青春小説――おならと第二保健室――

沼津平成

第1話 第二保健室っていうエデンが、学校にもあったんだ!

           


 その、沼津の古い学園で、最近いじめが起きているという噂があった。

 

           *


 僕、二塚誠二郎につかせいじろうは、別に恨みを買うような性格ではない。それは、自他ともに明らかだったのに。

 僕の転落劇は、あそこから始まった、絶対に……

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 はじまりは、九月一日の夜だった。

 夏の間も文通していたクラスメイトであり恋人(らしき関係)の沙織に、何の予兆もなくフラれた。

 沙織は転校生で、小五の夏にやってきた。つまり小学校でも一年半と少し一緒なのだが、絶対に沙織はあんな激しいことをする女子ではなかった。たまに激しい沙織は見たけど、なんか起こる方面が違っていた。岡山から「怒り」という新幹線に乗るとして、東京方面に飛ばしていたけど、九月一日の夜の沙織は、鹿児島中央へ怒りを爆発させていた。

「あんな沙織、おかしいよな」

 と、僕は思う。

「絶対に犯人を見つけてやる」と、心に決めた。

 Whiteberryの夏祭りの大サビを、頭の中でガンガンに流しながら。

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 九月二日の朝、初めて登校する日だった。一日が日曜だったのだ。

 しかし、僕は学校に行く気にはなれなかった。ショックがあまりにも大きすぎたのだ。

「それは……!」母親のなえが僕にといただす。「理由をいいなさい!」理由をいった。ぴしゃりの通り雨は鹿児島中央方面に向かったらしい。北海道方面に退避した僕は、安堵のため息を漏らす。

「一時間目だけ受けて帰りなさい。先生にはなえがつたえとく」


 かくして僕は1年C組に戻ってきた。汚れた「1年C組 昭和6年度1年生寄贈」の文字。そりゃそうだ。もう百年弱使われてきたのだから。靴箱は「平成3年度最上級生寄贈」とある。1992年の18歳だから、1974年生まれか。辰巳おじちゃんと同い年だ。

 というか、辰巳ちゃんが作ったんじゃないか!?

 しかし、そんなニュースがあっても僕の顔の落胆の色は一向に褪せる気配をみせなかった。

 ハァ……階段を上るだけでしんどい。

「保健室登校」という言葉が、ふっと頭に降りてきたのは、そのときだった。

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 僕は大急ぎで階段を駆け下り、右に曲がった。ちょうど右ひじを打った。痛い。打撲傷だ。思ったよりまずい。が、これで保健室に行く口実が太くなった。大体保健室は相談所ではないのだ。もしかすると、「悩み相談なら悩み相談室を紹介しましょう。」で終わりかもしれないのだ。過度な期待はしないほうがいい。

           *

 保健室の前に着いた。担任の田畑柿太郎に見つかりかけたが、壁の凸凹を利用してうまくまいた。まさか田畑も一階に僕がいるとは思っていない。

 僕は、田畑が階段を上り始めるのを見届けると、音を立てずに廊下を走った。

 あっという間――それでも十五秒くらいはあったが――に保健室が見えてきた。

 僕は今まで学校でけがをすることが少なかったし、あったとしても軽い擦り傷切り傷程度だったので、保健室に行くのははじめてだった。

 四月に新しく入ったとは聞いているが、顔が思い出せない。

 僕は意を決して中に入った――。

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 男の先生だった。背が高くスマイルがいい。若く大学卒業したてではないだろうか? 教育実習ではないが、実習おわりたての雰囲気を身にまとっていた。

(なんか、この先生良い人そうだけど)

 こんにちは、と僕は言った。恥ずかしくて、打撲を見てもらうだけにした。7


 帰り道のことだ。僕より背の高い1個上に絡まれた。まずい。

「おい! 逃げんな」

 僕は走るのがはやくない。学年ワースト8位くらいだろうか。

「おい倉持!! やっちまえ」

 ん? 僕は足をとめた。倉持って、僕の知ってる上級生だ。たしかいい人そうだったな――。

 振り返ると、思った通り倉持も止まっていたので、僕は歩いて帰った。

 倉持からバンダナを渡された。お詫びだ、という。「記事にしないでくれ!」

 僕はあした返すわ~といって家に帰った。

                                                

 家に着くと、家ならではの落ち着く雰囲気が外側からにおってきた。僕は安心してランドセルからカギを取り出し、家に入る。               つづく

 

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