第4話 初めてのボス戦

 第1階層のエクストラボス【智慧ちえへび】との戦闘が開始する。

 先に動いたのは蛇だった。


『シャァァァ!』


 甲高い音を鳴らしながら、蛇は巨大な胴体を上手く扱い俺に迫ってくる。

 細長い舌と牙を剥き出しにし、今にも俺へと噛みつかんばかりだ。


 俺のレベルが10なのに対し、智慧の蛇のレベルは25。

 パワーやスピードについては確かめるまでもなく向こうの方が上だ。

 しかし、


「喰らうかよ!」


 経験や技量においては、俺の方が圧倒的に優っている。

 敵の動きを読み切った俺は、ギリギリまで退きつけてから前方に駆け出す。

 直後、先ほどまで俺がいた場所に蛇の頭が突撃した。


(狙うなら今だ!)


 俺は短剣を手に、そのまま蛇の首元へと迫っていく。



――――――――――――――――――――


【ゴブリンの短剣】

 ・レア度:F

 ・装備推奨レベル:8

 ・攻撃力+30

 ・ゴブリンが装備していた短剣。初心者でも扱いやすい。


――――――――――――――――――――



 ちなみにこの短剣は、先ほどのレベリング中に入手したものであり、攻撃力を+30してくれる。

 魔物との戦いにおいて、攻撃力は複雑な計算式によって求まるのだが、近接武器の場合は基本的に筋力とイコールだと考えていい。


「ここだ!」


 素の筋力に加え、短剣の攻撃力を上乗せした刺突が蛇の鱗に直撃する。

 だが――


 キィン! と甲高い音を立てて、短剣は弾き返された。


「……やっぱり、この程度じゃ効かないか」


 小さな傷跡こそできているものの、決定打には程遠い。

 いくら俺に経験があるとはいえ、ステータス差による影響は甚大なのだ。


 とはいえ、このまま素直に諦めてやるつもりはない。

 俺は一度蛇から距離を置くと、ステータス画面を開いた。

 溜めたSPスキル・ポイントを消費してスキルを獲得するためだ。


 俺の前に、現時点で獲得できるスキルの一覧が表示される。



――――――――――――――――――――


 〈剣術〉LV1(必要SP:100)

 〈初級魔法〉LV1(必要SP:100)

 〈剛力〉LV1(必要SP:50)

 〈疾風〉LV1(必要SP:50)   

 ………………


――――――――――――――――――――



 ほんの一部ではあるが、一覧にはこういったスキルが記載されていた。

 〈剣術〉は対象者の技量向上、〈初級魔法〉は魔法という奇跡の力を行使可能に、〈剛力〉や〈疾風〉はそれぞれ筋力と速度を上昇させてくれる優秀なスキルだ。


 しかし残念ながら、現時点ではどれも決定打にはなりえない。

 技量や攻撃手段が増えたところでステータス差は覆せないし、〈剛力〉と〈疾風〉に関してもLV1では10%しかパラメータが上昇しない。


 だからこそ俺はさらにスキル欄をスライドさせ、そのスキルを探した。

 すると、


「見つけた、〈水滴石穿すいてきせきせん〉!」


 目的のスキルを見つけた俺は、100SPを消費しすぐに獲得した。



――――――――――――――――――――


 〈水滴石穿すいてきせきせん〉LV1

・MPを消費して発動可能。

 発動後、一定時間内に同じ部位に連続で攻撃を浴びせることで、クリティカル発生率&クリティカル火力が上昇する。

・取得条件:自分よりレベルが高い相手を、十体連続一撃で討伐する。


――――――――――――――――――――



 見ての通り、この〈水滴石穿〉はクリティカル攻撃に関係するスキル。

 通常スキルの中では珍しく取得条件があるが、それについてはボス部屋に来るまでにクリアしておいた。


 そもそもクリティカル攻撃とは、敵に渾身の一撃を浴びせた際、パラメータの感覚と幸運の値から決まる確率で発生し、火力が大幅に上昇する現象のことだ。

 魔物の種類や、攻撃箇所が弱点かどうかによって微妙に数値は変わるが、平均的には発生確率が5%、火力上昇幅は50%となっている。


 そして、この〈水滴石穿〉を発動すればその二つの数値を意図的に操ることができるのだ。

 LV1の状態だと、1分という制限時間内に連続で攻撃を浴びせることで、一撃ごとにクリティカル発生率と火力がそれぞれ5%上昇。

 上限回数は10回であり、最大で50%も上昇する。


 さらに、火力に関しては加算ではなく乗算であり、



 元の攻撃力100%×通常のクリティカル火力上昇150%×〈水滴石穿〉によるクリティカル火力上昇150%=225%



 このように、最終的に225%の火力を出すことが可能となる。

 ある程度の運は絡むが、レベル10の俺がレベル25の黒蛇を倒すには必須級のスキルだ。


 そしてもう一つ、このスキルには俺にとっての利点が存在し――



「他のスキルと違って、〈水滴石穿〉を有効に活用できるかどうかは本人の技量次第――一周目で学んだ俺の経験を、最大限に活かすことができる!」



 本来であれば初心者にとっては使いづらいスキルだが、俺との相性は抜群だ。


「――いくぞ」

『シューッ!』


 気合を新たに、俺は猛攻を再開する。

 敵の攻撃を躱しながら、初撃を与えた首元の鱗に連続で攻撃を浴びせていった。


 クリティカルが発生するたび着実にダメージを稼いでいき、三度目の〈水滴石穿〉発動中、とうとう頑強な鱗がひび割れて砕け散った。

 白く、柔い肌が剥き出しになる。


『ァァァアアアアア!?!?!?』


 痛みに悶えるように声を上げる智慧の蛇。

 逃げようとするが、それを逃がしてやるほど俺は甘くない。

 力強く地面を蹴り高く飛んだ俺は、頭上から渾身の一撃を振り下ろす。



「これで、終わりだッッッ!」



 短剣の切っ先が、肌に深く突き刺さった。

 見事にクリティカル攻撃が発生し、さらに弱点を攻撃したことによる加算ダメージが発生。

 智慧の蛇はしばらくの間、もがくようにその身を動かすも―― 


『ァァァ、ァァァァァ』


 断末魔の声を残し、ゆっくりと崩れ落ちていった。

 するとその直後、



『経験値獲得 レベルが7アップしました』

『SPを70獲得しました』



 鳴り響くレベルアップ音。

 それは俺が強敵に勝利した証明であり――


「……終わったか」


 こうして俺は、エクストラボス【智慧の蛇】との戦闘に勝利した。


 だけどこれで終わりではない。

 俺にとっての本番はであり――



「さあ、待ちに待った隠しスキル獲得の時間だ」



 勝利の余韻を噛み締めるのも程々に、俺は笑みを浮かべながらそう呟くのだった。



――――――――――――――――――――――――――――


第一のボス戦決着!

次回、スキル獲得回。明日の12時に投稿予定です!


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