第14話 理由
「どうしてと言われても……好きだから好きなんだ」
「そう言われても、私はそこまでおまえに好かれるようなことをしたおぼえがない」
今までは単にルカが友情に篤すぎるのだと思っていたので理由をわざわざ聞こうとは思わなかったが、自分が思っている以上に好かれているらしいというか、恋人よりも優先される位置に置かれているとなると、そこまでの何かがあっただろうかと不思議にもなる。
「そうだろうね。フィーにとっては当たり前のことだったんだと思うよ。でもそれは、俺にとってはフィーを好きになるのに十分な理由になったってだけで」
「おまえのたいどが、二度目に会ってからへんかしたのはわかっているんだが……そうなるようなことがあったか?」
思い返しても、「なんかどうということのない会話をしたような……」というあやふやな記憶しか出てこない。そんなフィオラの様子に、ルカはやわらかく笑った。
「フィーには当たり前すぎて、記憶にも残らなかったんじゃないか? ……俺が一度目の時のことを謝って、それをフィーが受け入れて、少し話しただけだったから」
言われてもやっぱり思い出せない。
首を捻っていると、ルカは遠くを見るような目で、口を開いた。
「俺の謝罪は、まぁ渋々って感じだったんだけど――何せあの時は騎士団と魔法使いが協力関係にあるって聞いたから関係を悪くするのはよくない、ってそれだけで謝りに行ったから――フィーは全然気にしてない感じで。『魔法使いが嫌いなんだろう? 私も嫌いだ。気持ちはわかるから別に謝らなくてもいい。……この国に来て騎士団に入る人間も、この国に来る魔法使いも、基本は魔法使いが嫌いなのに、私が不用意だった。すまない』って言ったんだ」
……さすがに一言一句違わず言われて思い出した。そういえばそんなふうなことを言った覚えがある。
あの頃は自分も若かった。だからこそルカに共感を示したのだろう。
(だが、これが理由?)
やっぱり特に感銘を受けそうなことを言ってはいないし、友人になろうと思うような内容でもない気がするのだが。
「『これが理由なのか?』って顔だ。そういう顔をするフィーだから、俺は好きになったんだよ」
ルカの笑みは大事なものを見守るような慈しみに溢れていて、戸惑う。
自分の理解できないところで自分を評価されているらしいのはわかったが、ますます謎が深まっただけのような気がしてきた。
「よく……わからないが。私のことばのなにかが、おまえの心をうごかしたらしいというのはりかいした」
「きちんと理解したいと言うならもっと詳細に語ることもできるけど」
言われて一瞬そうしてもらうことも考えたが、なんだか嫌な予感がしたので首を振る。
「いや、いい。だが、そのときのやりとりだけで、その……こいびとよりもゆうせんすると決めたわけじゃないだろう」
「もちろん。そこからフィーにつきまとって、少しずつ距離を縮めて、フィーを知っていって、最終的にそういうことになったんだ。俺の中で」
「…………そうか」
これはもう、確たる自分の基準を持っている人間の答えだ、とフィオラは思った。今からフィオラが何を言っても、おそらく変えるつもりがない。
フィオラは無駄な努力はしない主義なので、いろいろと諦めることにした。
……おそらくフィオラの知らないところでフィオラにとって不本意な噂などたっていそうなのが気になるが。
そういえば、ダリアからも「フィオラの身近な騎士だってすごい人気でしょう。気をつけたほうがいいですよ」との助言をもらっていたのだった。しかし、何をどう気をつければいいかは不明だった。
ともあれ、フィオラも方向性は違えど、自分の基準で自分の身の振り方を決めた身だ。
人のことをとやかく言う気はない。ただ、一つ確認はしておくべきだと思った。
「その――『ゆうせんする』というのは、私のこうどうをさまたげるようなことになるか?」
問うと、ルカは少し考える素振りをして、困ったように眉尻を下げた。
「フィオラの意思を尊重するつもりではいるけど……状況による、と思う」
「そうか」
断言しないところに誠実さを感じ取って、フィオラはそれならそれなりの心積もりをしておくことにした。
『万が一の時はルカが自分の行動を妨げてくるかもしれない』とわかっているだけで十分だ。
「しかし、もう少し言い回しをかんがえないと、いらないごかいを生むと思うぞ」
「それは俺も一応考えたけど、これ以外の言い方の方が誤解を生むと思ったんだ」
ルカの主張に考えてみる。……確かに、迂遠な言い回しになるほど誤解の塊になりそうな事実だった。
(ある意味ルカは誠実に答えているということになるのか……)
動かしようのない部分として優先順位をつけているのなら、それを先に伝えているのは公平と言えなくはない。言えなくはないが――。
(面倒ごとには発展してほしくないな)
そんなことをぼんやり思ったフィオラだった。
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