Episode25 黒幕はだれだ
指示書を読みながら
新規に作成するイピトAIに関しては、小型のドームのような形態の装置に投影したいと考えていた。
ノアのプラネタリウムスタジオの小型バージョンである。
一緒に読む
学校にも近く、子供だけしか住んでいない秘密基地。
居心地が良いに決まっている。
なぜ、林夫妻は傍観しているのだろう。
子供たちの危機に黙っている人達では無いはずだ。
だから、ここが避難場所なのだろう。
それでも子供の頃はどちらか一人は必ず、子供達二人と一緒に過ごしてくれていた。
忙しい仕事を調整して、愛情を掛けてくれるような人だった。
家事全般はお世辞にも上手くはなかった。
料理はそこそこ上手だった。
それ以外のことは教授のほうが器用である。
時期ははっきりしないが、勤めていた大学付属の病院を辞め、民間の病院に転職していた。
その頃から徐々に仕事を増やし、子供たちが高校に入学したのを区切りに通常業務に移行したようだ。
「昨日、親父にハルの両親のことを聞いた」
これまで意図的にその話題は避けられていた。
しかし、
その話によると、イピトAIの発案者は脳外科医である
当初は激しいトラウマを持った患者に関して、本来の人格をAIで確立させ、治療の糸口とする研究だったそうだ。
トラウマの無い状態でAIを育てて、同じ年になったAIと対話し統合していくのが発想の元である。
そこから研究を重ね、認可が通ったのが鈴菜の母親である鈴子が受けた臨床試験だった。
イピトAIの研究は、
林教授は曖昧な笑顔で『知らないよ』と答えた。
明らかに何か知っている。
その事は
「昔は親父が入れ物のハードウェアを作って、
「うん。今回初めて知ったけど、
林教授は自分の息子が追及しても、ぼろを出すタイプではない。
のらりくらりとしているが隙のない男だ。
何事も無いように「ああ」と答えていた。
分らないことはたくさんあるが、
小型の簡易ロボットを二人で制作したことがある。
自分たちでパーツを選択し、ロボット作成用のOSをインストールしプログラミングした。
ガジェットもいくつかロボットに搭載し、難しいが楽しかった。
驚いたことに、
コーディングも整理されていてとても美しい。
初めて
その時の正六面体の顔と体を持ったロボットは、総合的な評価は
それは各パーツを正確に組み上げ、見目よく仕上げたからだ。
しかし、自分にはあれだけ全体を見渡しているような美しいコーディングはできないと悟った。
「ハル。この勝負を勝って、イピトAIの権利をかならず手に入れような」
「急にどうしたの? いっくん」
「ぜってえ、ハルに向いているからと思って」
しばらくするとキッチンから良い香りが漂ってきた。
時計を見るともう夕食の時間。
ベッドの上で眠っていたココアも目を覚まし、キッチンへ続くドアの前で尻尾を振っていた。
今日は
ココアが食べてはいけないタマネギ以外は同じ素材だ。
「うまっ、
「意外かな。えっ、どうして……」
「意外は失礼だな。ごめんな」
やはり、ここでも
それでも、二人はすぐに仲良くなった。
チクリと胸が痛む。子供っぽい嫉妬だ。だから、
今まで感じたことのない事柄は無視してしまおう。
「そうだ。屋上で線香花火しない?
「うん、花火したい!」
「うーん、俺はパス。ノアも呼んだら?」
何か考えたいときはいつもこんな感じだ。
多分、一人の時間が欲しいのだろう。
「食事の後片付けをするよ」と、さりげなく付け加えるのがさすがだなと
「そうだね。
✽✽✽
夕食の後片付けが終わり部屋に帰った
『misora』にダイブする前にARリンクでシアンと連絡を取る方法を聞いていたのだ。
しばらくすると目前にシアンが現れた。
「きみって裏切り者の素質があるのですか?」
「めんどくせえ。親父と二人で何をたくらんでいるの?」
「さて、なんのことですか?」
「
「馬鹿ですね。そうやすやすと告白するわけ無いでしょう?」
「その口調じゃ、親父が絡んでいるのは間違いないってこと?」
「さぁ? 無駄な会話です。こんなことで呼ばないでください」
そう告げるとシアンは有無を言わさず目の前から消えた。
すんでのところで恩師に拾われ、その下で甘んじる覚悟を決めたはずだ。
出世には興味ないし、気楽な准教授くらいが自分には向いているといつも笑っていた。万年准教授でも気楽に好きな研究をしている父親を
それなのに―――。
一昨年前にいきなり教授戦に立候補した。
どこからそんな資金とコネを手に入れたのか母親も心配していたくらいだ。
人が変わったように教授戦にのめり込み、しかも勝ち取った。
教授になった後の父親は、
自分の尊敬する父親が我が子と同じに育てていた
だが、親父が黒幕で
それが大学の頃なら親父とお袋の知り合いで間違いない。
これからどうやって真相を掴めばいいのかわからない。
---続く---
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