4日目 されて嬉しいこと




 二人してベッドに横になって、それぞれ自分のスマホを弄っていると。

 ふとした思い付きのように、夕映がこちらを見て首を傾げた。


「汐璃。汐璃が彼女からされて嬉しいことって、何がある?」


「彼女からされて嬉しいこと……例えば?」


 私がおうむ返しに聞き返すと、夕映はしばらく考え込んだ後に答えた。


「……百万円貰える、とか?」

「…………」


 ……なんというか。

 それは彼女からの施しじゃない方が嬉しそうだ。というか彼女から百万円拝借するってどんな状況? 借金の肩代わりでもしてもらってるんだろうか。


 なんて長いツッコミはせずに、私は目を瞑って考える。


「そうだなぁ。寒い日に……こう、さりげなく上着や毛布を掛けてくれるとか」


 私はそれっぽいシチュエーションを思い浮かべて、身振り手振りで説明する。


「そっかー」

「うん……今さりげなく布団かけてくれたけど七月だからね。しかも節電中で扇風機で我慢してるから、この部屋ちょっと暑いよね。全然寒くないよね」


 私が掛け布団を押しのけると、夕映は悪びれずに指先で頬を掻いてはにかんだ。


「状況の一部が違っても、部分点くらいは貰えるかなって」

「変える場所次第で減点対象にもなるから、今後は気を付けよう?」

「うん、心得た」


 夕映は満面の笑みを浮かべてびしっと敬礼をする。

 ちゃんと言い聞かせた後、私は少し考えてから告げる。


「……そもそも。付き合ってる彼女にしてもらって嬉しいこと、で考えてたわけだけど。私たち、別に付き合ってないよね」


「それもそっか」と、夕映の手が叩かれる。


 その数秒後。また、夕映が思いついたように目を見開いた。


「そうだ。じゃあ、付き合ってない人からされて嬉しいことは?」


「……。百万円貰えるとか、かな?」



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