コント「出た」

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コント「出た」


※※比較的広い舞台

右側にパイプ椅子が二脚と折り畳みの会議机が一台並ぶ


※そこに会話をする仕草をしながらゆっくり二人で歩いて現れる


※中央で足を止める



  「先輩、俺、最近引っ越したんすよ」

イ:先輩、の第一声は強く


  「ああ言ってたな、確か。聞いた聞いた」

レ:頭のああ、に力を込めて


レ:中央から机の方へ移動。ブラブラしています、という感じで


  「便利な割に家賃安くて、いい部屋だと思ってたんすけど」

  「何だ、思ったより通気が悪くて湿度が籠りやすいとかネットが繋がりにくいとか、お隣さんが毎朝法螺貝を吹くとかか?」

レ:冗談を言いました、という表情とジェスチャーを示す

イ:リアクションは返さない

レ:肩を竦める動作をして背を向ける


  「いや、そういうんじゃなく。でも最近おかしいんすよ」

レ:何かを取る仕草。イの発言を受けて振り返る


  「おかしい、って、何が?」

  「説明が難しいんすけど、兎に角おかしいと言うか」

  「おかしいおかしいって言われてもな。例えばどういう風にだよ?」

レ:両手を上げて肩を竦める

イ:それに対し考えるポーズをして見せる


※数秒沈黙


イ:勿体つけて口を開く


  「帰ってきたら……」

  「帰ってきたら?」

レ:興味を持ちましたという体、僅かに前のめりとなる


  「家の鍵が閉まってたり」

イ:はっきりと、聞こえやすく

  「……うん?」

※発言に対して長めの間


  「不審に思って家入ったら窓も冷蔵庫の扉も全部閉まってて」

  「ぅうんん????」

レ:先程より大きく長い声を出す

※疑問を強調させる


  「床に落ちている筈の昨日の服も気付いたらなくて」

  「待て待て待て、おかしい」

  「でしょ?」

  「違う違う」

イ:同意を得た時の明るい表情

レ:手を振って否定

※大きな身振りで否定をする


  「読みかけの本も見つかんねーと思ったら本棚に戻ってて」

  「それは場合によっては困るな!……いや、そうじゃないって!」

  「水道も出しっぱなしにしていた筈なんすけど」

  「はぁ??」

  「はぁ?って……まだ全部言ってないじゃないすか」

イ:不服そうな顔をする

レ:同じく不服そうな顔


  「止まってたんだろ!」

レ:テンションを上げて、強めに


  「えっ、何で分かったんすか?」

イ:驚きのジェスチャー

レ:手を振って参った、のジェスチャー


  「いやいや。おかしい、おかしい。って言うか何⁉」

  「だからおかしいって何度」

  「そうじゃねえ!!お前は何!」

  「何?って……何がすか?」

イ:両手で疑問のジェスチャー


  「お前はなんでそんな………開放的なのっ⁉」

※しっかり間を取って言葉を選んだ感を出す


  「開放的~?」

イ:腰に手を当てる。明るく、褒められたかのように


  「好意的な表現でだよ!意を汲め!」

レ:強く突っ込む


  「コップありましたっけ?」

  「汲めってそういうんじゃねえよ!」

イ:口を窄めて両手を下で振る等、分かった体での小ボケ

レ:より大きな身振り

イ:後ろに身を引く


  「先輩、おかしいっすよ」

  「おかしくもなるわ!お前の言う事はおかしい!」

  「だから」

  「それはもうやったの!!」

レ:やったの、を刻んで強調する

※地団太を踏みつつ


  「ええぇ?」

  「『ええぇ?』えぇ゛えっ?!」

イ:困ったように

レ:怒ったように

※二人共一瞬停止、お互いを見合い、間を作る


  「……あの、もしかしてお前何らかの問題を抱えている人?」

  「ええ、だから困ってるっつーか」

レ:トーンとテンションを一旦落とす

イ:気遣いを無視したと分かるように


  「勝手に物弄られるのって嫌じゃないっすか」

  「俺だってお前ん家行ったらそういう行動取りそうだけど」

  「先輩うち来てんすか?」

イ:疑いの眼差しを向ける


  「ちげぇよ!もう気の良い大家さんかコンシェルジュ志望のお隣さんじゃねえの?!」

レ:再度テンションを上げる


  「うち、大家付属じゃないんで」

  「居ない筈の大家で良いよ!」

  「居ない筈の人間が居るのは怖いじゃないすか」

イ:真面目な顔で


  「俺はお前が怖いっ。あ、家族とか彼女とかの可能性はないのか?」

  「それはないっすね。親は来るなら連絡来ますし、家入るのは俺と彼女と他一名」

※一瞬間を取る


  「他一名?!いやその他一名って何?!」

レ:一番のテンションで(声を裏返らせる等)


  「いや良くは分かんないんすけど、最初から居るんすよ」

  「最初から居る?」

  「でも出て行く訳ではないんで入るとはちょっと違いますかね」

イ:首を傾げる


  「良く分からないのに居る他一名は誰?!何故そこに疑問を持たない?」

レ:大きく身振り


  「何故って言われても、居るもんは居るんすから」

  「お前より居ない筈の大家よりなお怖ぇじゃん!!」

レ:後ろに身を引く

イ:合わせて前に出る

※中央に少しずつ寄っていく


  「まぁ基本角から動かないですし」

  「いや飯とか風呂とか排泄とか、人として必要な事があるのは分かるか?」

レ:恐れるように


  「馬鹿にしてんすか」

  「何もかもがおかしくて、全てを疑う気持ちになってんだよ俺は」

  「まぁぶっちゃけどうしてるのか俺も分からないですけど」

イ:両掌を天に向けるジェスチャー

レ:うわぁという顔


  「でも一応夜中に動いてるみたいで。寝てると頭の上に気配を感じるんですよね」

  「深夜に頭上を!?」

  「顔を覗き込まれてるような気はするというか」

  「寝ている上から顔を!?」

  「彼女も引っ越してからあまり行きたくないって」

  「それは判断が難しい!彼女は他一名についてなんて言ってるんだ」

  「いや、特には」

  「あ、うーん……でもお前に付き合える彼女だもんな」

  「まぁ来た時は何でか一度もそっち側見ませんでしたね。あと入ってからは寒い寒いってずっと」

  「見えてねぇ、それ多分見えてねぇやつ」

  「えっ!?」

  「『えっ!?』え゛ぇっ!?」

イ:驚いたように

レ:驚いたように

※舞台下を眺める


  「居る筈の人間を見ないって、もしかして見えてないって合図なんですか!」

  「もしくは見ちゃいけない人だよ!」

  「それじゃあ何か目を合わせてくれないお客さんが居るんですけど!俺達ってもしかして!?」

※観客を巻き込む


  「んな訳ねぇだろ!いい加減にしろ!」

レ:ツッコミの手



(拍手が聞こえる)

(二人が消える)





※明転


『さーぁ、やってまいりました!』

『いやぁ、今年で何度目ですか』

『×回ですね』

『という事は×回忌になるんですね』

『月日が経つのは早いものですね』

『今でも信じられないですよ、これからだって時に事故なんてね』

『本当に、あの時はショックでしたね』

『派手でパーッと行くタイプではなかったですけどね、実力はあって。中々世間じゃ認められませんでしたけど』

『二人共人間としてまともでね。この世界、金になればいい目立てばいいでとんでもない事して挙句に飛ぶヤツも多いですから。そりゃバカの多い世界ですよ、でもねやっぱり超えちゃいけないラインっちゅーもんはある筈なんですけどね、中々』

『賢いヤツは皆逃げて行きますよ。そんなもんですから、お陰でバカとバカのぶつかり合い。いやぁ碌なもんじゃないですよ。そんなバカだらけの中にね、二人揃っていてくれて。人情に厚くて義理堅くて。世話になったヤツも多くいますよ』

『それからネタ担当をしていた彼の作品をこうして有志が集まってやろうって、ね』

『同期にも彼のネタのファンは多くいましたから。今では後輩にも伝わっていますし』

『ええ』

『では、しんみりした話はこの辺にして元気良く参りましょう。コント……』

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