第3話 ぜんぶもえた
公的資料から「やむすび祭」が消えていることを知り、僕はこの調査が自分の手に負えないのではないかと調査を諦めることを考えた。知らなくてもいいことはこの世の中にたくさんある。少なくとも生徒たちにこのことを話すことはないだろう。
しかし、ここで調査をなかったことにすることも嫌だった。
「そうだ、せめて何故開催されなくなったのかくらい理由を知らなければ」
隠されているなら隠されているで、その理由があるはずだ。それを確認した上で僕は調査から手を引くことを決めた。
「もしかしたら、開催されなくなった理由くらいならわかるかもしれない」
僕は再び新聞の縮小版を手にする。最後の「やむすび祭」から旧
「元からのどかな村だから、内部はどうかしらないけど警察沙汰にまではなっていないか……」
旧渡霧村に関する情報はいくつか見つかった。
『村議会議員、無投票で決まる』
『過激派組織、村内に潜伏したか』
『渡霧分校、閉校へ』
『長寿猫マオちゃん24歳の誕生日』
僕は手繰りながら、公的資料から祭りの名前が全部消されていたことを思い出す。もしここで何も見つからなければ、大人しく手を引こう。そう思いながら僕は「やむすび祭」の痕跡を探す。
「……火事、か」
見つけなければよかった、と思っても僕はそれを見つけてしまった。
『
それは旧渡霧村で、最後の「やむすび祭」から七年後に起こった出来事だった。綱張神社は旧渡霧村の一番奥の山の中に位置し、そのため消火活動が遅れたことが記事には書いてあった。出火元は不明、この火事で宮司夫妻が死亡、宮司の娘が行方不明となっている。その後神社は再建されず、おそらくここで行われていただろう「やむすび祭」もその後途絶えたと考えるのが自然なことだと僕は思った。
「綱張神社、聞いたこともない」
震える手で古地図を確認する。旧渡霧村は奥まったところにある山村で、峠道の往来があった頃には小さな宿場として機能した時期もあったようだ。しかし新しい県道が出来て、旧渡霧村の存在意義はなくなった。細々と農業や林業で人々は生活していたが不便な山奥に若者が土地を離れ、典型的な過疎の村となった経緯がある。
「つなはり……これか」
見つけたのは旧渡霧村の奥の奥、山の中に隠れるように存在していた。ここが火事になったら、確かに消火に時間はかかるだろう。凄惨な事件があったのは間違いないが、それなら何故「やむすび祭」は資料から全て消されているのだろうか?
僕は現在の地図を出してきた。この綱張神社へ続く道は今でもあるのだろうか。旧渡霧村から林道のような道が伸びて、山中で途切れている。おそらくここに綱張神社があったのだろう。
「……郷土の歴史の研究だから」
僕は自分に言い訳をしながら、諸々の資料を棚に収める。図書館の冷房が汗をかいた体に直撃して、更に寒気を催す。
直接行って、確かめなければ。
自分でも何でそう思ったのかよくわからなかったが、僕は綱張神社へ行かなければならない。何かに急き立てられるように僕は図書館を後にして、車のエンジンをかける。
「時刻は、午後3時55分。ここでトラフィックインフォメーションです」
カーラジオから軽快な音と共に交通情報が流れてくる。これから向かう場所には無縁の情報だ。ここから綱張神社まで、車で行けば片道大体五十分程度だろうか。ちょっと見て帰ってくれば、暗くなる頃には帰って来れるだろう。僕はそう考えて、車を旧渡霧村へ進めた。
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