第24話 【編纂者】と【調律士】
『経験値獲得 レベルが8アップしました』
『SPを80獲得しました』
俺たちのボス討伐を証明するレベルアップ音が鳴り響く。
【
「奏多さん!」
背後から名前を呼ばれ、振り返ると祈が小走りでこちらへ近づいてきていた。
彼女は安堵と喜びの入り混じった表情を浮かべている。
「ようやく倒せましたね」
「ああ。これも祈のおかげだ、本当にありがとう」
心から感謝の言葉を述べると、祈は軽く顔を赤らめて視線を逸らした。
「そ、そんな……私なんて、ほんの少ししかお役に立てなかったのに……」
「いや、そんなことはない。祈の活躍がなければ討伐にもっと苦労しただろうし、倒せたとしても大怪我を負っていた可能性が高い。だから改めて感謝を言わせてくれ。俺を助けてくれてありがとう、祈」
「……お礼を言うのはこちらの方です。ありがとうございます、奏多さん。私、なんだか少し自信が持てた気がします。えへへ」
言葉を交わし合ううちに、祈の表情が明るく輝き始める。
まるで重荷から解放されたかのような、晴れやかな笑顔だった。
そんな彼女と言葉を交わしている最中だった。
【魔帽の指揮者】の死体がゆっくりと薄れ、やがて消失する。
だが全てが消えてしまったわけではなかった。
「……これは、ドロップアイテムか?」
死体が消えた地点に、奴が使っていた剣と杖が残されていたのだ。
興味を抱いた俺は、アイテムの情報を確かめる。
――――――――――――――――――――
【
・レア度:D
・装備推奨レベル:50
・攻撃力+400
・
・付与スキル:〈バイブロブレード〉
――――――――――――――――――――
〈バイブロブレード〉
・
刃を高速で振動させることにより、切れ味を大きく上昇させる。
――――――――――――――――――――
【
・レア度:D
・装備推奨レベル:50
・知力+400
・
・付与スキル:〈ソニックエッジ〉
――――――――――――――――――――
〈ソニックエッジ〉
・
杖先から、高速で飛翔する音の斬撃を放つことができる。
――――――――――――――――――――
それを見た俺は、ゴクリと息を呑んだ。
「珍しいな、付与スキル持ちか」
すると聞き慣れない言葉だったのか、祈が怪訝な表情を浮かべる。
「付与スキルって、何ですか?」
「冒険者本人じゃなく、武器自体に付与されているスキルのことだ。その武器を使っている時に限るが、本人が覚えていないスキルを発動できる」
「……それって、かなり便利なんじゃ……」
俺はコクリと頷いた。
「ああ。それにこの杖で覚えられる〈ソニックエッジ〉は攻撃魔法だし、これで祈も攻撃手段を習得できたわけだ。俺の元の作戦通りに杖を破壊していたら、これを入手できることもなかった。それを含めて祈のおかげだな」
「そ、そんな、ほめ過ぎですよ……だけど、奏多たんにそう言ってもらえると嬉しいです!」
そんなやり取りを交わす俺たちだったが、当然これで満足というわけではない。
指揮剣と指揮杖はあくまで、ボスから得られた想定外の報酬に過ぎない。
真の報酬はこれから──そう確信した瞬間、意識の中にアナウンスが響いた。
『佐伯奏多と白河祈がエクストラボスを討伐しました』
『両名のステータス、および戦闘結果を解析しています』
その言葉を聞き、祈が緊張した面持ちになる。
「奏多さん、これって……」
「ああ。本命の報酬が貰えるみたいだな」
俺たちは神妙な面持ちで続く言葉を待った。
貰えるのはスキルか、武器か、それとも――
『解析が終了しました』
『佐伯奏多には称号【
――得られたのは、そのどちらでもなく称号だった。
しかも、二つとも聞いたことがない報酬だ。
そんな感想を抱く俺の横では、祈が少しだけ物足りなさそうに頬をかいていた。
「スキルじゃなく、称号なんですね……正直、ちょっと拍子抜けです」
「そんなことはないぞ。称号の場合、MPを使わずパッシブで効果が発動するものも多いし、性能にしたってスキル以上のものも多い」
「そ、そうなんですね。これまで縁がなかったので、スキルよりも優先度が低いとばかり思っていました」
祈がそう思ってしまうのは仕方ない。
冒険者によっては、称号など一生縁のない者も多いからだ。
より分かりやすいスキルの方が、価値が高いと勘違いするのも当然。
しかし今言った通り、称号の性能は千差万別。
特に今回は、俺と祈の特徴を踏まえての特別報酬だ。何らかの形で、俺たちの役に立つ効果があるはず。
そんな考えを抱きながら、俺と祈は与えられた称号を確認することにした。
――――――――――――――――――――
【
・スキル発動時、演算力と技術力に高い補正がかかる。
1.高度演算補正
初めて発動するスキルでも直感的に使用法を理解し、複数を同時に発動する際の難易度が下がる。
2.???(条件を達成していないため未開放)
3.???(条件を達成していないため未開放)
――――――――――――――――――――
【
・魔力の操作に高い補正がかかる。
1.魔力視認
自身、他者、および環境中の魔力の流れを可視化できる。(オンオフの切り替え可能)
2.???(条件を達成していないため未開放)
――――――――――――――――――――
「これは……」
真っ先に抱いた感想は、驚きだった。
獲得時点で全ての欄が埋め尽くされていない称号を見るのは初めてだ。
それに、称号が持つ効果は基本的に一つだけなはず。
にもかかわらず、【編纂者】と【調律士】の両方が複数の効果を持っているというのはかなりの衝撃だった。
「何はともあれ、まずは見えている範囲の確認だな」
まず【編纂者】から。
効果は、スキル発動時の演算力と技術力に補正がかかるというものだった。
一見すると要領を得ない説明だが、俺はニヤリと口角を上げる。
「なるほど。これは確かに〈共鳴〉とは相性抜群だな」
そんな感想を抱く俺の横では、祈も自身の称号に驚いている様子だった。
「これ、すごいです……私や奏多さん、それに大気中に至るまで魔力の流れが見えるんです。まるでさっき、楽団からボスに伸びる魔力糸が見えた時みたいな……」
「魔力糸?」
「はい。さっきのボス戦でのことなんですが――」
そんな前置きの後、祈は俺に説明してくれた。
先ほどのボス戦中、楽団からボスに伸びる魔力が見えた。
そこに干渉することで〈不協和音〉を発動し、【
とはいえ、そんな風に他者の魔力が見えたのはあの一瞬だけ。
ボス討伐後から称号獲得までの間は特に何もなかったのに、突然また、それもよりくっきりと見えるようになった……そう祈は説明してくれた。
(……なるほどな)
全てを聞き、俺は納得と共に頷いた。
まず【調律士】の効果にあった魔力視認というのは、魔法を使う冒険者が経験を重ねていくことによって獲得できる技術でもある。
俺も祈にはその才能があると思っていたし、将来的に使えるようになってほしいと考えていた。
しかし驚くことに祈は、先ほどの戦闘中、一時的とはいえそれが可能となっていたらしい。楽団からコンダクターに流れる魔力を見れていたのがその証拠だ。
長時間にわたる戦闘の中、極限の集中によって叶えて見せたのだろう。
そしてこの【調律士】は、その感覚をサポートするための称号という訳だ。
(これからはアレと同じことを、偶然ではなく狙って発動可能になる。検証するまでもなく、間違いなく大当たりの報酬だ……!)
そんな風に、俺が小さくない興奮を覚えていた直後だった。
突如として、祈がくらりと倒れそうになる。
俺は素早く彼女の体を支えた。
「祈、大丈夫か?」
「すみません、いきなり疲労が溜まったような感覚がして……」
「……恐らく称号の影響だな。さすがにいきなりだと情報量が多いんだろう。オンオフは切り替えられるみたいだし、普段はこれまで通りでいいんじゃないか?」
「そうですね。しばらくは魔物との戦闘時だけ使うようにします」
魔力視認を切ると体調不良も治ったのか、祈はすぐに元通りの姿となった。
報酬も無事に得たし、これで改めてボス戦は完全終了と言っていいだろう。
「それじゃ、そろそろ行くか」
「はい!」
何はともあれこんな風にして、俺と祈はチュートリアル階層の先――第11階層へ足を踏み出すのだった。
『10年前に回帰した元世界最強は、隠しスキル〈共鳴〉と未来知識で無双する』 第一章 完
――――――――――――――――――――――――――――
ここまで本作をお読みいただきありがとうございます!
これにて『第一章 チュートリアル階層編』完結となります!
第二章からは11階層に足を踏み入れ、さらに物語が加速していく予定ですので、どうぞよろしくお願いいたします!!
最後にもしよろしければ、作者の執筆モチベーションを上げるため、↓の大切なお願いにもご協力いただけると幸いです!
【大切なお願い】
ここまで本作をお読みいただき誠にありがとうございます!
皆様の応援のおかげで、なんと本作の総合ランキングが9位まで上昇することができました!
本当にありがとうございます!!!
次の目標である5位以内に向け、あと一歩のところまで順調に上がってきています。
5位以内に入ることができればランキングでもかなり目立つ位置に載るので、新規読者に見つけてもらいやすくなります!
そこまで行ける可能性があるとすれば、第一章完結のこのタイミングがラストチャンスだと思います!
そこでもし、
「第一章が面白かった!」
「もっと奏多の成長や無双が見たい!」
「第二章も楽しみ!」
と思っていただけたなら、
本作をランキング上位に押し上げるため、
・本作をフォロー
・下の『☆で称える』の+ボタンを3回押す
この二つを行い、本作を応援していただけないでしょうか?
ランキングが上がると、より多くの方に本作を届けることができます!
皆様の応援が何よりも作者のモチベーションとなり、執筆の励みになっています!
図々しいお願いかと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます