指環屋ナラクの皇道
或
第1話自由な暮らしに邪魔なアポ無し訪問者
神殿跡地と教わっていなければ誰もがこの荒れ地に神殿があったとは誰も思わない土地に唯一の一軒家。
その家主でここのギルドマスターの男は紺色の髪に紺色のデニム姿、名はナラク。外に設置した椅子に座り、机にはいくつかの魔導品、その指環のメンテナンス中。その全ての指環を創ったのがナラク。エナジーフィールドで場を浄化しながら指環の疲労をメンテナンス用に頼んで作って貰ったミスリル布で少しずつほぐしながらエーテルを染み込ませるのが今一番の方法。
その行程は約十分。まだ必要なら更に十分。
ナラクはこの時間を大切にしている。自分の過去の仕事から改善策を練れるし、単純に楽しい。だから貴重な時間としていつも大切にしている。
ナラクの居る土地は余りにも澄んでいる。実際、エナジーフィールドの浄化が必要が無いレベル。一流魔導師ではそこには住めない程に澄んでいる。猛毒神殿跡地をナラクが上手く利用した結果、レベル零でも傭神隊なら十五分も滞在したら全滅する空間になった。その被害者を減らす為の一軒家はナラクの自宅でありギルドハウスでもある。ただ、あくまで指環の研究開発を主にしているので指環屋としての活動はこのギルドにアポが取れた者とだけ相談をし指環を身に着けられる者に指環を創っている。だが度々アポを取らずにやって来る邪魔者もいる。
朝十時
「入るぞ」
言葉通りにこの空間に入ってきた男と連れられて来た男が一人。
ナラクは指環のメンテナンスを止めず二人を無視。
「何だ、相変わらずアポ無しは無視か」
入ってきた男に目を合わせるナラク。メンテナンスを止めずに
「愚問、立入禁止の立て札は見ただろ」苛立つ。アポ無し男は
「見たが、俺とお前の関係だろケチケチするな」ワイシャツを着ていて両手を広げてナラクを睨む。
ナラクは今メンテナンス終えた指環を机に置き、一呼吸。
「こんな行き当たりばったりの生き方、長続きするとでも?」
「俺は三十年この生き方をして来た。これからもその通りにやって行く、文句があるのか?」
「ならこれから通用しなくなる。痛恨の一撃を喰らいたくはないだろ」
「そんな根拠の無い喋りはどうでもいい。注文だ、後ろにいる俺の後輩のバゾに指環を創ってくれ!」
ナラクはその後輩とやらを品定め。
「結論、必要無いだろ。今なら黙って出て行けば許してやる。これ以上ない提案だろ」
「どうしてそんなつれない言葉を吐くんだ?俺達の仲だろ」
「それなら知ってるだろ。指環はそんなホイホイと気軽に創れない。だからこのギルドは予約制なんだよ」
「最初は違かっただろ」
ナラクは哀れな馬鹿を見る目。
「あれは宣伝と在庫処分だ。それが終わった時から予約制にしたのを知らないとは言わせない。それとも特級傭神のクグ殿はもう老け込んだのかな?」
クグは歯を食いしばる。そして叫ぶ!
「馬鹿か!俺はこれからが上がり調子だ。そこらへんの凡人を見るような目で俺を見るな!」
ナラクはもう先が無い死期を悟ったじいさんを見る目。
「お前!完全に俺を馬鹿にしてるな?ここでギルドをやっていけなくしてもいいんだぞ」
「あんたは本当に馬鹿な時があるよな。そんな権限は持ってないだろ」
「上に報告すれば一発でおしまいだ」
言い切ったクグは唇が震えた。
心臓が握りつぶされた幻影?!
その生々しさに一番先に唇が反応。全身に悪寒がハシる。余りの鮮明さに思わず二人共右手を胸に当てる。
心臓の鼓動はやかましい。混乱。クグは自分が生きているか、連れてきたバゾを見る。二人の視線が合う。バゾに生気が無い。
「何なんすかこれ、俺生きてますよね?」
神の加護が無ければショック死しても可笑しくないレベルの幻術、こんな芸当が出来るモノが失笑。
「何だよこの程度の幻術で死にかけるなよ傭神様方」
クグは臨戦態勢!
「…どういうつもりだっ?」
何とか振り絞って出たクグの声に迫力は一切無い。今直ぐこの元凶を殺してやりたい、そう思った情けない男は抜いた剣にエナジーを纏わせる。男は本気で全身のエナジーを剣に集中。その力は下級傭神バゾから見ても自分では対処出来ない、ただ殺されるしかない!
しかしナラクはつまらないモノを見る目。普通なら殺されかねない状況だがナラクは揺るがない。
「くだらないクグ殿、それは自分の何かを失っても構わない、どうぞお好きなものをお取り下さいって言ってるって気付いてる?それとも動転してこんな簡単な常識も忘れたのか?」
ナラクは立ち上がり余裕の笑みを浮かべながらクグに近づいて行く。クグの間合いに入る。
クグの剣はナラクの首を討ちにいく。このまま討てる妄想をクグは持つ。だが剣はナラクの首を討てない。その寸前で剣が何かに阻まれる。ナラクは笑みを絶やさない!
「どうした?俺の首まで1センチ届いてないね。それとも自分の命、魂を捨てても俺を相手に出来ないのを思い出した?」
ナラクは右人差し指を自分の顎辺りに立てる。
「それに連れの下級傭神殿が死にかけてるけどいいのか?一応大事な人物なんだろ」
クグは後ろを向くと立っているのがやっとの死にかけのバゾ。クグは思い出す。ここは指環屋の領域。対処出来てなければ毒素を取り込んでいるのと同じ!
「ナラク!」
「何を払う?」
クグはアイテムボックスを出現させ、そこに腕を突っ込んで黒鋼を取り出す。それをナラクに差し出す。
黒鋼を視て、ナラクは左手で受け取り、バゾを中心にエナジーフィールドを展開。バゾは死にかけから息を吹き返す。呼吸をデタラメにしているが死から遠ざかった状態。
その様子を見たクグは胸を撫で下ろす。
「取り敢えずアポを取ってまた来な」
ナラクはごく平淡に忠告。更に疑問。
「それに中級昇格試練は明日ではないだろ?」
クグは見透かされていた。その上で馬鹿の相手をしていたナラク。バゾはまだショックから立ち直っていない。ナラクは優しい提案。
「だから今アポを取れよ」「どれぐらいの時間だ?」「求めるモノ次第」
「中級昇格試練を確実に突破出来るレベルだ」
ナラクはバゾをもう一度視る。
「指環無しでも突破出来る可能性はあるだろ。何でそこまで指環が必要なんだ?」
クグの必死な目。
「俺は確実にと言っている」
理由は聞くまでもないそう悟っているナラクは一呼吸。
「前払いで一千万ルブ、期日は明後日午後二時。この条件を飲めるか?」
クグはこの為の切り札を出す!
「これで文句は言わせない!」
クグが出したのは一枚の翠貨。
「へ〜、随分と洒落たもの持ってるな。確かに一千万ルブ。それで届ければ良いのか?いちいちあの下級傭神を死にかけにするのがあんたの好みならここに来てくれても良い。好きな方を選びな」
クグにとって願ってもない!
「ならギルドブレイズに届けに来てくれ」
「了解。あれ連れてさっさと出ていきな」
「ああ、そうさせてもらう」
こうしてアポ無しの二人はこのギルドの領域から出ていった。
「全く、俺の楽しみの邪魔をするなよな」
ナラクは椅子に座り直し、指環のメンテナンスを再開した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます