ただいま密着浮気調査中!(仮)
らるむ
第1話 ただいま密着待機中!(1)
ラブホテルが立ち並ぶ裏通り。
道行く人の足跡や話し声、酔っ払いたちが行き交っている。そのため夜更けにも関わらず、まだまだ辺りは騒がしい。
そんな中、斜め後ろからポリポリポリというお菓子を食べる音。
吐息が当たる距離で囁かれる。
「ねえ、見習い君。かわいい私に
「残念ながら今は仕事なの。だから集中してね。よそ見してたら、大事な瞬間を撮り損ねちゃうから」
少しムッとした口調になる。
「わかってますって……へえ。先輩の私にそんな生意気な口を聞いてもいいわけ?」
「別にいいんだよ? 所長に報告しちゃってもさ。すんごく仕事がやりにくかったですって、言っちゃおうかなぁ」
「でしょ? 私がどんな報告をするのかで、君の採用不採用が決まるんだよ。わかってるよね? み、な、ら、い君」
「そうそう。わかればよろしい──!」
慌ててお菓子の袋を丸める音。
「あっ⁉︎ 浮気調査のターゲットたちが出て来たよ!」
すると探偵の「あははは」と笑い声。
「ウッソー! はい、騙されたぁ!」
「あれ、怒った?」
「嘘だねぇ。ムスッとしてるじゃん。かわいいねえ、君は」
また斜め後ろから、ポリポリポリという咀嚼音。
「え? なんでチョコビスケットを食べてんのかって? お腹が空いたからに決まってるじゃん」
「仕方ないでしょ。朝から浮気調査のターゲットを追いかけ続けてたら、食べる暇がなかったんだから」
「はあ? 張り込みするなら、あんぱんと牛乳じゃないですかって……」
「あのさぁ……見習い君、君いくつ? 今どき刑事ドラマでもそんなシーン見ないって」
ラブホテル街の喧騒。
「てか、このラブホ街の電柱の影で、あんぱんと牛乳を持ってる奴が立ってたら逆に目立つでしょ」
「そうだよ。だからこうして君と腕を組んで、恋人のフリをしてるんじゃない。今ごろわかったの? 君、本当に探偵になる気ある?」
「恋人のフリしとけば、万が一ターゲットに見られても、ラブホに入る前にイチャついてるカップルに見えるでしょ」
呆れたようなため息。
「あのねぇ……胸が当たってますって──君、もしかして童貞?」
必死に堪えつつも、笑い声が漏れる。
「なんでそんなに必死に否定してるわけ? まさか図星?」
「へえ。彼女がいるんだ」
「別に意外じゃないけど──どんな子?」
「いいじゃない。私に話したからって減るもんじゃないんだから」
「感心感心。待機中でも油断しないってのはいい心がけだけど、ターゲットはラブホに入ったばかりだよ? しばらくは出て来ないって」
「さっきと言ってること違うって──君、体が大きい割に、意外と細かいことを気にするタイプなんだね。そんなんだと彼女に嫌われるよ」
「冗談だって。そんなに落ち込まないでよ」
「ごめん。謝るから。暇つぶしに聞かせてよ」
大袈裟に驚いたような声を上げる。
「それともまさか! 彼女がいるっていうのは嘘なわけ⁉︎」
少し揶揄うような笑みを含みながら、
「だからムキにならないでって──わかったわよ、彼女がいるのは信じてあげる。ほんと君ってからかいがいがあるね」
「で、どんな子?」
「そうねえ、例えば髪型とかはどんなカンジ?」
「へえ。黒髪のストレート。じゃ、普段はどんな格好してるの?」
「カーディガンに花柄のスカート──って、私とは正反対の清楚系だね」
ドンッと脇腹を膝で突く音。
「ですね──って、どういうことよ! てか、彼女はかわいいの?」
不審げに探るような感じで、
「どうした?」
「なんでもないってことはないでしょ。急にうつむいて、おまけに真っ青な顔してるじゃん」
「はあ? 彼女がいる⁉︎ どこ?」
「──って、男と腕組んでるあの子⁉︎ どのラブホにしようか迷ってるみたいだけど……」
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