19日目 なでなで




「汐璃って撫で魔だよね……」と、夕映がスマホを見ながら零した。


 行為について言及された私は、夕映の髪をいたり撫でたりしていた手を止める。


「……嫌だった?」


「ううん。気持ちいいからいいんだけど。癖なの?」

「んー……」


 言われて、何で撫でたくなるんだろうか、と考えにふける。

 ずっと前からそうだ。夕映の頭が近くにあったら撫でたくなる。つやのある茶髪で、長くて、さらさらとしていて。なんだか触れたくなるような魅力があるというか。


 ──夕映以外はどうだろう。昔飼ってたハムスターのような、ペットは撫でるのが好きだった。でも、うまくは言えないけどそれとは違う気もする。


「……理由、ないかも」


 ぽつりと告げると、夕映は軽く口を尖らせた。


「えー、予想してたのに」


「どんな予想?」

「私の頭を撫でないといけない強迫性障害」

「夕映はそれが理由で撫でられてていいの?」


 私が聞くと、夕映は「んー」と唸って天井を仰いだ。

 それから視線を落として、首を傾げる。


「予想だし、他にもあるよ?」

「……どんなの?」


「んーとねえ。汐璃の部屋にだけ、パワースポットみたいに超強力な磁場が発生してて、汐璃の手と私の頭とに磁力が生まれて、それで勝手にくっついちゃう予想!」


 変な予想ばっかりだ。


「……パワースポットって、『ゼロ磁場』とかあるよね。その反対?」


 私も実際には行ったことが無いのだけれど、例えば長野県の分杭峠みたいな『ゼロ磁場』に行くと、ポジティブなエネルギーが貰えると信じられているらしい。


 ……その逆という事は。

 磁場に溢れた私の部屋は、ネガティブなエネルギーが貰える?


「まあ、理由なんて何でもいいんだけどね」

「私はよくない。知りたい!」

「はいはい。よしよし」

「ふふー」


 やっぱり夕映はちょろい。


「汐璃、撫でるの上手だから、将来撫で屋さんになれると思う」

「それはちょっと……あんまりなりたくないなぁ」


 別に不特定多数を撫でたいわけじゃない。


「でも、そしたら私の頭は撫でてくれなくなる?」

「時間は減っちゃうかもね」

「……やっぱり、撫で屋さんはダメだね」

「うんうん」


 適当に返しながら夕映の頭を撫でると、夕映は気持ちよさげに身をよじった。



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