〜運命が動き出す時〜
「あれ?君また来たんだ」
目の前の女の子が喋りかけてくる。
この子は前、変な事を言ってきた女の子だ。ここに通ってないとかなんとかとか。
「昨日ぶりだね。もしかして、私の話を聞きたくて……⁉︎」
女の子は瞳をキラキラさせて尋ねた。
「……え?違うの⁇」
そうわかると女の子はまたしょぼんっと肩を下ろす。
「まぁ、いいけどね。今日も暇だし私の話聞いてくれる?……いいの⁉︎ありがとう」
女の子はとても眩しい笑顔をした。
「これは、前の話と同じだけれど少し、違う話。え?お話は変わったりしないって⁇……この話はほんの少しだけ変わったの。君という名の歯車——、部品が加わったから、ね」
そう言って女の子は話し始めた。
少しだけ変わったお話を。
◇◆◇
「どう?変わってたでしょ?」
女の子は笑顔で聞いてくる。
確かに女の子の言う通り、お話は変わっていた。前はハッピーエンドだったのに今回は、悲しいバットエンドだった。
「そうだよね。バットエンドに変わっていたよね。まぁ、でもこの話はどんどん変わっていくからね。バットエンドからハッピーエンドへ。ハッピーエンドからバットエンドへ。って、ね」
どう言うことか意味がわからない。
「はは。君、意味がわからないって顔してる。面白いね。まぁ、わからなくて当然だけど……」
女の子は席から立ち上がる。
「じゃあ、今日はここまでだね。また、来てくれると嬉しいよ」
そう言いながら、ドアの前まで移動する。
「あ、そうそう。お話を聞いてくれたお礼に、今回も最後に一つだけ教えてあげる。何か聞きたいことある?」
女の子はこちらを向いて尋ねてくる。
「うん?名前?名前、ね。……いや、答えたくないわけじゃないよ。まぁ、今は“アヤ”って呼んでよ、ね。君の名前にも“あや”て入っているんだから、さ」
女の子は微笑んで去っていった。
女の子のその顔は微笑んでいたがその奥に寂しさが見えた気がした。
◇◆◇
僕——、綾口優気は部屋に行き、九時になるまでゆっくりと過ごしていた。
明日の準備をしようかと、寝転んでいるベッドから立ち上がると——
「え……‼︎」
急に晴の大きな声が聞こえた。
どうしたんだろう?
僕は不思議に思って部屋の外に出ると晴の元へ行く。
「お、お兄ちゃん……」
晴は少し震えていた。
僕は晴の手に持っていたものを見て見ると、黒いゴーグルと黒いパッケージ(多分、ゲームソフト)があった。
「それ、何?今日届いた荷物?」
「う、うん。今日届いた荷物を開けてみたら、こんなものが。頼んでないのに……」
僕は晴が震えているのがよくわからなかった。
「あれ?この手紙は⁇」
僕は段ボールの横にある紙を屈んで、手に取る。裏返してみると、文字が書かれていて、手紙のようだ。
『綾口晴様へ。
おめでとうございます。貴方様は私達のゲーム、“wold”をプレイするプレイヤーに選ばれました。
それで、ゲームをするに当たって一つ守っていただきたいことがあります。このゲームを一週間以内に始める。または一週間以内にゲームプレイを再開しなければ、貴方様は元の家に帰れなくなるかもしれません。
それでは、楽しい楽しいゲームを楽しんでください』
「なんだ、これ⁇」
いや、手紙の内容はわかる。けれど、その手紙の内容が異常だ。まるで、オカルトの世界に紛れ込んだみたいに。
……オカルト?そう言えば聞いたことあるような⁇なんだっけ。
僕はそこまで、気にしていなかったので忘れていた。
「ねぇ、お兄ちゃんこれがさ、“噂”であったゴーグルとソフトなのかな……?」
晴は下を向いてわなわなと震えていた。
あ、あの噂か。
僕はすぐ思い出した。多分、新しい記憶だったからだろう。
それより、晴はさっきから震えているのだが、あの噂を本気にして怖がっているのだろうか。
「大丈夫だよ晴、こんなのイタズラだと思うから。だから、安心して」
僕は晴を落ち着かせようと、晴と目が合うくらいにしゃがみ、頭を撫でる。
「……?お兄ちゃん、まさか私がこのことが怖いと思ってるの?」
晴は顔を上げて、僕に尋ねる。
「え?そうじゃないの⁇」
「うん。それに知ってるでしょ?私がオカルト好きなのを‼︎」
晴はそう言って瞳を輝かせた。
……そうだった。晴はオカルト好きだった。
晴は好奇心旺盛で、心霊スポットに何度も行くほどにオカルト好き。
そして、時には本当の幽霊に会いたくて、墓を掘り返せば幽霊が出てきて呪ってくれるんじゃないかと思い、墓荒らしを起こそうとしていた時があった。
僕はそれを物凄い必死でやめさせるのに苦労した思いだがあった。
今、瞳を輝かせているのは、噂が本当っぽくて嬉しいとか、自分の元にやっとオカルトチックなことが起こったからだろう。
そんな晴れから僕は届いた荷物を奪う。
「何するの‼︎」
晴は僕がそんなことをするとは思わず、目を見開いている。
「いや、オカルトと思っているところ悪いけど、多分これは詐欺だ‼︎噂を利用して、後で多額の請求をしてくる類の!」
僕は今、そんな結論に至った。
ずっと考えていたのだが、出来すぎているからだ。
“噂”好きな晴の元に“噂”のゴーグルとゲームカセットが届く?どう考えても出来すぎだと思う。
あまり、人を疑わない僕も流石に疑う。
「え〜。そんなはずない気がするけどな。オカルトはオカルトだよ‼︎」
晴は食い下がる気がないようだ。
「オカルトはオカルトでも、出来すぎていて逆に不自然すぎるくらいに変なんだよ!」
「人生っていうのはそんなもんなんじゃないの?」
「そうかもしれないけど……」
僕は経験があったため、そんなことをポロリと言ってしまった。
そして、晴はそれを聞き逃すはずがなかった。
「ほら!」
ぐ……。
僕は痛いところを突かれ、何か突破する方法がないか模索する。
そして、模索した結果は——
「とにかく、これは詐欺!」
強行突破だった。
「そんなわけないよ‼︎」
「そんなわけある。さ、この話はこれで終わり!」
そう言って僕は強引に話を終わらせることに成功した。
晴は不服そうだったが。
◇◆◇
夜の十一時五十分、私——綾口晴は中々寝付けずに起きていた。
その理由は今日届いたゲームのことをずっと考えていたからだ。
お兄ちゃんは、詐欺だって言ってたけど……。
私は気になって仕方がなかった。
それに噂が本当なのか知りたいし……。
そう思い、私はベッドから上半身を起こす。
「ちょっとだけ、やってみようかな?」
私はそう決め、早速お兄ちゃんの部屋に向かう。
お兄ちゃんは届いたゴーグルとカセットを自分の部屋に置いていた。多分私が取らないようにするために。
私はベッドから、降りてゆっくりと足音に気をつけながら、慎重にドアに向かう。
お兄ちゃんに見つかったら、一巻の終わりだからね。
私はゆっくりとドアノブを回して、ゆっくりと音を立てないようにドアを開く。
そして、ここまで順調に進んだことに私は安堵の息を吐いた。
けれど、ここからが本番だ。ここまでだったら、なんでも言い訳できるがお兄ちゃんの部屋に入ったら何も言い訳できない。
私はそーっとお兄ちゃんの部屋に近づく。
なんだか泥棒をしている気分……。
私の家なのになどというツッコミを自分自身でして、お兄ちゃんの部屋の前につく。
私はここでは失敗できないので、少し気合を入れるために深く息を吸い、浅く息をはいた。
「よし!」
声を潜め、ゆっくりとドアを開け始める。
ギギギッ
開き戸特有のドアの悲鳴のような音が鳴った。
ゆっくり開けたのがあだになったのかもしれない。
……マズイ‼︎お兄ちゃんが起きちゃう。怒ったお兄ちゃんは怖いのに〜!
私は焦る。とにかく怒られたくなくて。
でも、これは絶対怒られる。……なら、怒られる前提でその怒りを誤って、少し冷ますしかない‼︎
私は怒られる覚悟を決めて、お兄ちゃんの部屋に入る。
「お、お兄ちゃん、ごめんなさ……い?」
私はスライディング土下座をかましたが、お兄ちゃんはなんと寝ていた。
え?大きな声出したのに……?(謝った時に)
数分ぐらいお兄ちゃんを観察したが一向に起きる気配がしなかった。
ツンツン触ってもお兄ちゃん起きない……。お兄ちゃん最近疲れてたのかな?でも、疲れる要素はどこに……⁇
「ま、いいか」
私はお兄ちゃんに背を向けて、お兄ちゃんの勉強机の上に置いてあったゴーグルとゲームカセットを持つ。
「よし、任務完了」
私はそう言って、拳を振り上げる。
まぁ、そうこうしている間にお兄ちゃんが起きるかもしれないので、音を立てないように注意してきた道を戻っていく。
お兄ちゃんの部屋のドアを閉め、自分の部屋に素早く入る。
ドアに体を
私はそれから、入り口近くのスイッチを入れ部屋を明るくする。
ゴーグルとゲームカセットは部屋の中心にある、テーブルに置くことにした。
「さて、ゴーグルとゲームカセットを持ってきたけど、まずはどうすればいいのだろうか」
私はキリッとしたキメ顔をした。
全くセリフは格好良くないが。
「う〜ん、ゴーグルにケーブルがついてるから、まずこれはわかるけどカセットはどこに入れれば……」
私はゴーグルをくまなく見始めることにした。
◇◆◇
そして、二十分後——
「よし、セッティング完了!」
なんとかセッティングが完了し、ゲームが始められるようになった。
どんなゲームだろう……!
私は胸をドキドキさせながら、ゴーグルを装着する。
するとどんどん意識が遠のいていく。足の感覚、手の感覚、床の冷たさや体の感覚、何もかもの
その度に私はどんどんゲームの世界へと深く深く潜っていく。永遠の眠りにつくように。
◇◆◇
「あの子が目を覚ますときは恐怖を味わった時。でも、それはただの始まりのトリガーにしかすぎない。もしかしたら、運命が変わって恐怖を味わうことなく目を覚まさないかもしれないかも。だって運命は気まぐれなのだから」
夕暮れの教室、ある席に座り一人の女の子はそう呟く。
次にゆっくりとその子は立ち上がって、窓へと向かう。
「運命など定まっていない。定まるとすれば、直前だけ。でなければ人生なんてものはずっとつまらなく、面白くないでしょう。面白い、楽しい出来事があってこその運命。灰色の人生なんてつまらない。人生という名の物語は死ぬまで付きまとう呪いのような、あなたの物語なのだから」
女の子は窓の外を遠く眺めている。その姿は愛しい人を思っているようだ。
「今回はあなたは主人公ではないかもしれない。ただの名もない脇役、それか一秒も映らない脇役かもしれない。……だけど、それは平和という名の休息にすぎないのだから」
女の子は綺麗な亜麻色の髪を靡かせ、ある席を見つめる。
「楽しみにしているよ。私の話した話がどのように変化したのか。あなたという名のイレギュラーの存在が起こす、“何もかも巻き込んだお話を”」
女の子は口角を上げて、笑う。その顔は美しいがとても純粋な狂気に満ち溢れていた。
その顔を見た人は全員こう言うだろう。「狂っている」と。
「ふふ、次はどんな話になるのかな」
女の子は手にずっと持っていた、緑の表紙をしたボロボロの本を開く。中身は途中から何も書かれていないまっさらなページだった。
これはある高校生の二人のゲームから始まる恐怖と絶望、裏切りに満ち溢れながら、自分の決めた“正義”の道を曲がりなりに工夫して進む物語。
この二人の進む道は神様も他の誰も、その二人も運命さえもわからない。
ただ、二人が決めたことは一つ。
『自分で決めた“正義”のためならば、何をしてでも成し遂げる。仲間を裏切り、死ぬ直前だったとしてでも。絶対に』
この言葉を聞いた人はのちにこの二人は普通という名を被った、正真正銘の——狂った化け物、と。
そう言われるとは誰もわからないし知らない。
だが、運命はそう決まったわけではない。そう、だって決まっていないのだから。
ゲームスタート‼︎ 水見 @chunsuke
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