短歌の海

伊月 杏

1-20

解像度 高まるたびに増えていく ひとまとまりにならない名前


健やかに生きててくれればそれでいい 結局それしか言えないけれど


なにひとつ纏わぬわたしとタイフーン あなたの往くまま赴くままに


喉が鳴く 文音が唸る したためる 成る瀬に沈む月との約束


生きるのに必死なアタシが滑稽か 鼻で笑ったあなたとばいばい



空の底 彷徨う亡霊 生死すら こころを隠す清涼の虚


冷風に満たされているこの部屋でサヨナラ告げる滅亡の音


はるの日に氷の角から溶けていく それをみつめて柔く笑う陽


水滴が冷やいグラスを伝い落ち 机のうえにちいさなやぐら


聡明な君は変わったわけじゃない ひたすら馬鹿になっただけ



力量と沿わぬ立場に陶酔し 間違えつづけた滑稽なサマ


僕たちの違いはたったひとつだけ 生み出す才のあるなしだけだ


静けさと白紙のうえに百合の花 君が殺した僕に手向ける


後悔に意味はないからしないけど 今更すぎて嫌にはなるよ


朝起きて蝉の土砂降り 路を穿つ 電気料金しらんぷり



春がくる 冬に聴きたい名曲のプレイリストは終わってないのに


呼吸苦に 一粒五円の安寧をのみこんでまたねむりに落ちてく


「また会える」 それがあなたの遺言でした 卑怯な真似をしてくれるよね


春風を忘れたかった僕たちは カタチもないまま惰性で生きてる


叶わない 約束だけが残された 痩せた大地と永久とこしえの雪

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