第39話 蛇男を探せ⑤

 セーラー服の子はルナ、ブレザーにえんじ色のリボンの子はユウナといった。

 ルナは長い真っ直ぐな黒髪に華奢な体つき。

 ユウナは明るく染めた髪を肩で跳ねさせ、かなりボリュームのあるバストをしている。


正志まさしは、だいたいルナちゃんを指名してたよ」とユウナが話し始めた。「ルナちゃんが生休の時とか、ヘビちゃんと一緒の時は、ルナちゃんがヘビちゃんについて、あたしが正志についてる」


「ヘビちゃんっていうのは、田所の連れのこと?」

 石黒が笑顔で訊くと、ユウナはコクリと頷いた。


「どうしてかな? モンモン……いや、蛇のタトゥーでも入ってるのかな?」


 ユウナは隣のルナを見た。二人は顔を見合わせ、意味ありげに笑う。


「ルナち、教えてやんなよ」

 ユウナがルナを肘で突っつく。


「あいつさ」

 ルナが可愛い顔を歪める。「蛇のお面被らないと、勃たないんだよ」


「……ずっと、お面被ってるの?」と石黒。「シャワー浴びてる時も?」


 ルナはニヤリと笑った。ほとんど侮蔑と言っていい笑いだ。


「あいつは、シャワー浴びないよ。下、拭くだけ。時間が惜しいんじゃない? 金、なさそうだし」


「じゃあ、ルナさんは男の顔を見たことがないんだね?」


「いつも部屋を真っ暗にするから、廊下の明かりでぼんやり見えるくらい。お面つけないで頑張った時もあったけど、ダメでさ。近くに行って慰めたけど、すぐ顔そらしてお面つけてた」


 ルナはそこで大笑いした。

「そしたらさ、あいつとたんに、元気になってやんの」


「マジか!」

 ユウナも一緒に声を上げて笑った。


「耳はどうでした?」


 それまで黙っていた宇佐美が口を開くと、二人の笑いがピタリと止まった。


「耳は潰れていませんでしたか?」

 宇佐美は無表情でルナを見つめる。


「……別に、普通だったよ」

 ルナは反抗的に宇佐美を睨んだ。


「年齢は? おおよそでいいので分かりませんか?」


「知らない!」

 ルナが不貞腐れたように、そっぽを向く。


「下の毛はどう?」と石黒がご機嫌を取るような声を出した。「白髪は生えてたかな?」


「全剃りだよ。男のくせにパイパン」


「はい! あたしもです!」

 ユウナがおどけて手を上げた。


「ユウナちゃんは、許す!」

 ルナがユウナの腕に絡み、肩にもたれた。「男はキモいよ」


 その後もルナに男の身体的特徴を尋ねたが、有益な情報は得られなかった。

 上半身はつねに服を着たまま、下しか脱がなかったというのだから仕方がない。ただ、ルナが「上背があって体格がいい」と言ったのは、沢木の証言と一致する。


「ねえねえ、正志とヘビちゃんみたいなの、『穴兄弟』って言うんでしょ? あたしたちみたいに同じ男知ってるの、何て言うの?」


 ユウナが訊くと、石黒が笑った。

「竿姉妹とか、棒姉妹かな」


「棒姉妹だって!」

 ユウナがルナを見て笑う。「なんかもう終わりみたいじゃん!」


「ユウナちゃん! 私たち、もうオシマイだ」

 ルナがハイタッチを求め、ユウナが応じると二人は笑い転げた。


「……石黒さん、そろそろ失礼しましょう」

 宇佐美が立ち上がろうとする。


「ねえ、正志はヘビに殺されたの?」

 ルナが宇佐美を見上げ、酷薄な笑みを浮かべる。


 答えたのは石黒だった。

「まだよく分からないんだよ。田所さんが亡くなったのかどうかも不明なんだ」


「正志なんか死んでいい奴だよ」


「田所も、あまりいい客じゃなかったのかな?」


「いつも、私の髪に出してた――あそこに、ぐるぐるに巻き付けて……」

 ルナは忌々しげに長い髪を手ぐしで梳いた。


「髪洗う時間分の金はくれるけど、いくら洗っても臭いが取れないし。家でも髪、乾かすたびに思い出すんだよ。マジであいつ死んで欲しい。お面つけないとダメだったけど、ヘビはラクだったよ。最後は自分でしごいて終わるから――ずっと見ててくれっていうのが、ウザかったけど」


「……もう、行きましょう」

 宇佐美が再び、石黒を促した。


「ねえ、ルナち」

 ユウナがふいに口を開く。「ヘビちゃんのちんこ、変わってるって言ってなかった?」


「うん。キモかった」

 ルナがまた髪を梳く。


「へぇ、どんな?」

 石黒が身を乗り出した。


「あいつ、仮性なんだけど――皮むくと」

 ルナは手で皮を剥くジェスチャーをしながら言った。

「亀頭の下半分が、青黒い色してた」

 

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