魔王が復活したので、王子様を助けるために戻ってきました

嶋月聖夏

第1話 魔王城での決戦 その➀

広い町の中の古城のあちこちの窓から、黒い煙が上っている。

 そして多くの叫び声だけでなく、いくつもの獣の唸り声も聞こえてきた。さらに人だけでなく、獣の悲鳴も響き渡ってくる。

 古城の中では、たくさんの騎士達が剣を振るっていた。その切っ先は、何匹もの異形の獣へと向けられている。

 そして王の玉座の間に居た六本足の虎が、咆哮を上げながら目の前の銀色の鎧の騎士へと牙を向けた。だが、

「守りの女神アミナ様!彼の者達をお守りください!《守りの光り箱》!」 

 その騎士の向こう側にいた修道女が、杖を掲げながら呪文を唱えた。杖の先につけられた十字架が光り、修道女を中心に無数の光が広がる。

 その光は、六本足の虎だけでなく、三本の角を付けた熊や二本足で立つ三つ目のサイなど、周りにいた異形の獣達へ向かうと、一瞬で四角い箱となって閉じこめたのだ。

「サンキュ!エリー!」

 騎士が修道女へ礼を言うと、反対側へと向きなおす。その先には、今回の討伐の目的であり、この魔城を統べる最大の敵がいたからだ。

「これで手下の魔物は助太刀できない!覚悟するんだな!魔王!!」

 「魔王」と呼ばれたのは、闇のように濃い深紫の鎧だ。二本足で立っており、手も二本ある。

 頭も一つなので、一見すると人間みたいだ。もっとも、顔を完全に隠している兜を外したら異形の姿が出てくるかもしれないが。

 その兜からは、表情は一切見えない。だが、十六歳くらいの普通の顔立ちである地味な茶髪の少女であるエリーが一度に数十体いた周りの手下の魔物を箱型の結界で閉じ込めた直後、魔王は一瞬動揺していた。

「はあっ!」

 騎士が長剣を再び振り上げる。魔王はその数倍の大剣で受け止めると、声を出さずに余裕で薙ぎ払ったのだ。

「アーサー!」

 エリーが騎士の名を叫んだ後、慌てて呪文を唱える。その隙を狙って双頭の巨大な蜂がエリーに向かって毒針を向けてきた!

「戦の男神バリガ様!目の前の敵へ炎の矢を!《灼熱の矢》!」

 矢のように細長い炎が、双頭の巨大蜂を貫く!巨大蜂はあっという間に赤い炎に包まれると、消し炭となって床に落ちた衝撃で崩れて行った。

「ありがとう!アリス!」

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