ファンタジーノイズ
つくも せんぺい
狩場の近くの遺跡にて 前編
「見たことがあるかって意味なら、僕もあるんだけどな」
「なにが?」
「ご先祖さま」
「あー、なら俺もあるな。ちょうど目の前に居るわ」
幼馴染であるイッカとの朝の狩りが終わり、軽食をとっていた。
さっき狩った、大きい木の枝に似た角を持つエダジカを血抜きをして、持ち帰り出来ない内臓を火で炙ったもの。
ニオイがするスパイスは持ち歩けないから、味付けは塩だけ。でもこれがとても美味しい。新鮮じゃないと味わえない、狩り担当のちょっとした役得メニューだ。
今朝は小雨が降っていて、僕らの足音もニオイも隠してくれたから、狩りも楽に済んだ。おかげで午後の成果報告まで余裕がある。
こんな時は決まって、狩場の近くにある遺跡を覗きに来る。
遺跡と言っても小さく、迷路やお宝なんかない。丈夫な岩造りって以外は、がらんどうの一軒家みたいなもの。でもどうしてかは分からないけど、危険な動物も住み付かないから、雨宿りにもちょうど良い。
それにここには、お宝ではないけれど、面白いものがある。
「これ、何をやってるんだろうね?」
「さぁ? まぁ分からないからつい見に来ちまうんだろうな」
僕たちの目の前には、ご先祖だろうと思われる人が居る。
大きく口を開けているように見える黒い塊に、両手を何度も叩きつけるようにしながら、身体を揺らしている。
採掘しているのか、制作しているのか。
はたまたこの黒い塊が生き物だとして、狩りなのか。
さっぱり分からない。
ヒントを得るにも、近づいても触れることも出来なければ音もしない。
遺跡の中央に円を描くように模様が掘ってあり、中心に光る玉が埋め込んである。
このご先祖が、玉が映しているまぼろしだと分かったのは三回目の時。
玉をくり抜こうとして現れた彼女と黒い塊に、一度目は驚いて逃げ出し、二度目はイッカが威嚇して無視され、三度目に邪魔しようとしたらすり抜けた。
その時ようやく、この人がここには本当は居ないのだと理解した。
よくよく考えてみれば、一回目の時だってすり抜けていたんだと気づく。
なんだか毛も少なくつるんとしていて変わった姿をしているなって思っていたから、僕たちはまぼろしだと納得した。
それから毎回雨の日には、雨宿りついでに見に来ている。
「お前のじいさんでも分からないのか?」
「じいちゃんも聞いたことを伝えてるだけだから、新しいことは分からないよ。それに最近忘れっぽいし」
「それ。俺この前妹と間違えられたんだけど」
「その話もうちょっと詳しく」
雨宿りの時間は、和やかに過ぎていく。
目の前の光景の意味は分からない。だから良いのかも知れない。
未知が僕たちを惹きつけている。
◇
この世界の成り立ち。じぃちゃんから聞いた話だ。
昔々、僕のご先祖様たちは、星の怒りを買ってしまい数が激減したらしい。
だから僕たち子孫を遺すために、種族を多様化させること、生活を質素にすることに尽力した。
なんとご先祖の時代は、狩りなんかせずに家から一歩も出なくても食べ物が届き、水を汲まなくても体が洗え、不治の病の虫歯だって治せたらしい!
お腹が空く心配がないなんてサイコーじゃんとじぃちゃんに言ったら、
「ご先祖はその分とても身体が弱くて、ジャンプで二階の玄関には入れないし、素手で穴は掘れず、コブシシにぶつかったら何日も動けない大ケガをしていたそうだが、お前はそっちの方がサイコーか?」
そう笑っていた。だったとしたら、ご先祖様はどうやって生活していたのかと不思議だった。
「まぁ、かわりに手先が細くてすごく器用だったから、色々なものを作ることができたのだ。たまに発掘されてまだ動くモノなんかは、だいたいその時代のモンだな」
「なんでまだ動くの?」
「たまに確認しに来ているからと言っとったぞ?」
さも会ったかのような口ぶりで言うもんだから、夢でも見たのかとからかうと、
「会ったことがあるのさ」
と、じいちゃんは懐かし気に答えた。
そんなはずないと思ったけれど、僕はどうしてだか、からかったり否定したりはできなかった。
そんなじいちゃんも今は少しボケてきていて、日々のとんちんかんなやりとりから、やっぱり嘘だったのかな? なんて僕は思っている。
◇
ちょうど食事が済んだ頃には雨が上がり、遺跡の崩れた隙間から光が差し込み始めた。そろそろ集落へ戻ろうかと火の始末をしていると、妹に間違えられた幼馴染が、何やら身体をくねらせておかしな行動をとり始めた。
「肉しっかり焼いたんだけど、お腹でも壊した?」
「バカ、影を見ろよ」
光の加減でできた影が、ちょうどご先祖が叩いている何かと形が似ている。
イッカの影が、ご先祖の動きと重なるように動く。
「なんに見える?」
イッカが問う。
影の動きだけ見ると、採掘というよりは、口を開けた黒いのと戦っているのか、食われているのか。
映し出されているのは、黒の怪物に対峙する色白で肌がつるんとしたご先祖。
怪物とのサイズの差は歴然で、争いなら勝ち目なんてなさそうだ。
でもじゃあなんで、見ている僕たちはこんなに気持ちが高鳴るのだろう。このご先祖は、こんなにも楽しそうに見えるのだろう?
「踊りじゃないかなぁ?」
「……やっぱお前も、楽しそうに見えるよな?」
「うん」
ご先祖はどう見ても笑っている。
なんとなく当たっている気がして、二人で真似した。
『スゴイオンリョウダナ』
一瞬、ふっと遺跡の影を上塗りするほどの暗闇が辺りを塗りつぶし、その声の主は現れた。全身が凍った湖の表面のような光沢のある肌で、顔に当たる位置はまっ白な球体だった。
二本足で立っている。手足はテカテカツルツルだけど、聞こえた言葉は僕たちと同じように感じた。
「何だ、コレ?」
イッカには、コイツが生き物には見えなかったのかも知れない。
驚いて小さく漏れた呟き。
ソイツの頭がかすかに動き、こっちを見たのだと察した。目も口もないから、身じろぎから理解できることは少ない。
『オオ、ゲンゴタイケイハニカヨッテイルナ。タイキノウドモモンダイナイ』
ソイツから聞こえた音が、言葉を発したんだと僕が気がつくまで、少し時間が必要だった。
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