夕日・王子・下着

冬野原油

三題噺8日目 自信って大事!

 下着の国の第一王子の結婚相手探しが難航しているのは、国中の下着が知るところでありました。というのも、王家は代々洋装に見合う姿をした一族であったにも関わらず、彼はふんどしの姿でお生まれになったからでございます。王妃様はその後三枚の子を産まれましたが、皆ブラジャーやコルセットなど、女でありました。下着の国の王位を継ぐ男は、ふんどし王子しかいなかったのであります。

 その見た目の違いから、よもや着物の国の誰とも知れぬ男との間にできた子ではないかと疑いをかける者が、王宮内にも多くありました。それは下着の国に限った噂ではなく、着物の国も上層部はもちろんのこと、衣の世界で最も権力を持つ織物の国でも、時々、ふんどし王子のことが話題に上がっておりました。


 ふんどし王子と最も愛してくれたのは、トランクス王でもネグリジェ王妃でもなく、さらし第三王女でありました。ふんどし王子もさらし第三王女も、その身をほどけば一枚の白くのびやかな布となります。ほかの王族は主に刺繡でその身を飾っていましたが、彼らは「白く、質素であるべし」という本能のままに生きていました。

 それでも「他と違う」ということは、不安を湧き起こすもととなります。上のような噂が彼らを苦しめることも多々ありました。

「兄さま、なぜ私たちはほかの家族と異なる姿で生まれてしまったのでしょうか。私、私は、この身を呪うことがございます。もっと形のよい、豪奢な刺繍の似合う姿で生まれていれば、お姉さまたちも、お父様も、それから、お、お母様も、私たちを愛してくださったでしょうに」

 さらし第三王女はふんどし王子にだけ、このように弱音を吐くことがありました。ふんどし王子はそのことをとても心配に思っていました。自分は王としてこの国に残り続けるが、末の妹はいつかきっとほかの国に嫁ぐことになるだろう。その時、誰が彼女を守ってくれるというのだろう。

「妹よ。われらがこのような姿で生まれたことになんの理由もありはしない。様々な噂が耳に入るだろうが、ひとつも事実でありはしない。自分でも愛せないようなわが身を、いったい誰が愛してくれるというのか。皺を伸ばせ、折を正せ。われら二枚とも、下着の国の王の糸を引く身であるぞ」

 本当は、ふんどし王子自身もずっと不安でした。弱気になることもありました。誰にもその弱さをさらせない分、妹よりも脆い心を抱えていたかもしれません。

「けれど、ううん。原初の機織り機に誓おう。われら、人の身の最も近くにある布よ。われらがいるから、その他の服たちが映えるのだ。誇れ、妹。われらはいつか偉大と呼ばれる存在にもなれるだろう」

 夕日が沈む中、ふんどし王子はその身を美しく翻し、王宮に戻るのでした。


 彼が草履と前代未聞の恋に落ちるのは、これより数年後のことでございます。

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夕日・王子・下着 冬野原油 @tohnogenyu

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