第2話 親友、大月誠

 肩をすくめて家に帰る。なんで俺はあんなことを言ったんだろうかという後悔の念が今になって押し寄せてくる。しかし、俺は間違ったことなどしていないという自負もある。ちなみに望月家の家は人間の考えるようなものではなく洞窟に近い形をしている。地上に穴を掘り、その中には十分生活できる空洞が広がっている。気温の変化が激しい月での生活にむいているのだ。ちなみにそのうさぎの住居の穴たちを人はクレーターと呼んでいる。

 どうしたものかと頭を悩ませていると外から声が聞こえた。

「こんにちはー」

 穴から出たところにいたのは幼いころからの同い年の親友、大月誠(おおつきまこと)だった。昔から頭が回り、眼鏡をかけている。彼は中流貴族の嫡男で家業の将来は鉄鋼業を継ぐ人物だ。今日も緑と白の籠目も模様の羽織を着ている。お気に入りのようだ。当たり前のことだからスルーしていたが月に住むうさぎたちは人間のようなTシャツもジーンズもはかない。その代わり羽織を着るファッション文化だ。これがセンスがいいのか悪いのかは読者の判断にゆだねる所存だ。



「おい、望月何やってんだよ」

「しかし、あれは俺は悪くない、政府は税率削減の理由を民に説明するべきだ。あれには裏が絶対にある。俺の勘がそういっている。お前もそう思うだろ」

「…」大月は黙り込んだ。

 俺の部屋に通された大月はさっから望月に説教をしている。大月もあの時、月面会見に参加していたのだ。三回目の参加だった。

「よく考えろ。相手は下弦の守、あの見華月だぞ?昔からの政府の重鎮だ。そんな奴に立てついたんだからこれからどうなるか分からないぞ…」

「けど、大月だって異常な減税の理由を知りたいだろ?おかしいと思わないのか?」

「それはそうだけどさ…。お前は昔から…」

「そんなんだから俺たちはずっと搾…」

「あの、政志がなにかやらかしたんですか?」

会話に入り込んできたのは兄の望月長政だった。

「あ、お邪魔してます。いや、政志がね、会見で下弦の…」

「Hey! my brother! Seriously no problem!So, please get out!(やあ!兄さん。マジで何にも問題ないぜ!だから部屋から出て行ってほしい)」俺は急いで大月の口を自身の長い耳で塞ぎこみ、喋れなくした。耳の奥では大月がもごもご言っている。ちなみに俺には焦ると突如英語を話し始める謎の癖がある。本当か?と疑いつつ兄は部屋から出ていった。兄には俺の拙い英語を聞き取るリスニング力がある。

「そこでだ大月、頼みがある。俺に協力してくれないか」

 俺は身を乗り出し、目をうるうるさせて懇願した。まるでほしいおもちゃを頼む幼稚園児のようだ。今風に言うとぴえんの顔だ。この何とも言えないかわいそうな雰囲気をだすのは幼いころからの得意技なのだ。

「はあ…。これは大ごとになるぞ」大月は深いため息をつき、出されたお茶を一杯飲みほした。

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