第43話 恋なんてするもんじゃない③

 栞里から頼まれた駐在所の掃除もやっと終わる。

 一階の床の間に敷こうと持ってきた白いウッドカーペットを車から取り出して、担いだ時だった。


 隼人は『うねり橋』を渡ってくる、を見た。


 スーツ姿の彼は、親しげに隼人に微笑んでくる。


 隼人の時間が全て止まった。

 身動きが全く出来なくなる。

 彼から何かを言われたが、耳鳴りがしてよく聞こえない。


 ああ、名前を訊かれたのか——。

 そう察し、自分の名を名乗ろうとしたが、上手く口が動かない。


 沢木がやって来てくれて助かった。

 彼の興味は沢木に移ったようだ。

 彼からの視線が外れて隼人はホッと息をついた。


 やっと落ち着いて彼を見る。

 細い体。

 白い首筋がなんとも美しい——。


 美しいだと!?

 男じゃないか!!


 隼人は自分の感情に驚いた。


 不意に彼がこちらを見る——長い睫毛。なんの邪心もないような澄んだ瞳——隼人はカッと頭に血が上り、すぐに顔を反らした。

 ウッドカーペットを担いで、駐在所の中に入る。


 いったい自分は、どうしてしまったんだ——。

 隼人は作業に戻りながら、今の自分の感情を分析しようと試みた。

 


 

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