【和風妖怪ファンタジー】7話(3)【あらすじ動画あり】
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【あらすじ動画】
◆忙しい方のためのショート版(1分)
https://youtu.be/AE5HQr2mx94
◆完全版(3分)
https://youtu.be/dJ6__uR1REU
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紅子は自分の胸に手を置いた。
「浅草紅団の頭領である紅子という人格は、私が初めてもらった魂。でもこれは本物の人間の魂じゃない。紙の上に創られた架空の人物の魂なの。だからこそ長続きもしているし、私自身この紅子が一番しっくりきてる」
「長続き……? じゃぁ君はずっとこんな…?」
無表情のまま紅子は首を振る。
「いいえ。私も以前は普通の娘だった気がするわ。こんな風になったのは、あの震災の時から。あの時、私は自分の魂をどこかに落としてしまったの。そのせいで自分が誰であるかも、どこで生まれ、何をしていたのかもわからなくなってしまった。そんな時よ。帰るところもわからず彷徨っている私の前に、ある商人が現れた。彼は私の魂を探してくれると言った。どうやら私の魂はこことは違う世界に流されてしまったらしいから。私はその魂を探してもらう代り、彼の欲しいものを手に入れる手伝いをすることになった。貴方をここまで連れてくるのも、そのうちの一つ」
紅子は銀次を見て、小さく眉を寄せた。
「ごめんなさい。騙すような真似をしてしまって。でも仕方なかったの。私の魂は本当に遠い処まで流されてしまったみたいで、探し出すまでに時間がかかる。その間、商人が持ってきてくれる他人の魂の欠片がなければ、私は生きていくことも出来ない。だって私は記憶も感情もない、空っぽの人形だから」
フッと紅子は寂しそうに息をついた。
その時になって銀次は、初めて紅子の感情の片鱗に触れたような気がした。
しかし紅子はすぐに元の人形の顔に戻ると、後ろの広場を指さす。
「行って。私に魂を運んできてくれている商人があそこで待ってる。どうやら彼は貴方にも商談があるらしいの」
「商談? って俺に……?」
銀次は紅子が指さした先を見て驚いた。
空地だったそこには、雲を凌ぐほど高い赤い八角形の塔が聳え立っていた。
「十二階!? 何でっ……!?」
「気づかなかった? ここはもう裏町の中。裏町には現世でなくしたモノも存在しているわ。ただ、あれは魔法使いが新たに創り出したものだけど」
「魔法使い……?」
「えぇ、行けばわかる。貴方には欲しいものがあるでしょう? それが欲しいならお行きなさい」
紅子の強い口調に押されるように、銀次は目の前の十二階を仰ぎ見た。
下から見上げる塔はありし日のものより、遙かに大きく不気味に見えた。
一瞬怖じ気づいた銀次だったが、グッと拳を握り直す。
(商人ってことは……俺の探してきたものが手に入る機会かもしれないっ……)
頭より先に、足の方が動いていた。
気がついた時にはもう駆け出していた。
正面の入り口から十二階に入り、頂上に向かう階段を登る。
一段進む毎に、胸の鼓動が強くなっていった。
息切れなのか、焦りなのか、それとも期待からなのかはわからない。ただそれらが全て混ざったような感情に突き動かされて、銀次はひたすらに階段を登った。
「……はぁ」
頂上についた銀次の頬を冷たい風がなぶる。
つきだした物見櫓の向こうには、表町とも裏町ともつかない浅草の町が広がっていた。六区、浅草公園、瓢箪池に世界堂。
一瞬、その光景に見とれた。浅草という町は、どうしてこんなにも混沌としていて美しいのだろう。
「やぁ、よく来てくれたね」
柔らかな声がして、銀次は辺りを見渡す。
欄干の上に、一人の男が座っているのに気がついた。少しでも上体を傾ければそのまま落下してしまう姿勢なのに、本人はいたって涼しい顔をして笑っていた。
その姿を見た時、銀次は驚いていいのか喜んでいいのかわからなくなった。
「……兄ぃ」
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