩をそびやかしている。
まあ、とくに最後の雑誌モデルという情報は非常に役立ちそうだ。
服部には化粧や衣装だけでなく、ステージでの立ち振る舞いによる審査員への印象付けも意識してもらったほうが良いかもしれない。
「ありがとうございました。とても参考になりました」
俺は先生に向かって頭を下げる。
「いいのよ。お礼は……」
先生はそれまで体重を預けていた棚から背中を話すと、ゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。
「しっかりと、カラダで払ってもらうからね」
背伸びをして俺の耳許にそう囁いてから、あとはもう何もせず蠱惑的な笑みだけを残して資料室を出て行った。
もはやここで手を出す必要ないということか。オトナのゆとりを感じる。
俺も先生のあとを追って資料室を出ようとした矢先、何故か扉の向こうから顔を半分だけ出してこちらをうかがう者の姿に気づいた。
「物足りなさを感じているのではないですか? わたしがエッチをいたしましょうか?」
いいえ、けっこうです。
というか、おまえマジで何処にでも現れるな。
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