第28話 作戦完了 フ死ノ騎士ヲ狩ル
いつの間にか拠点の位置まで移動していたイルバは予備の矢筒の中の1つを開き、2本の矢を取り出す。
そのまま、無言で1つの矢を弓につがえる。
素早く引き絞ると放つ。
ごくごく自然な動作で放たれた矢はネピリムの胸へと吸い込まれた。
分厚い胸甲を安々と貫く矢。
恐らく貫通力に特化した螺旋状の錐のような矢じりだったのだろう。
その一撃にネピリムは驚いたような表情を見せる。
しかし痛みのようなものは感じられない。
無造作にその矢を抜こうと片手を上げた時、その矢と同じ箇所へ矢が突き刺さる。
前の矢を引き裂きながら突き刺さった矢はさらに身体の奥深くまで突き去ったのであろう。
ネピリムは片ひざを地面に着く。
「貴様が呼吸してるのか分からんが念の為、気道を潰させてもらった。」
イルバが静かに言う。
その間も次の矢をつがえ準備している。
後方で行われた動作をなぜ俺が理解できたのかは分からないが、今はネピリムに集中する時だ。
続けざまにマハトが距離を詰め直剣を振り下ろす。
膝をついた相手に容赦のない一撃を与えるのは騎士道的にどうかと思うが、相手が正攻法で勝てる相手ではない。
だがその一撃はネピリムがとっさに
振り上げた左腕に阻まれた。
しかしマハトは続けざまに横から左脇を狙って斬りつける。
こちらも一瞬早くネピリムが腕を下ろしたことで弾かれる。
そしてまたマハトが別の角度から斬りつける。
どの一撃も決してけん制ではない。
普通の魔物相手であれば、それぞれが必殺の一撃となるほどの斬撃をネピリムは片手で弾いてるのだ。
だがそれでも諦めないマハト。
息が上がろうと威力を落とさないように気合とともに振り下ろしていた。
そして、ついにネピリムが反撃に出る。
幾度目かの打ち下ろしを弾いた時、マハトが一瞬よろめく。
その瞬間を見逃さないネピリムは巨剣を握り直すと鋭く突きを放ってきた。
無理な姿勢からの一撃ゆえに本来の威力はないだろう。
しかしかろうじて盾で受け止めたマハトを吹き飛ばすには十分だった。
「ガハッ!」
地面に叩きつけられたマハトがその衝撃からすぐには立てないようだ。
オイフェが走りマハトの方へ向かうのが見える。
そして静かにだがハッキリとした発音で術式を編む。
神に近い力を有するのであれば、俺たちは異界の神の力で対抗するまで。
今、召喚の術式は完成した。
俺とルシアは、その名を叫ぶ。
「「召喚の秘名に応じよ『
曇る天より一条の稲妻と共に神々しい魔剣が舞い降りる。
『魔剣召喚』により呼び出された異界の聖剣を右手に握る。
左手に持った長剣とあわせて構える。
「はっ!」
さすがのネピリムもこの一撃は想定していなかったらしく、慌てた風に巨剣を縦にして受け止める。
まだ!
続けてガラ空きになった右側から魔剣が襲う。
さすがのネピリムもこの一撃は避けられなかった。
魔剣の刃は安々と厚い鎧を切り裂く。
しかし、ネピリムはとっさに後ろへ跳んだことで致命傷には一歩届かない。
さすがに強い。
多勢でかかれば、いくら
「気をつけて!」
舞いながらもラファが声をかけてくる。
そう俺たちが全力で行く中、マハトがいま一歩踏み込めない理由がある。
それはすでに『不壊』の偉業を使用していることだ。
ゲーム的には1セッション1回となっているが、こちらの世界では具体的にどの程度の間を置く必要があるのか不明だ。
しかしすぐに使えないことは間違いない。
そうなると彼自身の切り札である、偉業『闘鬼』に様々な特技を組み合わせた捨て身の攻撃を行うのことがためらわれる。
普段であればラファの偉業『黄泉戻し』が有るが、これは今回使えない。
いや、全く使えない訳ではないが、少なくともマハトはその選択を拒むだろう。
だが今、マハトの捨て身の攻撃が必要だった。
彼の迷いを吹っ切るためにはどうすれば……。
その時、俺は閃いた。
前回のグラシャとの戦いを思い出した。
その時の光景を。
マハト、オイフェ、ラファを巻き込んだグラシャの一撃。
それを防いだ手を。
あの時の様なキレイな連係ではないが手は有る。
「マハト、同時に仕掛けるわよ!」
同時に攻撃する意図は通じた様だ。
マハトが走り出しルシアが続く。
恐らく敵は同時に2人を狙ってくるだろう。
それに対しマハトはルシアを
しかし、今回は
ネピリムが大きく剣を振り上げるのが見えた瞬間、
「な、なにやっている!」
思わず叫ぶマハトを無視しさらに加速する。
突然、突撃してきた俺にネピリムも動揺する。
しかしそれも一瞬。
すぐにルシア1人に狙いを定めると一気に剣を振り下ろす。
一瞬が何倍にも引き伸ばされたような感覚の中、俺はタイミングを計る。
迫る刃。
まだ遠い。
前髪の1つが刀身に触れる。
触れた髪が切られる。
今!
その身体は実体を失ったかのように消える。
周りからはそう見えただろう。
実際には気配を遮断し横へ跳んだだけだ。
ただし神すらも欺く気配消しと、神速のジャンプが合わさって初めて可能とする絶技。
まさに偉業といって良い動きだった。
「マハト!」
ネピリムの攻撃をかわしたと同時に俺は叫ぶ。
「おおっ!!」
それで全てを察した彼は雄叫びと共に突進する。
全てを賭けた渾身の一撃。
これもまた偉業と言うに相応しい一撃であった。
肩から袈裟斬りにされたネピリムですら見惚れるほどの一撃。
その一撃に耐えられなかったマハトの直剣が粉々に砕け、吹雪のように舞う。
その中、誰も反応できないほどの速さで矢がネピリムの額を打ち抜いた。
『稲妻撃ち』
イルバの
あまりの速度にいかなる者も見極めることが出来ない一射。
その必殺の矢はネピリムの額に深々と突き刺さった。
「ネピリムと言えど、その身体はすでに死騎士。 ならば胴体と頭、同時に落とさなければな。」
イルバが誰に言うでもなく放った言葉。
そうなのだ、コイツはネピリムにして死騎士。
同時に複数の不死特性を持つ存在。
普通の倒し方では滅するのは不可能だ。
だからこそ!
まるで重さなど無いかのように天高く舞い上がる魔剣の下、ルシアは左手の甲を見せつけるように拳を構える。
その左手には光の紋様が浮かぶ。
これこそ転生戦士としてのルシア、『
俺がゲームルール則り魔剣使いの偉業『魔剣解放』として設定していた彼女の超技能。
異世界転入なんて中途半端な状態の俺には渡されていない、歴戦の転生戦士にのみ許された神をも超える能力。
『
現実世界でルシアはそう言っていた。
俺の設定と同じく、灰被りは異界の神の血族である。
そのため、彼女自身は一時的に『神の娘』としての能力が使える。
元の世界では、まだ常識の範疇の能力だが、異世界に渡ったとなると話しが変わる。
『先祖返り』を発動させると、一時的にとは言え世界の法則を塗り替えてしまうのだ。
神の娘が存在することを世界が許容するために、元の世界の律に塗り替えられる。
それによりあらゆる魔物の特性は消え去り、神の力である偉業すらも一時的に効果が落ちる。
故にルシアとしても切り札中の切り札として、使用を控えている。
だが仲間の偉業が尽きかけた今こそそのタイミングだった。
魔剣と紋様からあふれる光が世界を覆う。
周囲の風景は塗り替えられる。
それは薄曇りの黄昏時。
どこともしれない遺体無き戦場。
主無き武具が無数に打ち捨てられた荒野。
幾つもの風景が重なるその場は異界神の庭。
そこに絹糸の如き髪をなびかせルシアが降り立つ。
それは俺から見ても神々しく美しかった。
レースの袖を跳ね上げ掲げた右手にゆっくりと剣王が収まる。
それをゆっくりと、あくまで優雅に振りかぶる。
しかし打ち下ろされる一撃はこれまでのどの一撃よりも早く重い。
我を忘れるのはネピリムも同じだったが、かろうじて意識を取り戻したのであろう。
振り下ろされる剣を受け止める。
さすがに全体的に能力が上がったとは言え、この巨剣を一撃で破壊することは不可能だった。
しかし、俺もルシアも冷静に相手を視る。
すでに深手を負った死騎士風情は相手にならない。
俺の意識を受け取ったルシアが跳ぶ。
文字通り羽根の様に宙に舞ったルシアだが、次の瞬間、何かを蹴ったかのように死騎士へと急降下する。
さすがに死騎士もこの速度には反応ができなかった。
俺たちは十分にスピードに乗った一撃を振り下ろす。
頭から直撃を受けた死騎士。
俺たちはそのまま勢いを殺さずに地面まで剣王を振り下ろす。
着地と同時に軽やかに一歩後ろへ跳ぶ。
右足を軸に反転しながら剣王を振り払う。
背後でネピリムが光の粒子へとほどけていく。
その光はまるで白い羽根の様に周囲を覆った。
光の粒子が消えた後に死騎士もしくはネピリムの姿は無かった。
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