Episode39 交渉成立
「
「これが終わったら、死ぬ気で頑張るよ」
「明日、体が痛いと思うぞ」
「うん、いいよ。覚悟している」
ノアが手配した警察の特別車両に乗る。
もちろん無免許だし、運転技術も無い。だが、全く不安は無かった。
シアンと
もともと
計画は事前にノアに指示し、ノアはシアンの計画の不足分も補い、更に新しいプランを立てた。
ノアは警察の動きを完璧に掌握し、無関係な人が巻き込まれないように周囲を完全に包囲してみせた。ICSPOもAIの力に納得するしか無かった。
法的な問題は棚上げするが、ノアのプランに従えば無免許の
ノアの運転サポートで最短ルートを通り、目的の場所に到着する。
埠頭で待つ
研究者として向ける嫉妬の裏返しだと思うと、納得ができる気がする。
「例のものは持ってきたか?」
「先に七瀬さんを返してください」
従順でない
だが、思い直したように不敵な笑みを浮かべた。
「まぁいい」
蒼井博士の調べた結果、シアンは
そして現在は蒼井博士と林教授は協力して、シアンをヒューマノイドの中に封じ込めている。
依頼の失敗によるペナルティを恐れた暴力団の一味も、
雫月は必ずこの場所に来る。
鈴菜はタンデムベルトで固定され後部座席で眠らされていた。
二人は
解除キーを取られそうになるが、腕を振り払い後ろに引いた。
相変わらずのゲス顔で
その時、
二人は数秒見つめ合う。
その瞳に強い意志が宿る。
一閃ひるがえり、
強風が
無表情の
しかし、ぞくりとするほどきれいだと思った。
「そこの二人を排除するから、このキーとその現金を交換してくれない? お金が必要なの」
悪党仲間に見せるような卑しい笑いだった。
そんな顔を
汚されるようで気分が悪かった。
「いいだろう。死体の処理も任せていいのか?」
「あなたは教師だと聞いたのだけど、合っている?」
「ああ。便宜上な」
「筋書きはこうよ。この女子高生を攫って暴行したのがそこにいる男子高校生。あなたは自殺を
「ほう、なかなかだな。遠くから見たので止められなかったということか」
「そうよ。日本で殺人を犯すと死体から足が付くわ。いい? そこの女子高生に触れて証拠を残してはだめよ。わかった?」
「なるほどな」
「交渉成立でいいわね」
次の瞬間、臨戦態勢に入った
ノアのアシストでどうにか応戦するが、段々と船着き場の岸壁に追いつめられる。
それでも
ノアより強いのだ。
勝てるはずは無い。
最後に円を描くようなストロークで
「うわーーーー」
その直後、ドボンという海に落ちた落下音がはっきりと聞こえた。
「この寒さじゃ助からないわ」
「良い腕だな。俺の配下になっても構わないぞ」
「……」
倉庫前のドラム缶に、もたれ掛かって眠っている鈴菜に近づいた。
大量の血液が地面に流れ、鈴菜の両手は力なくぶらりと垂れさがった。
冷たい光を宿した紫の目を向けてから、すっと手を出した。
「早く警察に連絡しなさい」
滑稽なくらい大袈裟に状況を説明していた。
すぐに警察は駆けつけ、鈴菜の死亡と
夜になっても埠頭はサイレンの赤で照らされていた。
✽✽✽
「いててて……」
限界まで酷使したせいで体の節々に激痛が走る。
おまけに埠頭の岸壁から飛び降りて、テトラポットの上に着地した時に右足の甲にヒビが入った。
「ハル。ノアのアシストでカッコよく着地に成功したのに骨折るって、ひ弱すぎだろ」
「うぅ、退院したら死ぬ気で体を鍛えるよ。それにヒビだよ」
頑張ったが、
体中の筋肉が炎症を起こし、警察病院に運び込まれていた。
全治2週間の入院生活中である。
このひと芝居をしたのには訳があった。
しかも、手配や指示をするための連絡も
この状況を考えると
しかも、教師という職業を偽装できるくらい力のある非合法な団体だ。
そう考えた
その判断してくれたおかげで、林教授が創った
あと少し
林教授の新機能は、イネーブル共有機能だった。
対象者の至近距離(1メートル以内)に入り、瞳を合わせる事により発動する。
その後、7メートル以内ならイネーブル状態を維持しノアの管理下に入る。
あの時、イネーブルを共有して、雫月はノアとARリンクした。
すかさずノアが雫月に指示を出し、芝居を継続することができたのである。
その後、複数人部隊でのプランを実行した。
これはノアが一番得意とするものである。
その証拠にシアンさえも出し抜いた。
アグリが警察を動かし、周辺を通行止めにする。
その全てをノアが指揮し成功させた。
「
「うん」
「ハルは早く怪我を治すことを考えてな!」
あの芝居を指示する前の、
夜の雪がはらはらと舞っていた。
清浄で内側からほのかに光る雪を見ていると、
こんな気持は初めてだった。男としての
---続く---
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