【ある男性の告白】
この話しても信じてもらえないんですが、今も続いてて正直。だから調べたとしても神隠しにあったという類いのことしか出てこないので、裏付け出来ないし証明できっこないことだってことを先に言っておきますね。
当時子どもで弟と登下校してたのでおそらく小学生のそれも高学年くらいのことだと思います。それでその日も弟の手を引っ張りながら歩いて帰ってました。当時やんちゃざかりだったから木の棒を振り回しながら住宅街をやけに時間がかかった気がします。弟はまだ小学1年そこらで目についたものを追っかけたりするものだから脱線しがちでそういう可愛らしくてあどけない所があったんです。
だからそうなるべくしてなってしまったと言う他ない出来事だったのかもしれませんね。
ふと弟の声がして、見たら猫、黒猫だったかな。吸い寄せるような不思議な目をしてました。なんでこんなどうでもいいことなんて覚えているのか。まぁとにかく弟は猫がぷぃっとそっぽ向けて行くのを追っかけました、もちろんやめるよう言いながら弟の背を自分も追いかけました。いたずらに猫は時々弟や自分が追いかけているのを確認するように振り返る仕草をしてたように思うのです。
そのうち見えなくなって弟は猫をまだ探そうとしていてなんとか引き止め帰ろうと促したりしてたんですが、弟はパッと自分の手を払って行ってしまいました。必死に追いかけてました。兄としてそうしなければそうそれだけが奮い立たせていたのでしょう。
気づくとただっ広い知らない草原にいました。いつの間にか弟もそこにいました。何か透明なものがこちらに来るのがわかりました、草に擦れる音がしたから。それは何ていえばいいのかなぁ。⋯⋯んー。自然に溶けて透明に見えるけど明らかに擬態してるという違和感ですかね。でそれがこちらに距離をつめる最中も動けなかった。ふとあの猫がそれに向かって威嚇するように鳴いてました。弟も釘付けになって動けずにいるのを横目に見えて。いよいよそれが自分と触れるくらいの距離まで近づいて、反して自分はというと声が出なくて動けずにいた、正確に言うなら目だけかろうじて動かせるそんな感じです。
言葉で現しづらいんですけどね混じる感覚が確かに有りました。その時弟が自分を突飛ばし、わけもわからず自分は転がり元居た場所にいた弟がそれと混ざり始めていることを雰囲気でわかっちゃいました。今思えば助けるべきだと。でも自分はみっともないほど四つん這いになりながらそこを逃げて逃げて何故か視界の先に見知った光景が見える部分があった、そこに飛び込んだ瞬間草原の空間が閉じていくように見えその先で弟がこちらに手を伸ばし助けを求めているのがはっきり見えました。
抜けた先でもひたすら走り続けて家までたどり着こうとしていたそこに警察が数人玄関のドア越しに両親?と話しているのが見えたわけです。やっと帰ってこれた弟を置き去りに。そう思っていたんです。残念ながら戻れたというには程遠いことを思い知らされました。
警察と知らない男女が心配そうにこちらにやってきて、いろいろ質問責めにあいました。でもってあの男女が自分の親だと。覚えてる両親と違うんです。でも自分の親だそうなんです、それに弟なんていないと遠回しに言われました。最初は何度も言い返し説明してたんですが、無意味だって悟りました。自分の方が動転しているのだと宥められたというか、憐れむ目をしていましたから大人達は。今もあの人達が両親ってことになっています。弟なんて居ない一人っ子なんだとね。
知らない男女で両親を名乗った彼らはこの自分が神隠しにあっておかしくなったのだと思っているらしくて今も、腫れ物に触るような感じでだから今はもうあそこには帰ってないです。
この世界に紛れ込んだのは自分なのかそれとも両親の方なのかわかりませんが知らない男女が両親の振りをしているのが気味悪くて、嫌なんです。弟はどこへ行ってしまったのか、この世界から消されたのか。自分のせいですよ、もちろん。置き去りになんてしたせいでこんな結末を迎えてしまったわけですから、それと神隠しって言われた理由は自分が行方不明になり迷い混んで戻って来るまで何日も経っていたからだそうですね。自分にとってはたった半日のことなんですけどね。
きっとこれは弟を置き去りにした自分が追うべき罰なんだって思って今も生きてるんです。猫もあれもすべてなんだったんでしょうね。この罪は消えることはない、そう思っています。
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