記憶を失ったら妹と恋人ができた。

aoi

第1話

 ザァザァと降り注ぐ6月の音で俺は目を覚ます。


「……知らない天井だ」


 人生で一度は言ってみたいワードランキングに入っていそうな言葉が思わず口から溢れる。

 それほどまでに一度として見たことがない真っ白な天井だ。

 ぐるっと周りを見渡した俺の視界に映ったモノは見慣れない花瓶に誰かが置いて行ったであろうフルーツバスケット、それに微かに香る消毒液の匂い。

 ここから導き出される結論は……。


「そうか。俺は死んで転生を」

「兄さんがまた変なこと言ってる……」

「…………」


 誰もいないことを確認してから発したはずの独り言に返事が返ってきたことで俺は一瞬、体を強張らせる。

 俺はそっと声がしたドアの方へと体を向ける。

 そこに立っていたのはだった。

 顔は程よく整っており、少し長めの黒髪からは大人しい印象を受ける。

 俺は恐る恐る黒髪の少女へと声をかける。


「えっと、病室間違えてないかな?」

「間違えてないのですよ。美結は兄さんの妹なので」


 はて、俺に妹なんていただろうか。

 俺は思考を隅々まで巡らせる。

 …………。

 何かが思い出せそうで思い出せない。

 頭に何かモヤがかかったような感覚だ。


「兄さんもしかして事故で」


 先ほどまでとは違って心配そうに俺の顔を覗き込んでくる美結。

 その瞳は不安に揺れ、今にも泣き出しそうにも見える。

 そんな瞬間にふと俺の頭に頭痛と共にある言葉がフラッシュバックした。


『いい? 遼ちゃんは男の子なんだから女の子が泣きそうになってたら助けてあげてね?』


 ……誰の言葉だっただろうか。

 いや今はそんなことを考えている場合ではない。

 俺は不安に揺れる美結の瞳を隠すように小さな体を抱き寄せ、頭を撫でる。

 瞬間、美結が先ほどの気丈な振る舞いと打って変わりそれまでの我慢が決壊したようにわんわんと泣き出す。


「兄さん私……本当に心配だったんですよ……。兄さんが無事じゃなかったらどうしようかと……」

「美結、俺は大丈夫だ。とりあえず先生を呼んできてもらっていいか?」

「はい! 兄さんは絶対安静にしててくださいね」


 涙を拭きながら美結が俺の病室を出ていく。

 はぁと俺は安堵のため息を漏らす。

 目覚めた時から薄々気がついてはいたが、どうやら俺は記憶が無くなってしまったらしい。

 



 

————

5億年ぶりぐらいのリハビリ作。更新頻度は多分悪いです。






 



 

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