第2話 学園制圧

「おはようございます」


 翌日の教室で、いつものように流麗な声が聞こえた。柔らかな笑みの明莉が教室に入ってくるのを見て、僕も自然と顔がほころんだ。


「おはよう」


 隣に来た明莉と、朝の挨拶。いつもの毎日。いつもの日課。でもちゃんと嬉しくて、心がぽかぽかと温かくなる。と――


「よう、明莉。俺と付き合うって話、どうなった?」


 学園カースト上位のイケメンで、女子に手を出しては捨てているという噂の織田君が、取り巻き男子数人と一緒に寄ってきた。織田君は明莉の肩になれなれしく腕を回す。


「俺のカノジョになれば、学園でもデカい顔できるからさ。ワルい話じゃないだろ?」


 織田君が明莉の肩を撫でるのが嫌でも目に入り、心がちりちりする。


「気持ちイイ思いさせてやるから」


 周囲にいる男子たちが、下品にけらけらと声を立てる。明莉は感情を乱した様子もなく、特に何でもないと返した。


「そうね。返事、まだでしたね。お答えするのが礼儀……ですね」


 言ったのちすっと立ち上がり、何気なくスカートのポケットからハンカチを……といった仕草で「アーミーナイフ!」の様なものを取り出し……。


「ごめんなさい。先に謝っておくわ。『端緒』はどうしても必要なの。貴方に個人的な恨みはないのだけれど……」


 言ってから、いきなりそれを織田君の首に深々と突き刺したのだ。そのまま明莉は、織田君の首を掻き切る。ぶしゅうと真っ赤な血を噴き出して、糸の切れた操り人形のように織田君が床に倒れた。


 僕は、何を見ているのか理解できない。ただただ呆然としている中、クラスにも静寂が落ちる。そして明莉がその瞳と顔に危険な色を宿しながら、普段には見せた事のない有無を言わせない調子で言い放ったのだ。


「この学園は私たちが制圧します。歯向かう者は、すべて殺します」


 明莉が言い終わると同時に、悲鳴が上がった。教室は阿鼻叫喚の地獄絵図になる。出入口に生徒たちが殺到したが、扉から入ってきた男たち――自動小銃みたいな物を持った迷彩服の男たちに阻まれる。


 生徒たちが立ち往生し、バンッという音が響いてみなそちらの方向、クラスの中心を見る。手の平で机を打ち付けた明莉がいて、続いてその明莉が倒れている織田君の頭を足で踏みつけた。


 織田君の頭は、まるで馬に踏まれたスイカの様に砕け散る。血しぶきが飛び散り、クラスから音が消える。恐怖に包まれて、誰かが嘔吐する声が……やけに生々しく教室に響いた。

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