第5話 売りつけられた喧嘩
「となり、いいか?」
春秋は食べ始めようとするが、そこに例の獣人女性が声を掛ける。
「別にいいですけど(良くない。帰れ)」
「昨日は疑って悪かった。すまない」
「……まぁ、誤解が解けたようで何よりです(まずワケを話せよ)」
「詫びと言ってはなんだが、何か奢らせてくれ。酒でいいか。おーい、お嬢ちゃん!いっちばん安い酒持ってきてくれ」
「(何を考えているか分からん。頭おかしいのか?急に態度変えて)」
春秋は急に自身に好意的になった獣人女性を訝しむ。
「はーい!!」
「朝から酒ですか……(しかも安酒って)」
「ほら、飲め飲め。くぅー、やっぱこの安い感じが趣あるよな」
春秋の前に酒が注がれる。
「(アルハラかよ)…じゃあ、いただきますね。うん、美味しいです(意外と飲みやすいな。物足りたさが残念だが)」
「そうだろそうだろ、お前もそう思うか」
春秋は肩をバンバン叩かれる。
「(ウザいな。これだから酒で性格が変わるヤツは嫌いなんだよ)」
春秋はこれ以上絡まれないように、そうそうに食事を切り上げる。
「もう行くのか〜。ちょっと待てよ」
「何ですか?俺はこれから日銭を稼ぐんです。あなたのほうも仕事があるでしょ。酒はほどほどにしたほうがいいのでは?」
「仕事?んなもん辞めてきたわ。あんなことがあったら誰でも辞めるだろ」
「(ここはしらを切るべきだ。おそらく昨日のギルドの件だろう)あんなこととは?」
「アタシは昨日まで冒険者ギルドの職員でな。昨日盗賊が襲撃してきたんだが、金庫の解錠の開け方から人が手薄な日時まで何もかも把握されていて、アタシは薬で眠らされて何もできなかった」
「(興味がないフリをしておこう)へー」
「こんなことギルドに内通者でもいなければできるわけがない。だから、裏切り者がいるような組織は信用できないから辞めて来たってわけさ」
「(なるほど。ただ、知りたいことはそれじゃない)身の上話のついでに、俺に何らかの疑いが掛けられた理由を教えてくれませんか?」
「そんな堅苦しい言い方しなくていいぞ!アタシとアンタの仲じゃないか!」
「(どんな仲だよ。会ったばかりだろ)」
「まず、事件の結末として盗賊は二人とも死亡した。その盗賊を殺したヤツは逃してしまったが、血の匂いを辿ってアンタに辿り着いたわけだ。ただ、よくよく考えると、アンタみたいに弱そうなヤツが殺せるわけないよなって思ったんだよ」
「…なるほど? ……そういえば、ギルド辞めたんですよね。なんで盗賊を殺した男を探しているんです?ギルドにでも突き出すんですか?…………ッ」
春秋は自身の失言に気がつく。この獣人女性は盗賊を襲った人物が『男』とは言っていないことを。
「(しまった! いや、その程度の失言は問題ないはず)」
「…………あの盗賊どもを殺したヤツはどれだけ強いのか知りたくて!!っね!!」
ブン!!
突如として獣人の女性は春秋に襲いかかる。ただ拳を突き出しただけだが、物凄いエネルギーを秘めている。
「(!?まずい)」
《精神魔法ー認識阻害》発動。
《精神魔法ー認識阻害》で獣人女性の距離感を歪め、威力を減衰させる。
ゴッ!ゴロンゴロンゴロン
春秋は腕が当たった瞬間吹き飛ばされ、地面を転がる。
【コピー】《空気生成》
春秋は空気をコピーしつづけ、エアクッションのように地面から受ける衝撃を逃す。
「ゴホッゴホゴホ(ヤバい、こいつ、マジモンの戦闘狂かよ)」
「アレッ?やっぱ勘違いだったか?でも、思っていたよりも拳が当たった手応えが弱いな。アンタ何かしたか?」
「(ここでコイツを殺しても良いが、面倒事は避けたい。ここは、演技だ。骨折した感じで)ゴフッ゙」
演技せずとも咳が出てしまう。
「お~い大丈夫か?」
「(触るな)」
春秋は心の奥底から怒りが湧いてくることを実感する。
「(こんな面倒なことになるなら賊と一緒にコイツも殺しておくべきだったか)」
春秋は自分の過去の選択を甘い選択だったと評価した。
「ダメッ!」
春秋を守るようにシエラが前に出てくる。
「どきな、お嬢ちゃん」
「出禁!ここから出ていって!!」
「(ダメだ。シエラちゃん、下がってくれ)」
「出てけって言われなくても出ていくぜ」
トン、ゴッ!
「痛っ」
獣人女性は本人にとっては軽い力でシエラを押し倒す。シエラは机か何かに当たって皮膚が切れたのか、頭から血が流れる。
「(殺すか、いや殺したら俺が犯罪者になってしまう。それは避けるべきだ。サケルベキだ)」
殺意を抑えられない。殺意を気力に替え、無理やり身体を起こす。
「おっ、やるねぇ。アンタがヤツであろうとなかろうともうどうでも良い。殺ろうじゃないか」
「表に出ろ」
春秋は無関係なシエラを巻き込んでケガをさせてしまい、冷静でいられず口調が乱れる。
「良いじゃないか、イイじゃないか。それだよそれ」
「危ないことしたらハル兄も出禁だからね!!」
シエラが争いを止めようとするも、春秋たちを止めることはできない。
「大丈夫、この酔っぱらいを夢から醒まさせるだけだから。さあ行こうか。どこがイイ?」
「町の外でヤろうじゃないか」
「イイですよ」
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