24話


「はっ……!」

身体を起こすと、鈍い痛みが全身を走った。どうやら長い時間固い板張りの床に寝かされていたらしい。起き上がると身体のどこもかしこもがバキバキに強ばっていた。


辺りは、薄闇に沈んでいる。目をこらして見ると部屋は横に長い構造になっていて、奥はさらに暗くなっていて見えない。

一番驚いたのは、手前側の壁一面には木造の格子が嵌めこまれていたことだ。


「これって……もしかしなくても、牢屋ってヤツ!?」

それも、いわゆる土牢というやつだ。こんなもの、本州の時代劇でしか見たことがない。


「う~ん、うるさいなぁ~もう何さぁ~」

もぞりと奥で何かの影が動いた。暗がりに、相手の両の目の光が鈍く浮かび上がる。


「あれ、もしかして陽向!?」

影が獣のように飛び出し、勢いよく抱きついてきた。

「やっぱり陽向だ! もしかして、俺を助けに来てくれたのか!?」


「お前っ、海斗なのかっ……!?」

陽向は海斗の髪を掴んで、その身体を引き剥がした。そしてその顔を見るなり、首を傾げる。

「あれ……? お前、海斗だよな?」


「どよーん! やっぱ、そんなひどい……?」

海斗は、自らの顔をベタベタと触った。海斗の顔はどこもかしこも腫れていて、青黒くなった痣があちこちに出来ていた。


「それ、一体どうしたんだ? ひどい顔だぞ」

「聞いてよ~ボコボコに殴られたんだ。くそっ、あいつら、顔ばっかり狙いやがって。俺のとりえなんて、これくらいしかないのにぃ!」


「自分でもわかっていたんだな。それより、何でこんなことに……? というか、ここは……?」

「松葉組の、組長の家だよ」

「松葉組?」

「繁華街を仕切っているヤクザ」

「や、ヤクザだって!? 何だって、そんな——……いや、だいたい検討はつくけど……」


ここにきて、海斗がおいおいと泣きべそをかき始めた。

「俺だって、こんなつもりはなかったんだよぉ~ある二人組に誘われてさ、『男や女を惚れさせるだけの仕事だから』って言われて……それこそ天職だと思ったし、どうせホストか何かだろうって軽い気持ちでオーケーしたんだ。お金も必要だったし……そしたら、あいつら裏で詐欺をしていたらしくて……」


海斗の泣き声が一層大きくなり、土牢に響き渡る。


「そししたらそのうち、松葉組が詐欺に気づき始めてさ、すぐに逃げようということになった。で、俺は逃亡のための資金を調達する係に任命された。嬉しかったよ。俺、小学校の時から責任のある係に命じられたことなんてなかったからさ。それで色々金をかき集めて……陽向からの慰謝料も、質料もそのために……で、いざ逃げようってなった時に、あいつら、俺のアパート——じゃなくて、お前のアパートに乗り込んできて、俺をボコボコに殴ったんだ。そんで目を覚ました時にはもう誰もいなくて、集めた金もなかった……そればかりかタイミング悪く、松葉組の組員が乗り込んでくるし……」

「つまり、お前は囮として切り捨てられたってわけだ。トカゲのしっぽみたいに」


海斗は聞きたくないと言わんばかりに、盛大に鼻をすすった。


「ヤクザたちは、俺を車に押し込んだ。でも撤収する直前になって、陽向が来たものだから、お前も味方だと思ったらしくて……」

「そして、こうして俺がここにいるということか……わかった。言い訳はあとでいくらでも聞く。今はその顔、一発、殴らせろ!」

「わータンマタンマ! これ以上、顔殴られたら、俺、生きていけないよー!」


海斗は飛んでくる拳を掌で留めた。山のようにぶれない固い感触に、陽向は目を見張る。

「あれ、海斗、何か強くなった?」

「ふふふ、よくぞ気がついてくれた!」


海斗は誇らしげに袖をめくりあげ、腕の筋肉を掲げて見せた。

「牢屋の中ってあんまりにもやることないからさ、ずっと筋トレしてたんだよ。見よ! この胸筋! 上腕二等筋!」

「……本当に、お前って奴は……」


突然、馬鹿らしくなって陽向は拳をおろした。海斗の前に正座し、背筋を伸ばす。

「ってことはつまり、お前は自分が詐欺の片棒を担いでいることを知らなかったんだよな?」

「うん。知らなかった。ただ俺は、アレがついている女の子に掘ってもらえるから続けていただけで……」


頭が痛くなってきた。

陽向は屈辱に耐えながら聞く。ずっと気になっていた問題も、今ここで解決しなくてはいけない。


「海斗はずっと、俺に挿れて欲しかったの……?」

「へ……?」

キョトンしたのち、海斗は盛大に笑いだした。

「まさか! そんなこと、一度も思ったことはないよ!」

あんまりにもきっぱりいうものだから、複雑な気分になった。これはこれで男のプライドが傷つくような……。


「だってさぁ」

海斗が床についた陽向の手に、自分の手を重ねた。薄闇の中、海斗の明るい茶の瞳が妖しく輝き、赤い艶めかしい舌がぺろりとのぞく。

やはりと言うか何と言うか、海斗は怪我をしていても雰囲気のある男だった。


「俺さぁ、何でか、陽向には挿れたくなっちゃうんだよね」

「へ……? ちょ、ちょっと、やめろよ!」

耳元に息を吹きかけられ、両手で相手を押しやる。玄沢にそこが弱いと教えられ、攻め立てられて以来、やたらと敏感になってしまったのだ。


陽向はグイグイと相手を押しやるが、筋トレで鍛えた海斗の身体はびくともしなかった。あれよあれよという間に、両腕を掴まれてしまう。


「ねぇ、いいじゃん。久しぶりにしない? ずっとこんなところにいて、タマって——」

「毎晩、サルのようにシコってた奴が、何言っているんだ」

声のした方を見ると、鉄の閂がかかった牢の扉の前に、一人の男が立っていた。


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