魔術学園物語 〜虎竜君の冒険奇譚
じゅんとく
序章
巨大な岩山の山頂付近……。その岩場に隠れていた小さな
薄暗く淀んだ上空と、それによって発生した乱気流、まるで世界の終末を暗示させて要るかのような状況の中、黒んずんだ砂と砂利の中、モソモソ……と、地面が盛り上がり、その砂と砂利を振り払って、一つの人影が地面の中から現れた。
砂まみれになったマントを振り払い、綻びだらけの黒色の風変わりな衣装を着こんだ少年だった。
まだ10代半ばの少年は、黒髪の短髪姿で、細身の身体だった。地面に潜っていたせいで顔が黒く汚れていた。周囲を見渡すと、遥か遠くに陽の光が見えるが、自分の立って居る位置からは遠く感じられてしまう。
少年は自分が埋まっていた場所から、魔法の杖を取り出すと付近を見渡した。魔法の杖を使って、光を灯すと、自分の足元付近が薄らと2ヶ所光が灯される。それを確認した彼は少し地面が盛り上がって居るのを確認すると、彼はその付近の砂場の中に手を伸ばし、地面からマントに包まれた者を救い出す。
「プハァ……助かったぜ。ありがとうなコタツ」
「助けてくれてありがとうね、コタツ君。それにしても凄い衝撃だったわね、生きているのが不思議なくらいだわ」
少年と同じ様にマントを振り払って現れたのは、彼と同じ年頃の少年と少女だった。少しクセッ毛が混じった小太りの少年と、藍色髪のストレートヘアの背丈の低い少女が彼の側へと近付く。
2人の少年少女は互いの顔を見るなり笑い合う。
「お前、顔が真っ黒だぞ」
「何言って居るのよ、アンタだって」
そう言いながら彼等は自分達の衣服や、手拭きで顔の汚れを拭き取る。
2人も彼を追いかける様にして、来た道を辿って行くと、3人は目の前の光景を見るなり衝撃を受けてしまう。
「お……おい、嘘だろ?」
「し、信じられないわ」
彼等が進んで来た岩場の階段が完全に無くなり、目の前は断崖絶壁の岩肌だけしか残ってなかった。落ちたらそのまま見えない闇の中に溶け込み、二度と戻って来られない光景に彼等は震え出す。
「さっきの激しい轟音と落雷の時、まるで何かが破壊された見たいな感覚があったけど、まさか、地面が抉られてしまう程の激しい衝撃だったとは……」
「どうやら、私達には進むしか残された道は無い……と言う事ね」
「そうだな……」
3人は後ろへと振り返る。
振り返った先、3人の目の前には巨大に聳え立つ大理石で作られた聖堂が佇んでいた。黒褐色でありながら、積み重ねられた岩には滑らかな流線形の模様が浮き上がっていた。遥か昔に現代とは異なる高度な技術で、職人達の技で作られた聖堂。上空を突きさすかの様に突出した尖った形の屋根。
地球では決して見る事の出来ない異色の装飾に飾られた風変わりな建物を目にしながらも、虎竜は、2人の仲間と一緒に、目の前の建物を目指して歩き出す。
ピュウッと風が吹き荒れ、フードの付きのマントで顔を隠しながら彼等は前進する。巨大に聳え立つ岩山の山頂、気温が低く肌寒さがして、吐く息が真っ白に染まる。乱気流と共に、小さな石粒と雹の様な物がピシピシと当たり痛かった。
建物まで普通に歩ければ直ぐに着きそうな距離だが、吹き荒れる天候の下では、短い距離でも、その距離はかなり遠く感じられた。
やっとの想いで聖堂へと着いた彼等は、寒さで震える様な手つきで、冷たい大理石の大きな門を3人の力で押し開ける。
ギギィ……
思ったよりも簡単に開いた門、その建物の中へと入った3人は、建物の中を見るなり驚いた。
目の前には大きな広間があり、その周辺を天井付近のステンドガラス窓から暖かな陽射しが映り込み、高く伸びた天井の周辺の壁には、まるで別世界の様な森林の景色が映り込み、その壁の中を野鳥や動物達が駆け回っている光景が映し出されてる。
「すごい……」
「まるで外の世界とは違う、別世界ね」
「と……とにかく進もう」
3人は目の前にある扉へと進む、扉を開けて中へと進むと、更に彼等を驚かす光景が現れる。
ザバーンッ!
岩山の山頂に居た筈なのに、まるで海の様な水飛沫の音が聞こえ彼等は驚いた。
見上げると、整然と並べられた長い参列の椅子の礼拝堂の天井を覆い尽す程の広さの天井の上に、海の様な水が広がっていて、その中を水竜の様な巨大な生き物が優雅に泳ぎ回っていた。
「な……何だよこれは!一体どうなっているんだ!」
「あの生き物、お……襲って来たりはしないわよね……?」
流石の虎竜も少し唖然とした表情を浮かべていた。一体どれだけ高度な魔術を使って、この様な光景を生み出したのか、彼も知りたい程だった。
「と、とにかく前進だ」
流石に、彼も天井が落ちてこないか……不安だった。
天井の水竜の長さは、聖堂よりも長く、大きさも彼等の身の丈とは比べ物にならない大きかった。襲われたら間違い無く助からないだろうと思えた。
彼等は目の前の祭壇へと辿り着くと、その先にある扉の中へと進む。
扉を開けて、中へと入った一行の先には溶鉱炉と思われる部屋へと出た。
完全に彼等は戸惑いを隠しきれなかった。山頂付近から見た建物は、そんなに巨大とは感じられなかった……。入った時の広さは最初の広間ほどと感じられたが、礼拝堂と、現在彼等が居る溶鉱炉、どう考えても建物の大きさとは釣り合わない広さが彼等の前に広がっている。
更に、彼等の視線の先には、巨大な水晶が輝きを発していた。
「ね……ねえ、もしかして、あの水晶……?」
「うん、間違い無い……あの水晶だ!」
周辺を見回すと、少し離れた位置に橋がある事に気付き、彼等は橋を渡って行く。
アーチ状に掛けられた橋を渡る。橋の下は真っ暗闇で、その深さがどれ程深いものなのか、検討が付かなかった。
橋を渡り終えて、虎竜が水晶のある岩の階段を登ろうとした時だった。
「オイ待て、コタツ!」
少年の咄嗟の呼び声に驚き彼は振り返った。
「どうしたの?」
少年は震える様子で目の前の水晶を指した。
「だ……誰かいるぞ!」
「え……?」
虎竜が振り返り、目の前の水晶の方へと視線を向けた時だった。彼等の前に1人の人影が現れる。
その姿を目撃した少年少女は唖然とした表情で顔を青ざめさせる。
「ウソでしょ……何で?信じられないわ」
「どう言う事だよ、一体これは……?」
彼等の驚きと震える声と共に、虎竜もギュッと握り拳を作って震えていた。
「ど……どうして……?」
虎竜は険しい表情で相手を見た。そんな彼等を嘲笑うかの様に相手の物はフッと軽く笑みを浮かべている。
「ふざけるなよ……一体何故、貴様がここにいるんだー!」
*
それからしばらくして、岩山の山頂から1本の光の柱が天高く伸びて行く。
岩山から離れた魔術学園から、眩い光を目撃した生徒達が学園長の部屋へと駆け込んで来た。
「が……学園長、ひ……光が!」
「うむ……」
学園長は、彼等を見ながら一言返事をすると窓から見える光景を眺める。
その眩い光は近隣の町などからも目撃される。山頂からは眩い光が放たれ、一時的に夕闇の空を美しい黄金色に彩っていた。
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