歩き旅

@noca72

第1話 歩き旅

道の真ん中を歩いている。青々とした草が生い茂る草原、草を掻き分けて伸びる道がどこまでも広がっている。見える物は何もなく、向かう場所もなく、それでもただただ真っ直ぐな道を進み続けている。

 何でこんなことをしているのだろうか。家に出ることすら、もう何年もしていないというのに……。頭に浮かぶ疑問を無視するかのように、自分の足は淡々と歩みを進めている。

 進んでいくにつれて少しずつ景色が変わっていく。側を流れる小川。隣に敷かれた線路と自分と一瞬だけ並走して去っていく電車。気付けば視界に映っていたそれらは、ふと目の前に現れたツタまみれの石橋を渡ってからは姿を見せなくなった。

 自分の意思に反し、風景は流れていく。諦めて風景を見ることだけに注力していると、遊園地のアトラクションに乗っているような気分になってきた。

 ああ、これは夢だな。そうでなければ、わざわざこんな所に行く理由など無い。ただ代り映えのしない部屋で日々を過ごしていたからか、

何もない道を歩いているだけで不思議と心地良さを覚える。


 旅をしてるな、今の自分。


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 目を覚ました。視界を覆う天井、全身を包む布団。さっきまで歩いていた感覚が、徐々に寝そべっている感覚へとアップデートされてゆく。

 旅はこれでおしまい……にしたくない、と思った。夢の中のように遠いところまで旅行するには、お金も時間も足りない。ただずいぶんと久しぶりに、歩きに出かけたいと思ったのだ。

 感覚が残るうちに、布団を投げ出し身を起こす。ベッドから床へと足を下ろした瞬間に、歩いていた時の感覚が戻っていった。

 重たい足取りのまま玄関へと向かい、ドアを開ける。隙間から吹く風は冷たく、差し込む光は眩しい。煩わしさを感じるがいつもより随分とマシな気がした。まだ、歩けそうだ。遅めの朝ごはんを買いに、今日は近くのコンビニまで行ってみようか。

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