6日目 診断結果
夕映が、「ただいまー」と言って私の部屋に帰ってきた。
誤解のないよう一応言っておくと、別に夕映は私の部屋に住みついてはいない。夜になったら帰っている。毎日のように入り浸ってはいるのだけれど。
「おかえり」
私がそう言ってベッドを半分開けると、夕映はやや不満げな顔をした。別に無視してもよかったけど、構って欲しそうなので一応聞いてみる。
「どしたの? 夕映」
「足りない……」
「なに不足? 水分? 役?」
「違う。せっかく帰ってきたのに新婚夫婦みたいなやり取りが足りない」
「新婚夫婦みたいなやりとりって?」
「ご飯にする? お風呂にする? それともわ・た・し? みたいなやつ」
両手を口元に添え、しなを作りながら夕映がお手本を見せてくる。
「じゃあ……ご飯にする? ライスにする? それともお・こ・め?」
「イネ」
「加工前のがいいんだ……」
私が新婚三択に乗り気でないのを見てか、夕映は話題を切り替える。
「まあいいや。病院行ってきたよ」
「どうだった?」
私は冗談っぽい態度を一転させ、少し神妙な顔を作って聞く。
「それがね……健康体そのものだった。いぇーい」
夕映は真顔のままピースを作った。
「…………、そっか」
「ね。私の寿命、変わってたりしない?」
「変わりないね。あと24日」
話を聞いて、夕映の寿命を再確認して。
──やっぱり変わらないんだ。と、落胆している自分に私は驚いた。
……分かっていたはずなのに、期待してしまっていたというか。
「やっぱりダメかあ」
ぐでんとベッドに転がり込み、ちょっとだけ残念そうに夕映が零す。
部屋の空気が重くなるのが嫌で、今度は私が話を変える。
「……そういえば、ケーキどうしよっか」
「買ってくれてたんだ。じゃあ、ぱーっと残念会しよう」
「どっちにしろパーティするんだ」
「だってあと24日でしょ? なら余生を楽しまなくっちゃね」
「……。それもそっか」
夕映はきっと、寿命尽きるその日まで、何も変わらないのだろう。
そのことが嬉しくもあって、どこか辛くも感じた。
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