実力至上主義の魔導士

源真

第1話「戦闘テスト」


 俺は無事に寿命を終え、現在は転生の間にいる。そこでは次に俺が転生する先を決める場所として存在するみたいだ。俺は今までそんな場所があることを知らなかった。しかし、今の時点でその存在を知り、そこでこれから転生を迎える準備を整えるのだ。


「俺はどうなってしまうんだ?」


 すると、そこで俺の前に現れた一人の女性が、その疑問を晴らしてくれる。俺にとって彼女の受け答えを怪しく思えた一面は見られず、それ以上に安心感を抱かせてくれた。


「私は転生の死者です。あらゆる生物の転生を受け持っています。もちろん貴方の転生経験は一度だけではありません。すでに私は何度も貴方を担当しています。そこで今の貴方が次に転生する世界としては、かなり好評が高いところに決まりました。そこで充実した人生が送れるかどうかは貴方次第です。なので、転生しても頑張ってくださいね?」


「俺は生まれ変わるのか?」


「はい。そうなります。すでに生前の記憶は消えていますので、未練は残っていません。しかし、それが行われたからこそ、貴方は新たな人生が送れるのです」


 どうやら俺は人生のリセットを受けたらしい。俺の記憶がなくなることで、生前の未練を残すことなく生まれ変わる覚悟を迎えられるのだった。


「頑張ります」


「はい」


 彼女はにこっと笑みを浮かべてから、俺に向けて謎の言葉を発した。それが俺の転生を開始する合図であり、そこから新たな人生が始まるのである。


「人生スタート!」


 そして俺の意識は一瞬にして眩暈に襲われるのだった。


 ※ ※ ※


「起きて?」


(——んぅ?)


「起きなさい!」


 俺が気付いた頃にはすでにさっきまで自分の身に何があったかを忘れていた。そして、そこで耳障りで嫌な声が俺の意識をはっきりさせることになる。


「——はっ!」


「お? やっと起きたなぁ? 早くしないと学校に遅れるわよ?」


「——はぁ。もそんな時間か? 分かったよ」


 俺は意識を取り戻す。そこで自分は不思議な夢を見ていた訳だが、その内容はすでに思い出せなくなっていた。しかし、その夢に関してはとっくに気にするほど重要な意味を成していなかったのである。なので、俺はまだ微かに残る眠気を振り払いながら起床したのであった。


 俺はベッドから起き上がり、その後は洗面所で顔を洗って目を覚まさせる。その行動は毎朝の習慣であり、俺にしたら生活を送る上で根付いた決定事項なのであった。それを終えると、俺は自分を起こしたお姉ちゃんの作ったご飯を召し上がる。それは焼きトーストにイチゴジャムと言ったシンプルな朝食で、それはいつも決まって出されるものだった。それを有り難く頂くと、そこでお姉ちゃんが俺の正面に座って、肝心なことを思い出させてくれる。


「今日は実技テストでしょ? 自信の方はあるの?」


「んぅ? そりゃあ当たり前だろ。俺なら余裕だね」


「ふーん? 何で自力で起きられない貴方に私以上の素質があったのかしらね? それが不思議でしょうがないわ」


「嫉妬か? まずお姉ちゃんは魔力が少ないのが致命的だよな」


「悪かったわね! 貴方みたいに【真紅の魔眼】なんて宿らなかったのよ」


 この時に出た話題は俺の魔法技能を試す実技テストのことだった。俺が現時点で存在している世界は通称【大魔導世界】なんて呼称されていたほど、魔法が一般的に根付いた世の中なのである。そんな世界に誕生した俺は自分のお姉ちゃんでもあるアリス・ミストナイトと違って、生れ付き魔法を扱うことに特化した魔眼を持っていた。それは【魔法の精度を底上げさせる】のと【膨大な魔力を所持する】と言った効果が持続されるのだ。それだけで魔法において才を見出すのに優勢を得られるのだった。なので、俺はそこらの魔導士よりも魔法の才能があったのである。


「ま、私に魔法の才能がなくても、戦闘において貴方は勝てないじゃない。そこは貴方の方が致命的でしょ?」


「うるせい。お姉ちゃんの【フィジカルスキル】はずる過ぎるんだよ。この【大魔導世界】において、魔法の弱体化を促す代わりとして通常の魔導士よりも特化した肉体を所有するスキル。それによって肉弾戦において最強と呼称されるに相応しい魔導士。魔法を的中させる隙を与えない身体技能に関しては参ったよ]


「ふふーん! やっぱそう思うでしょ?」


「バカ」


 俺はお姉ちゃんの体質がとても気に入らなかった。彼女が発揮する身体技能は魔法なしでも戦闘を優勢に進められるのだ。なので、お姉ちゃんと対戦すると、いつも目にも止まらない動きで翻弄し、俺が魔法を発動させる間もなく負けてしまうのだった。それを克服するにはまず身体機能を活性化させる魔法をさらに強化し、彼女に匹敵する動きを発揮しなくてはいけないのだ。なので、現在の彼女と戦って勝つことはまず不可能と言えるのだった。


 俺は朝食を終えると、その後は学校に行く支度をする。そこで俺は制服に着替えると、すぐに家を出るのだった。


「行って来まーす!」


 俺がお姉ちゃんよりも先に家を出た。彼女が通う学校は俺と違って魔法で劣るところだ。一方の俺は魔法に優れた魔導士が通っている学校である。そこは魔法技能において優秀でないと通えない場所で、俺にとってそこは自分を誇りに思うために存在しているのだった。そこで俺はお姉ちゃんを超える魔導士になって、いつか見返してやりたいと思っている。


 そんな俺の名前はレッドガン・ミストナイトだ。俺は魔法に特化した魔眼を所有しており、そのお陰で通常の魔導士が発揮する精度を超えているのだった。それは【真紅の魔眼】と呼称され、魔法を強化させる性質が常に発揮しているのだ。俺はこの【大魔導世界】において優秀な成績を有しているが、それもまだ十歳の段階にしか至っていない。そこで俺がもっと年齢を重ねれば、さらに有能な魔導士になることは約束されたも同然だった。俺の将来はまだ決定していないが、もしなれるなら冒険者か騎士団のどちらかにしたと思っている。なので、全力で強くなり、まずはお姉ちゃんを超える魔導士になるのが目標だった。


(頑張るぞ! 今日は授業で実技テストがあるんだ!)


 そんな思いを抱きながらも、俺は学校まで走って行った。


 そして学校に到着して、校門の前ではいつも変わらない光景があった。それは元気だけは周囲に劣ることがない生徒会長が、挨拶運動に打ち込む姿である。彼は魔法技能においても優秀で、誰にも劣らない実力があるとされていた。


「しっかり挨拶することは大事だ! 朝は元気のある挨拶を心掛けよう!」


(相変わらずだな? マジで言ってんのか? 仕方ないから挨拶しに行くとしよう)


「おはようございます!」


「お? レッドガン少年! おはよう! 今日も元気があって良いな!」


「はい!」


 そうやって俺は会長に向けて挨拶を完了させると、そこに同級生の女子がやって来た。彼女は俺に並んで会長を目指して同じ行動に出る。


「おはようございます! レッドガンもおはよう!」


「おう、おはよう」


 そこで俺にも挨拶を向けて来たのはエルシャ・ディオローズだった。彼女は俺が唯一好きになった女子だ。俺は彼女に好意を抱いており、いつか恋人になって欲しいと願っているぐらいだた。


 そんな彼女が挨拶を済ませてから、真っ先に俺に声を掛けて来る。そこで取り上げた話題は今日の授業で行われる実技テストのことだった。彼女も俺と同じぐらいの実力を有しており、自分に匹敵する魔力を所持した存在なのである。彼女は魔眼などと言った特別な効果を発揮させるものは有していないが、それでも同列に並ぶほどの実力があると評価されていた。なので、俺は彼女に負けないためにも日々の授業には真剣に取り組んでいるのだ。


 そして俺は彼女と一緒に教室まで来ると、その後からは朝の会が始まる時間をお喋りして待った。彼女と交わす会話はいつも決まって魔法のことである。それほどエルシャにとって魔法は重要な意味を成しているのだった。それは俺だって同じことが言え、彼女の話には興味を持って接するのだ。


 そして俺らは時間になるまで会話を楽しむと、予鈴が鳴るのを合図に着席する。そしたら、前のドアから先生が入って来て、朝の会を開始した。


「はーい! 今日もおはようございます。朝の会を始めますよ?」


 そんな感じで先生によって朝の会が始まると、まずは出席確認をする。そこで俺が呼ばれると、大きな声で返事をした。


 そうやって出席確認が全員に回ると、その後からは今日の授業内容についての話が施され、もちろん要でもある実技テストに関しても取り上げられるのである。それが済まされたら、早速一時間目の授業を開始するための準備時間を設けるのだった。


 そして俺はお昼休みまでの日程をこなすと、その後の予定としては待ちに待った実技テストを迎えるのだ。それは実技会場で行われ、そこに俺と一緒にテストを受ける生徒が集結した。


「よし! ようやくこの時が来た! この時間はお前たちにとって将来性を見出すのに重要な意味を成すことになっている。多くは冒険者や騎士団などに入ることを希望していると思われる。ならば、自治技テストだけは逃してはならないだろう! 心して掛かれ!」


(いよいよこの時が来たか? 俺には周囲と違って【真紅の魔眼】がある。そこに示されたアドバンテージで俺の受ける実技テストが劣ることはない!)


 そんな風に心得た状態で実技テストに挑む。そこに示された意思は固いもので、誰よりお自信を持って臨むのだった。


 そして実技テストは順に行われる。俺は序盤で順番が回って来て、そこで示す魔法はすでに決まっていた。魔法を扱うに当たってそれを強化させることは基礎とも言える。さらに俺の場合は魔眼を所有することで発揮される魔法の精度が底上げさせられているのだ。それを持ち合わせることで周囲以上に発揮された魔法に高い性能を見出すのであった。


「魔法発動! バーニングフォース!」


 俺は炎系統の魔法を発動させた。それは魔力によって火力を底上げし、炎魔法を強化させる効果を発揮できる。それを使用することで、俺が扱う炎魔法の威力は強化された。さらに同じ炎系統の魔法を発動させるのである。


「ブレイジングバーン!」


 凄まじい火力を誇る大火炎を巻き起こし、的中させる対象に向かって解き放たれる。その魔法の階級は【Å級】に位置しており、十歳にしては高度な技能と言えるのだった。


 一気に矛先を向けられた対象は燃やし尽くされ、消滅に至るほどの威力を発揮して見せる。そこで俺が発動させた二つの魔法は、今回の実技テストにおいてS判定が下された。その判定は評価基準の中でも最高ランクに至るとされ、俺は優秀な成績を得ることが出来たのである。



 そして実技テストが終わると、それが全校生徒の前で公開され、自身の評価が確かめられるようになっていた。さらに一週間後には戦闘技能を試すテストが行われると発表され、それに備えた授業が施されるのである。その戦闘テストはとても将来性を見出すのにかなりの重要性を成すと言われ、これを逃すと騎士団入りは望めないとまで忠告される始末だった。俺も将来は騎士団に入団するのも良いと思っていたが、実際は冒険者も欠かせない職業だと一目を置いているのだ。なので、俺としては一応このテストで優秀な成績を収めるに越したことはなく、いざとなった時に困らない選択をするのだった。


 それから一週間が経つ。これまで受けた授業では、最も期待された存在として名が挙がっていた。それはエルシャも一緒で、彼女と当たるのは正直に言うと気が引ける。それも俺が彼女に恋している事情も反映され、五つも以上の実力が発揮できるか不安である。しかし、これだけは逃す訳には行かず、そこは彼女にも分かって欲しかった。


(エルシャはなんて思うかな? 前回は俺が勝ったけど、別に大して気にしているようには見えなかった。しかし、やはり心の中では気にしていたのかも知れない。どうしたら良いんだ)


 嫌われるのは覚悟が出来ている。しかし、彼女がそれだけで人を嫌悪する人物ではないことは俺が良く知っていた。なので、俺は恨まれないことを願いながら、戦闘テストに臨むのである。


 今回も五時間目に行われる予定だ。そこで俺は【バーニングフォース】を駆使して、とっておきの【ブレイジングバーン】で決めるのだと、心の内側では予定していた。前回もそれでエルシャに勝利したので、今回に関しては自信がある。このテストで彼女に負けるなど、決してないと断言するのは可笑しいのかは、正直に言うと分からなかった。しかし、今回のエルシャは以前よりも強くなっているかも知れないkぉとを考慮すると、それだけで俺は侮れないと言った気持ちが生じるのである。


(絶対に勝って見せる。ここで彼女に負ける訳にはいかない!)


 そう思いながらも、今回の戦闘テストに挑むのだった。


「それでは戦闘テストを始める! 前回の成績で対戦相手を決めているので、実力が最も近い人物と当たるだろう」


 そこで先生が発表した対戦相手は、やはりエルシャになっていた。彼女が最も俺に近い実力を有しているのは前回の成績を見ても分かる。なので、俺は今回も全力で相手したいと思うので、彼女と言い勝負が出来ることを期待していた。


 そしていよいよ俺らの番が回って来る。そこでエルシャは緊張している様子を窺わせ、俺の正面に立つと、宣戦布告を示した。


「今日はレッドガンに勝ちに来たわ! どっちが勝っても恨みっこなしよ!」


「分かってる! その言葉が聞きたかった!」


(上等だ。それが聞ければ後は恐れることはない!)


 彼女から発せられた一言によって、俺は勝つことに対して躊躇いを捨てた。そこで彼女に勝利することで恨まれると言った可能性は皆無となり、俺はこの戦いで全力を出すのに後悔はしないのである。


 そこで先生が位置についた俺らに準備が出来たと判断したら、早速戦闘テストが開始されるのだった。


「行くぜ!」


 即座に【バーニングフォース】を発動させ、炎魔法の精度を底上げした。それと同時に【ブレイジングバーン】を発動しようとする。


 すると、そこでエルシャは俺が良く使う手段を見越して、すぐに防御態勢に入るのだった。


「その攻撃ならこれで防ぐ!」


「けど、それはすでに破られ済みだろ!」


「さらに強化したのよ!」


 彼女は同時に二つの魔法を発動させていた。まず【ウィンドフォース】で風系統の魔法を強化させ、そこから彼女が独自で編み出した【風盾】を駆使して来る。それは向かって来た攻撃を風を吹かせて押し出すことで、自身に届かなくさせる風魔法だった。【風盾】は元々彼女によって作り出された魔法なので、まだ正式に認めらてはいないのだ。しかし、個人で使用する分には認められた魔法だった。


(以前までのエルシャには【ウィンドフォース】は使えなかったはずだ。この短期間でそれを習得することで、独自に開発した魔法にも応用できるなんて、さすが俺の認めた女子だ!)


 俺の魔法は見事に防がれてしまう。それも彼女が発動させた【ウィンドフォース】の精度は特に強化されていた。その魔法を短期間で習得できる才能はまさに認めざるを得ない事実としても可笑しくはなかったのである。


「ならば、全力で行かせてもらう!」


「良いわ! 来なさいよ!」


 そんな風に俺は彼女との間合いを詰め、そこである打撃系の魔法を放つ。


「ブレイジングストライク!」


 俺は常に発動している【バーニングフォース】で強化させた魔法で、エルシャとの決着を付けに行く。それは炎を拳に纏わせて強化することで、高威力の殴打を放つと言った魔法だった。そこを再び【風盾】で防ぎに出たエルシャは、そこで俺の使った魔法が思った以上の威力を発揮させていることに気付く。


「いっけぇぇぇ!」


「そんなぁ⁉」


 この時、俺はいつも以上に魔力を消費させて魔法を発動していた。魔法の威力を底上げさせる作用を生み出すのに安易な手段としては、魔力を追加させて消費することだ。それならエルシャだって同じことをすれば防げたはずだと思ってしまうだろうけれど、彼女の場合はそれ以前の問題だった。何故なら二つの魔法を同時発動させるのに尽力を注いでいたため、魔力をいつもより増やすだけの余裕が彼女にはなかったのである。なので、彼女は俺の一撃を防ぎ切ることが出来ず、破られてしまうのだった。

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実力至上主義の魔導士 源真 @mukuromukuromukuro

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