第12話:下屋敷 鳴門(しもやしき なると)
桃が俺のマンションで暮らすなら、服も買わなきゃいけない。
飯も食わさなきゃいけない。
ってことで俺は桃を連れて街に出た。
俺は自動二輪と車の免許は持っていたがバイクも車も持っていない。
だから足はもっぱら公共機関を利用していた。
カメラマンとしての仕事も県外が多いから車を使うことはほぼない。
桃が彼女って言えるかどうかまだ分からないけど、こうなった以上
やっぱり車は必要か・・・ポンコツでもいいから。
俺と桃は大きな駅で降りて、そこからバスに乗って大型スーパーに直行した。
街のブランド専門店に桃を連れて行ってもよかったが、そういうところの服は
めちゃ高いから・・・。
スーパーの婦人服売り場ならさほど高くもないだろう。
で、スーパーのエスカレーターで4階へ上がろうとした。
そしたら誰かに声に呼び止められた。
声がしたほうを振り向くと世話になってる出版社の「
俺とは同僚みたいなもの。
女に手が早く金にルーズ、だけど性格は悪いやつじゃない。
案外いざとなったら頼り甲斐はある男・・・だから時々飲みにも行く。
「おう、シモ・・・」
「なに?大ちゃん・・・買い物?」
そう言いながら、下屋敷は俺の横にいる桃を目ざとく見た。
「連れ?・・・彼女とか?・・・」
「あ、俺の妹・・・妹の桃」
俺はとっさに嘘をついた。
シモは俺が澪と付き合ってることを知ってるから、桃のことを彼女って言え
なかった。
やばい、やばい。
「へ〜妹さん・・・大ちゃんに妹さんなんかいたっけ?」
「兄妹にしては似てないよね・・・へ〜・・・まじいもうとさん?」
「つうか、めちゃ可愛いじゃん」
「田舎から出てきたばっかで、今俺のマンションに・・・」
「それじゃまたな・・・俺たち急ぐから・・・」
嫌な予感がする下屋敷 鳴門(ねこやしき なると)
俺はそれ以上余計なことは言わず桃を引っ張ってその場をあとにした。
あいつに桃の本当のことがバレたらやっかいだからな。
あいつ出版社やめて経営コンサルタントなんて怪しい職業に就こうとしてる。
所詮、宮使いは務まらないタマ・・・俺と同じ穴のムジナだ。
さて、俺は桃を連れて婦人服売り場へ。
でも俺の思惑は甘かった。
婦人服売り場なら服も安いだろうって思ってたら、なんとスーパーだって
ブランドショップが軒並みじゃないかよ。
桃は水を得た魚みたいに自分の好きな服を選んだ。
結局、下着も含めて桃の服は高くついた。
しかたない、必要なものは必要。
で、そのままスーパーに入ってる回転寿しで寿しを食った。
「わは〜私の時代には回転寿しなんてとっくになくなってるだわよ」
「お魚だってクローンだし・・・」
「いいだわ、回転寿し・・・美味しそう」
桃は美味い美味いって結局、20皿食った上にラーメン食ってデザートの
シャーベットを二個も平らげた。
俺は飯を美味そうに食う女と、よく食う女は嫌いじゃない。
だけど・・・スーパーで下屋敷に会ったのは誤算だった。
あのスーパー以来、やつは俺の下宿に頻繁に遊びに来るようになった。
桃のことを妹だと言ったことは失敗だった。
シモは桃が俺の妹だと思って鼻の下を伸ばして来てるに違いないんだ。
桃は一番やっかいなシモに目をつけられてしまった。
澪以外にウザいのがひとり増えた・・・なんとかしないと。
つづく。
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