こっち向いて、ホイ

dede

ズルい 手段

「「最初はグー、ジャンケン」」「パー」「グー」


彼は私に指先を向ける。


「アッチ向いてホイッ!」


彼は大げさに右を指し、私はスッと下を向いた。

「ギャァァ!!」

彼は床にへたり込む。

「次ッ!!」

「「最初はグー、ジャンケン」」「チョキ」「グー」

私は彼に指先を向けた。

「アッチ向いてホイ」


私はスイッと指先を下に向け、彼は大げさにのけ反った。

「ヨッシャァァァ!!」


……なんでこの人はこんなに盛り上がっているのだろう?

さすがにアッチ向いてホイで楽しめるような年齢でもないだろうに。

確かに彼と一緒に居られるこの時間は有意義だけども、どうしてこうも色っぽくないのか。


と、そこでふと私は思い立った。


「次ッ!!」

「「最初はグー、ジャンケン」」「グー」「グー」

少しの緊迫した静寂の後に

「「あいこで!!」」「チョキ」「グー」

彼は悔しそうに息を飲むと私に意識を向けた。

私は彼に指先を向ける。

「アッチ向いて」




「……」

「……」

「……」

「……」

「……なあ、ホイは?」

「……」

「……」

「……」

「……あれ、ホイは?まだ言ってないよな?」

「……」

「……もしもーし、忘れてますよー?ほら、ホイって。ホイって言いなよ」

「……」

「もしもーし?息してますかー」

おっと、忘れてた。ゆっくりと息を吸い込む。そしてハァーと息を吐く。

その間も、ずっと彼は私を見ている。ひと時も私から目線を外さない。

私もそんな彼をずっと見つめてる。こんなにマジマジと彼を正面から見た事なんてなかったから新鮮だ。

「いや、なに笑ってるんだよ?」

どうやら顔が緩んでしまってたらしい。

「フフフ」

「!?」

すると徐々に彼の顔は赤くなり、視線が定まらなくなる。そして遂に彼は私から目を逸らした。


「ホイ」


私はその彼の目線の先へ指先を滑らせる。

彼は不服そうに言った。


「ズルい」


「なら、次はあなたが私に同じ事してよ。でもまた今度ね」

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