3 幸福の手紙
『この手紙を一週間以内に、あなたの一番大切な人に贈ると、その人は幸福になれます。しかし、あなたは不幸になってしまいます。もし贈らなかった場合あなたが幸福になれますが、そのあなたの一番大切な人は不幸になってしまいます。もしこの手紙を贈るのならば、ここに書かれた文章とまったく同じものを書いてください』
下駄箱に入っていたこの手紙を見て僕は一瞬思考が途切れた。そして僕は心の中でガッツポーズをする。夢までに見た『幸福の手紙』。
いま僕の学校では『幸福の手紙』なるものがはやっている。ひと昔流行った『不幸の手紙』と似ているが少し違う。そう、この手紙をもらったらその人に幸福が訪れるのだ。僕自身、都市伝説と思っていただけに、何度もその手紙を読み返した。
すると僕はふとあることに気付いた。僕が知っている物と内容が違うのだ。僕が知っていのはもらった人が幸せになれると言う事だけ。しかしここに書いてあったのは自分は幸せになれるけど、その代わり自分の一番大切な人が不幸になるというものだった。
一番大切な人? そう考えてすぐにある人物が頭の中をよぎった。昨日交通事故に遭った彼女のことだった。僕は一瞬迷ったが彼女の幸せを願い彼女へ手紙を贈ることにした。もちろん僕は不幸になってしまうけど、また彼女の笑顔が見られるのなら致し方ない。
僕はさっそく彼女の入院している病院へと向かった。もちろんこの手紙は隠しておく。僕は受付で彼女の病室を確認するとすぐに向かった。
五階の階段から二つ目の病室、一番奥の窓際のベッドに彼女が腰掛けていた。彼女は遠くに流れる雲を見ているのか、僕に全く気付こうとしない。僕は手の届きそうなほど近くに歩み寄って初めて、僕の存在に気付いた。
「あっ……」
僕たちは互いに小さく声を上げる。そして僕は手に持っていたお見舞いの品を彼女に渡した。
「あ、これ、お見舞いの……」
「あ、ありがとう」
僕たちは互いに歯切れの悪いあいさつを交わす。
思ってた以上に彼女は重傷だった。彼女が言うには足の骨を折ってしまったらしく、全治三~四ヶ月はかかるらしい。けれど彼女は「キミが見舞いに来てくれたから、痛みなんて吹き飛んじゃったよ」と笑顔を見せてくれた。
僕は後ろ手にこっそりとあの手紙を取り出し彼女の枕元に置こうとしたときだった、手が滑り手紙が落ちてしまう。もちろん彼女は僕の落した手紙を拾ってくれたが、その手紙を見て僕の顔を見上げる。
「この手紙って……幸福の手紙だよね?」
僕は隠せ通せないと悟り全て彼女に事情を話した。すると彼女の口から信じられない言葉が飛び出した。
「実はね、あの『幸福の手紙』を贈ったのは私なんだ。キミに幸せになってもらいたかったから。でもほら御覧の通り私は不幸になっちゃったけどね」
僕は思わず彼女を抱きしめてしまった。まさか僕に手紙を贈ったせいで事故に遭ってしまっただなんて。僕は手に持っていた『幸福の手紙』を破り捨てた。
その後彼女は見る見るうちに回復していき、なんと一ヶ月で完治した。医者はとても驚いていたが、僕たちはあの『幸福の手紙』の効果なのかと思っている。今のところ僕も彼女も不幸は訪れていないが、たぶんいずれやってくるのは確かだ。
僕があの手紙を破ってしまったから、不幸がどちらに来るのかは分からない。二人に不幸が訪れるかもしれないし、何事も起こらないかもしれない。だから僕はその日が来るまで彼女を幸せにしようと思っている。手紙の不幸がちっぽけだと思えるほどの幸せを彼女に……。
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