第五話 我慢できないよ
さて、今日も放課後に穂村先生をストーキングしていたら保健室に来てしまった。
というか、これはもう連れてこられてしまったと言っても過言ではないと思う。
今日の穂村先生は保健室に入って正面奥にあるソファに座って足を組んでいた。
めっちゃパンツ見えとる——いや、見せてるのか……?
「最近、よく来るわね。いよいよ本気で先生のこと好きになっちゃった?」
まあ、嫌いではないですよ。
訊いたことにはわりとなんでも答えてくれるんで。
「上の口はガバガバでも下の口はキツキツよ?」
それは別に訊いてないです。
「それで、今日は上のお口に何を訊きたいの?」
別に今後も下の口に何か訊くことはないが……。
ともあれ、生徒会の立候補者とか分かりそうなら教えてほしいです。
「あー、すぐには分からないけど、調べることはできるわよ。でも、なんで?」
まあ、気になることがあると言いますか。
「別にいいけど、先生にものを頼むなら、それなりの態度ってものがあるわよね?」
あなたの担当の生徒が頼ってきてるんですよ。
そこは無償の愛ってやつでなんとかなりませんかね。
「ならないわ」
即答!? いや、俺の行動がこの学校の明るい未来に繋がる可能性もあります。
「この学校の未来なんてどうでもいいわよ」
おい、それって曲がりなりにも教師が生徒に向かって言っていいことなのか。
思わず呆れた目線を向けてしまうが、穂村先生はそんなこちらの様子など気づいた様子もなくいつものようにブラウスのボタンに指をかけはじめる。
「そんなことより、あなたもそろそろオトナの階段をのぼりたいころじゃない? 学校ってそのための場所でしょ?」
断じてそのようなことはない。
というか、そうやってすぐに服を脱ごうとするんじゃないよ。
それに、恥ずかしながら俺はもう子どもでは……。
「……は? え、ウソ……それって、その、もう、シちゃったってコト?」
いや、まあ、したというか、されたというか……。
「そんな……まさか、ここまで完璧な条件が揃ってしまうなんて……!」
穂村先生がブラウスを引きちぎりそうなほど両手を握りしめながら、興奮気味に荒い息を吐いている。正直、かなり怖い。
俺が自分の身を案じながら震えていると、穂村先生は涎でも垂らすんじゃないかというくらいだらしなく口を開きながら、ゾンビのような足取りで近寄ってくる。
「先生、ほんとはね……」
穂村先生が震える手をこちらに伸ばしてくると、シャツの裾をギュッと掴みながら潤んだ瞳で俺の顔を見上げてきた。
「経験豊富でチョイ悪な男子に半ばレイプ気味に処女を散らされて、でも、その快楽が忘れられなくて爛れた恋に溺れてしまうような経験したかったの……っ!」
本当にこの人は何を言ってるんだろう。
確かに、不可抗力とはいえ、大人の階段も上ってしまったが、決して経験豊富というわけでは……。
というか、先生、これだけ生徒を誘惑するようなことして、処女だったのかよ。
「せ、セトくん、お願い、チョイ悪な感じで先生のハジメテをもらってちょうだい……!」
いやいや、何を懇願してるんだよ。というか、拗らせすぎにもほどがあるだろ。
それに、悲しいかな、俺はどちらかというと襲うよりも襲われるほうなのだ。
よって、先生の希望には答えられません! 失礼いたします!
「あーん! 待ってよぉー!」
俺はすがりつこうとする穂村先生を振り切って保健室をあとにした。
たまには誰にも頼らず逃げ切ってみせるぜ!
※
「わざわざお金を払ってまであたしの水着が見たかったの? まったく、本当に変態ね!」
「ダメです。氷菓を売っているのですよ。もっと冷たい感じでいきましょう」
「えー? んーと……お金を払ってまであたしの水着がみたいなんて、変態すぎて反吐が出るわ。もう少しマシなお金と時間の使いかたを考えたらどう?」
「素晴らしいです。その感じで行きましょう」
家に帰ると、リビングで深雪と有紗が謎のやりとりをしている。
ひょっとしてドSカフェのシミュレーションでもしているのだろうか。
確かに、今の深雪は声音といい表情といい素晴らしいものだった。
次はちゃんと俺の目を見てやってほしい。
「どうやらセイさまのM心はしっかり刺激されたようですね」
ち、違う! 俺は断じてMではない!
可愛い子に罵倒されるとちょっとときめいてしまうことがあるだけです。
「ドSって難しいね。アリサちゃんの指導がなかったらあたしには無理かも……」
深雪が疲れ切った顔で言う。
俺が帰ってくるまでに厳しいドSトレーニングが行われていたのだろうか。
先ほどの姿を見るかぎりは十分に才能があるように思えるが……。
「では、セイさまも帰ってこられたことですし、次のレッスンに参りましょう」
――と、何故か有紗がこちらに向き直り、一歩踏み込んできたかと思うと、俺はあっさりと床の上に押し倒されてしまう。
こ、こんなところでいきなりだなんて、心の準備が間に合わないよぉ!
「こんな簡単に押し倒されるだなんて、男として恥ずかしいと思わないのですか?」
有紗が俺の上にのしかかったまま、淫靡な笑みを浮かべる。
ぬうう、なかなかにエロいが……冷たい感じで罵るってコンセプトは何処にいった?
「押し倒されて、興奮して……まったく、本当に情けない人ですね」
蠱惑的な笑みを浮かべたまま、ゆっくりと有紗が顔を近づけてくる。
さらにその手はゆっくりと俺の下腹部を優しく撫ではじめて――って、これ、絶対にドSのレッスンと関係ないだろ!
「ほら、キスをしてほしいでしょう? 『どうかこの哀れな豚の唇をなめてください』と懇願するのであれば、優しいベーゼを差し上げてもよろしいのですよ?」
有紗がふっと甘い吐息を吹きかけてくる。
くそ、さすがにここまでされると御珍棒さまもご立腹されてきたぜ……。
「……さあ、こんな感じです。次は深雪さまがやってみてください」
――な、なにィ!? まさかの寸止めだと!?
「セイさまはこれまでさんざんわたしに我慢をさせてきたのですから、たまにはご自身も我慢する苦しみというものを体験しておくべきでしょう」
ぐぬぬぬ、それを言われると返す言葉もない。
まあ、俺の場合は御珍棒さまが静まるのを待つだけなので、大した我慢でもないが。
――と、余裕をぶっこいていたら、今度は深雪が俺の上にまたがってきた。
しまった。有紗め、隙の生じぬ二段構えということか。
「さあ、深雪さまも同じようにやってみてください。セイさまはギャルな見た目がお好きなので、深雪さまの色香があればあっさりと虜にできることでしょう」
「そ、そうかなぁ?」
有紗の言葉に、深雪はあまり自信なさそうにしている。
しかし、有紗の言うとおり俺はどうにもギャルな見た目に弱いところがあるので、先ほどの調子で深雪に攻められたらうっかり我を忘れてしまう危険性はあった。
「お、押し倒されただけで反応するなんて、可愛らしいおちんちんだね!」
あ、これは大丈夫そう。さっきと全然違うじゃん。
変に恥じらいがあるせいで逆に可愛らしく見えてしまって、お珍棒さまよりもハートがキュンキュンしてしまう。
しかし、そんな俺に気づいた様子もなく、深雪はおもむろに顔を近づけてきた。
「ほぅら、キスをしてほしいんでしょう?」
何やらふんわりと良い匂いがする。
実際に香水をつけているときもあるのだろうが、そもそも深雪は何もつけていないときでも何故かちょっと良い匂いがするのだ。
むふー、これに関してはさすがに俺の意思に反して御珍棒さまがご起立されてしまうな。
――ん? あれ? ちょっと待って、深雪さん、顔が近すぎ……。
気づいたとき、何故か深雪はそのまま俺に思いっきりキスをしていた。
「んんっ……ダメだよ、アリサちゃん! あたしが我慢できない!」
思うさま俺の唇を吸いつくしてから、深雪が顔を上げて言った。
有紗は困ったようにため息をつく。
「困りましたね。このままセイさまに我慢大会を強いる予定だったのですが」
まあ、ある意味では正しくドSなプレイではある。
「仕方ありません。夕食の前にセイさまをいただくことにしましょうか。深雪さまは、今日は遅くなっても大丈夫なのですか?」
「親にはご飯いらないって連絡しておくー」
あれ、なんか雲行きが怪しくなってきてない……?
俺の上に乗ったまま深雪がスカートのポケットからスマホを取り出し、何やら操作をしたかと思ったらそのままソファの上にポイッと投げ捨てている。
そして、何故か深雪はそのままブラウスのボタンを外しはじめ、有紗はリビングの照明を落として室内を暗転させた。
な、何……? 何がはじまろうと言うんです……?
「お風呂入ってないけど、汚いとか言わないでね?」
深雪はブラウスのボタンをすべて外し終えると、前をはだけさせながら再び俺の体に覆いかぶさってきた。
視界の外れでは同じように服を脱ぎはじめる有紗の姿が見えたが――俺はもう、目を閉じ何も考えないことにした。
すべては夢、泡沫の夢――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます