テイル❖ストーリー

神海みなも

1 黄昏

 もう空は日が傾き始めていた。すぐ家へと帰らないといけないのに僕は一人で河原に座って向こう岸を眺めていた。こんなに綺麗な夕焼けを見たのが初めてだったからだ。家に帰りたくないな、そんな気持ちにさせる。


「家に帰らないの?」


 ふと近くで少女の声がした。僕一人だと思っていたので思わず変な声を出してしまう。辺りを見渡せば川辺の近く、少女が石を並べて遊んでいた。僕は重い身体をゆっくりと持ち上げると、一人で遊んでいる少女の横に座った。しかし少女は僕のことなど気にしていないかのように石をならべている。


「キミこそ帰らないの? お母さん心配してるよ?」


 そう声もかけてもその少女はこちらを振り返ることもせず「家に帰らないの?」と繰り返した。また飽きもせず石をならべている。もしかすると隣に座られたことが嫌だったのかもしれない。そう思った僕は元いた場所へと戻った。すると少女がまた僕に声をかける。


「家に帰らないの?」


 少しだけムッとしたが僕が黙っていると少女がさらに言葉をつづけた。


「あたしはもう帰れないの、これをしていなさいって言われているから」


 僕は少女が見せる小さな小石を見つめる。「言われている?」どういう事なんだろうと不思議に思った僕は少女に駆け寄った。


「どういう事? お母さんが言ったの?」


 僕の問いかけに少女は首を横に振る。


「……え? じゃあ、誰に言われたの?」


 すると少女はスッと立ち上がると川を挟んだ向こう側の河原を指差した。けれどそこには誰もいない。「誰もいないじゃないか」と少女に問いかけたときにはもう、少女は座り込みまた石をならべていた。


「わかったよ、もう邪魔しないよ」


 僕はそう少女に告げるともう家に帰ることにした。ずっとここに居ようと思っていたのになんだか退屈になってしまった。たぶん嫌われてしまったのだろう。


「じゃあ、僕はもう帰るよ。邪魔して、悪かったね」


 ただそれだけを告げると僕は家へと帰った。まだ帰りたくなかったけど仕方ない。家に帰っても親戚の人が集まっていて騒がしいからなあ。そんなことをつぶやきながら家へと付くと真っ先に泣きじゃくってる両親の元へと駆けよった。


「……ったく、しょうがないな」


 僕は優しく二人を抱きしめるとゆっくりと目を閉じた。


 そこにはたくさんの花たちに囲まれて優しく微笑んでいる僕の遺影があった。

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