第10話 忘却された者の最期は
振り下ろされた剣が、俺たちを両断しようとする直前そうロメスティがそう呟やくと、瞬間彼の体が眩い赤色の光で発光するとともに、爆風のような強い圧力が周囲に広がり、オレの体も5メートル以上吹き飛び木に激突した。
「ぐばっ…何が起こった?!」
倒れ込んだオレが、大勢を立て直しながらそう叫ぶ。
すると、オレの目の前には、その巨体でありながらオレと同じように吹き飛ばされたアザロテクスの姿と、異様な姿へと変貌したロメスティの姿だった。
まずいちばんに目を引くのは、欠けたはずの左腕だ。
彼と千切れ飛んでいたはずのはずの左腕は、その傷口から『赤黒い鎧のような』腕が新たに生えており、貫通した腹も同様に赤黒い物体が埋めていることで再生されていると言ってもいい状態だ。 抉られた左目も同様に偽物の赤い目が作られておりそれによって補われてた。
「これは…?」
オレは呆然としながら、そう呟く。
するとそんなオレにロメスティは言う。
「媒介【トリガー】さ…血で傷を応急処置した…この腕も、よくできてるでしょ?これが魔術の本領だよ」
「本領…血を操る魔術?トリガー?」
ロメスティの言葉に困惑していると、アザロテクスはゆっくりと立ち上がる。 それを見たロメスティは「はぁ…」とため息をつきながらオレの方を見た。
「ライナズちゃんお願い!あの魔術書を渡して?」
「あ?ほらよ」
オレは、ロメスティに言われあの魔術書を渡した。
「魔術使うのか?」
「まぁね」
彼はそう言うと彼は一気に最後のページまでパラパラと魔術書のページを捲った。
「なにも書かれてねぇじゃねぇか」
彼が開いた魔術書の最後ページを見てみるとそれは白紙のページでなにも
書かれてはいなかった。
「今はね……トリガーを発動させるには媒介となる魔導具が必要でね……こいつはその一つさ」
そうロメスティが言うと、彼はそのページを破り握りしめる。
すると握りつぶされたページは赤く染まり次第に散り散りに細かく分かれていった。
「オルトリカサ・ネントフレーバー・ロメスティ・アロード」
ロメスティは何やら呪文を唱えながら散り散りになった紙を地面に巻いていく。
オレはそれを不思議に思いみていると、森の向こうからガサガサと音を立ててアザロテクスがこちらに猛突進してくと思えば次の瞬間再び姿を消した。
「来る!」
オレは思わず身構えた。またあの認識できぬ間に済ませられる超スピード攻撃が来ると思ったからだ。
しかし次の瞬間アザロテクスは俺たちの目の先で地面に倒れ込むような姿で現れた。
アザロテクスは立ち上がれぬ状態だった。よく見ると足を切り刻まれており、切り口は赤く染まっている。それを見たロメスティは笑みを浮かべながら語りだす。
「私達が気付かぬ間に行われる攻撃…。スピードかとも思ったがありゃ自分以外の時を止める『時間操作系』の魔術だろ?相当上位クラスの魔術。恐ろしいねぇ…」
時間操作系だって?聞いたこともないぞ…いや…オレからしてみれば最もロメスティが使ってる『血を操る魔術』も聞いたこともないのだが
「でも……私の血は魔力媒介そのもの…互いの性質強度にもよるけど…魔力は別の魔術の影響を受けにくいからね…あらかじめ飛ばしておいた血の斬撃は止まった時の中でもちゃんと君の足元に飛んでくれた。」
ロメスティがそう語っていると、アザロテクスのいる地面から巨大な魔法陣の様な赤い光の円が出現する。
そしてその光の中から、コレまた真紅に染まった大量の鎖が、円周を沿うように飛び出した。
すると、その鎖は勢いよく伸びて行き、アザロテクスの身体をぐるぐる巻きにして縛った。
「今の…弱った私には…この程度しか出来ないけど…果たして耐えられるかな?」
そう言いながら上空を見つめだした、ロメスティにつられてオレも上を向くと、そこにはとんでもないものが出現していた。
「あれは…赤い隕石?いや違う」
一瞬、赤い隕石
のように見えたそれは、よく見ると真紅色の剣や槍や矢などといったものが、無数に集い形作られた巨大な剣だった。
その大きさは目測で、直径1キロほどだろうか?
「な……なんだよあれ……」
「あれが今の私の限界点かな?」
俺がそう呟くとロメスティがそう言った。
「さぁて、そろそろ終わりにしようか」
そう言うと彼は指をパチンと鳴らした。
するとその瞬間、アザロテクスを縛っていた鎖が突然バラバラになり、そしてそのまま上空の剣へと吸い込まれるように戻っていった。
それと同時に赤い隕石のごとき剣も落下し始め、瞬く間にアザロテクスの元に落下し、赤い光を伴った大爆発を引き起こした。
その爆発は、周囲を焼き尽くすほどの威力で、俺は思わず顔を覆った。
「う……うぅ……」
しばらくして、オレはゆっくりと目を開ける。余りにも凄まじい爆発だったのか、赤い爆煙は一向に晴れず、奴がどうなったのかわからない。
「無茶苦茶だな…」
オレは近くにいたロメスティにそう言うと彼は「まぁね」とだけ言った。
すると突然ロメスティが「グハッ!」と思わず、血反吐を吐いてその場に跪いた。
「ロメスティ!!」
オレはすかさずロメスティの方に駆け寄った。
「毒も…持ってたの?あの外皮に…」
ロメスティは、ガクッと膝をつきながらそう呟いた。
「アア…出シ惜シミガ…勝負ヲワカツノハ…貴様ラノ生存競争デハ常識ダロ?一体何手カ…手遅レ極ミダナ…」
ロメスティの声に答えるように爆煙の向こうから再びあの不気味声が響き、奴が姿を現した。
奴は死んでいなかった、その体は至るところに剣や槍が刺さり、白い外皮の所々が裂けてグロテスクな肉や血が見えており、その様はまさに満身創痍。
だが奴はそんな傷などまるで気にも止めず、ロメスティを見下ろしながらそう答えた。
「そんな…あんな攻撃を受けたのに…不死身かよ…」
オレは思わずそう呟くと、奴は俺の言葉をいに返さず、まるで人間のように首を鳴らしながら、口を開いた。
「太古ノ…魔術…キサマは主人ニ似テイルト思ッタガ……ヤハリ…」
アザロテクスはそう言うと、ヒュンっと音をならして姿を消したかと思うといつの間にやらロメスティの身体を握りしめて、空中に浮かんでいて、そのままゆっくりとその巨大な体躯を上昇させていった。
一体何度目だろうか…またやつは俺たちが何か反応もできぬ間に全ての行動を終わらせたのだ。
「ロメスティ!!」
俺は思わずそう叫ぶ。アザロテクスの体からは白い触手こようなものが生えてきてそれがロメスティの両肩を貫く。
するとロメスティの頭上にオレが頭痛を味わった、あの黒い輪が浮かび上がっていた。
「思イ出ダシテクレ…キミガ…何者ナノカヲ」
「そうか…私は…オレは…」
ロメスティはオレの時とは違い、痛みに悶えるような様子はない…ただ呆然と何かをつぶやきながら空を見上げている。
オレは女神の銀耳のオレンジ色に輝くボタンを押した。
すると思った通り、それは弓へ変形し、内部からオレンジ色の矢を放出した。
「ロメスティを離せ!この化け物!」
オレはそう言いながら矢を2本放つとそれは狙い通り、ロメスティを掴んでいる右手と、奴の顔に命中した。「ぐ……あぁ!!」
すると、アザロテクスは呻き声をあげて、思わず強く掴んでいた左手を離すと。ロメスティは重力にしたがってそのまま落下して地面に着地した。
「ロメスティ」
「大丈夫…無事だ」
ロメスティはよろよろと立ち上がると、オレにそう微笑みかける。
しかし次の瞬間、彼がオレに手をかざすと唐突に俺の足元から赤色のの球体のようなものが形成されすっぽりとオレの身体を包みやがった。
「おい!!ロメスティなんだよコレ!」
オレはそう叫びながらドンドンと赤い球体の外殻を叩くがびくともしない。 するとその球体はふわふわと空中に浮かび上がる。
一方でロメスティは、立ち上がるロメスティを見て、赤い左腕を振ると、その左腕みるみる内に大きな鎌のような形状へと変形していく。
「!!無茶だ!ロメスティ!」
オレはロメスティが何をするつもりなのかを察し必死に叫んだ!
恐らく奴はこの球体のような…恐らくは魔術でオレを包んで、それをどこか遠くに飛ばして、オレを逃がすつもりだ。
そして奴自身はここであの化け物と刺し違えるつもりなんだ。
そうはさせまいと、オレは女神の銀耳で球体を破壊しようとしたがびくともしない。 結局、案の定ロメスティが右手をクルッといつも回転させるとオレはこの球体ごと高速で上空に吹き飛ばされてしまった。
オレはそのまま宙に放り投げられてしまったが、なんとか空中で体勢を立て直して着地した。
するとそこは……俺たちが住んでいる屋敷にすぐ近いところだった。
「クソッ!!」
オレは思わず叫びながら地面を叩いた。すると周囲の木々から声が響いてきた。
『ライナズちゃん聞こえる?』
「ロメスティ?!」
オレは周囲を見渡す。
『……今私は、あの化け物にやられて瀕死の状態だ』
「なっ!ロメスティ……」
俺は彼のその一言で全てを察した。そして同時に絶望した。
『だがまだ、時間稼ぎが出来る。だからライナズちゃん……君には一刻も早くメナゼルにこの事を伝えて欲しい……』
「クッ!」
オレは思わず悔しさのあまり、歯を食いしばった。
断ることは出来ない。そうさせないためにロメスティはここまでオレを吹き飛ばしたんだ。
「ロメスティ…お前」
『コイツはとんでもない厄災だ…コイツの脅威をできるだけ多くの人に伝えるためには君の力がどうしても必要なんだ。』
「ロメスティ……」
『……ライナズちゃん……君には、本当に申し訳ない事をしたと思ってるよ。だからせめて君だけでも生きてくれ……』
「ッ!……恨むぞ」
オレはそう答えるしか無かった。
オレが弱いせいで、恐らくはロメスティはこれから奴に殺されるだろう。
あの…小説、一巻しか読んでいないがジュウジが言っていた。 今の俺…つまりあの小説のヒロインは弱いが故に何度も主人公であるアルテリアを苦しめると…。
つまりはオレは運命によって、これから何度も今みたいに己の弱さによって周りの人間を危険にさらすんだ。それを変えるために転生してから今日まで強くなろうとしたのに…。
それなのに……。
「クソッ!!クソッ!クソがぁ!!」
オレはそう叫びながらも、ただ帰路へ全力で走ることしか出来なかった。
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