隠しスキル〈共鳴〉で世界最速ダンジョン攻略 ~10年前に回帰した俺は、未来知識で無双する~

八又ナガト

第1話 回帰

 約20年前、突如として空が割れ、世界中に巨大な浮遊城が姿を現した。

 それは全100階層から成るグランドダンジョンであり、名を【夢見ゆめみ摩天城まてんじょう】と言った。


 摩天城の中には、いかなる現代兵器も通用しない邪悪な魔物モンスターが蔓延っていた。

 そして、各階層には攻略までの制限時間リミット・タイムが設けられており、それを超えるとダンジョン・ブレイクと呼ばれる破壊現象が発生。

 ダンジョン内の魔物が地上に溢れ出すという、地獄のようなシステムまで備わっていた。


 だが、摩天城が与えたのは決して絶望だけではない。

 摩天城の登場を境に、人々はステータスやスキルという強大な力に目覚め、その力を使いダンジョンを攻略する者を冒険者と呼んだ。


 さらに、ダンジョン内から取れる資源は高価に売却できることに加え、最上階に辿り着いた者はどんな願いでも叶えられるという。

 多くの冒険者が名誉や金を求め、摩天城の攻略に挑んだ。


 そして俺こと佐伯さえき 奏多かなたもまた、理由こそ違えど、冒険者として摩天城に挑んだ一人だったのだが――



 ◇◆◇



 ――現在。

 夢見の摩天城 第80階層。

 10階層ごとに登場する強力なフロアボスを前に、俺たちは呆気なく敗北した。


『ルォォォオオオオオオオオ!』


 頭上を旋回するのは、この階層のボス『紅玉のオルトドレイク』。

 俺を含めた最前線の冒険者二十数名を一蹴した、怪物級の魔物だった。


 胸元の火傷痕を抑えながら、俺は朦朧とする意識の中で思考する。


(まずい……俺たちが負けたら、コイツを含めた大量の魔物が地上に氾濫する。そうなったらもう、この世界は終わりだ……)


 抵抗しようにも、ここからアイツを倒せる手段など存在しない。

 そう考えていた、その時だった。


「おい……生きてるか、カナタ……」


 隣で俺と同じように横たわる、アメリカダンジョン出身のS級冒険者、ルーカスがそう話しかけてきた。

 俺は絞り出すように返事をする。


「なんとかな。だが、残された時間はあまりなさそうだ」

「そうか。ならもう、を使うしかないな」

「っ、それは……!」


 ルーカスが懐から取り出した砂時計を見て、俺は思わず声を上げた。


 そうだ。まだこれが残されていた。

 俺は改めて、その砂時計アイテムの情報を確認する



――――――――――――――――――――


回帰かいき砂時計すなどけい

 ・レア度:S

 ・入手場所:〈叡智えいち無限回廊むげんかいろう

 ・世界の時間を10年間巻き戻すことができる。

  使用者本人のみ、10年前に記憶が引き継がれる。


――――――――――――――――――――



 この【回帰の砂時計】は、第77階層に存在していた大図書館〈叡智の無限回廊〉にて入手したS級アイテムであり、世界の時間を10年間巻き戻すことができる。

 これまでに積み上げてきた全てをなかったことにしてしまうが、もはやこれ以外に残された選択肢はなかった。


「それじゃ、あとは頼んだぞ、ルーカス」


 後を託すようにそう告げるも、なぜかルーカスは眉を上げた。


「はあ? 何言ってやがる。これを使うのはお前だよ、カナタ」

「……いや、俺なんかより、ずっと最前線組のリーダーを務めてたルーカスの方がいいんじゃ……」


 しかし、そこでもう一人の生き残り――イギリスダンジョン出身のS級冒険者、シャーロットが静かに告げる。


「いいえ、カナタ。この結末を変えられるとしたら、それは誰よりも早く最前線この場所までたどり着いた貴方しかいません」

「それにカナタ、お前も分かってるだろ。〈叡智の無限回廊〉にはダンジョンに関する様々な情報が詰まっていた。俺たちがこの先に進むためには、が必要不可欠だ。そしてそれを得られるとしたら、10年前の時点でまだ冒険者になっていなかったお前しかいない」


 そう言いながら、ルーカスは真剣な表情で俺に砂時計を差し出してきた。


「だから、あとはお前に託す」

「……ああ、分かったよ」


 俺は砂時計を受け取ると、それを強く握りしめた。

 この信頼だけは、絶対に裏切れない。


「それじゃ、最後のひと踏ん張りといくか」

「そうですね。アイテムを使う時間を稼がなければ」


 そういって、ルーカスとシャーロットの二人がオルトドレイクに挑んでいく。

 それを見届けながら、俺は砂時計をひっくり返した。

 数分後、最後の一粒が落ちると同時に、青色の魔力が俺の体を包み込む。


(ありがとう。みんなの願いは、俺が必ず叶えてみせる――)


 やがて俺の体は、世界とともにゆっくりと消えていくのだった。



 ◇◆◇



「――――はっ!」


 目を覚ますと、俺は懐かしい自室のベッドの上にいた。

 起き上がり鏡を見ると、確かに姿が18歳の頃のものに戻っている。


「……本当に戻ってきたんだな、10年前に」


 窓の外を見ると、あの日と変わらぬ姿で摩天城が浮かんでいる。

 そしてその中心には、これでもかと巨大なカウンターが表示されていた。


――――――――――――――


   The 42nd Floor

    Limit Time

 645h:17m:52s


――――――――――――――


 現在、攻略しているのは第42階層。

 それを一か月以内に攻略できなければ、地上に魔物が溢れかえってしまうことを、あのカウンターは示している。


 俺は拳を握りしめると、改めて決意を固めた。


(いつまでも感慨にふけってはいられない。まず初めにすべきことは、を入手すること。そして――)


 俺は摩天城を見上げながら、力強く宣言する。



「――待っていろ。俺がもう一度、最前線まで最速で駆けあがってやる」



 こうして、俺の二周目の人生が始まったのだった。



―――――――――――――――


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