転移したら呪われた装備を渡されて不意に脳クチュされるので魔王ヲ倒シマス

スケキヨに輪投げ

プロローグ 勇者の装備

 私たちがコンビニでアイスを食べて家に帰る途中、突然足元に丸い形の光が広がった。


「え!?何これ?いやっ!お兄ちゃん!」


「俺から離れるな!」


 兄がビニール袋を投げ捨てて、私を抱き寄せる。程なくして視界が真っ白に染まって、それが晴れた時、私たちは、それまでいた住宅地とは全く別の場所にいた。


「成功ですな」


「さすが王国で最優の魔導士殿だ」


「光栄です」


 私たちの周りには、中世風の服装をした人や、鎧を着て兜を被った人、豪華な服を着た人などが沢山いて、私たちを取り囲んでいる。


「なんだ、これは。一体何が起きた」


「お兄ちゃん、私怖いよ」


 兄に抱きつくと兄が優しく私を庇うように抱きしめ返す。


「大丈夫だ、俺が守ってやるからな」


 兄はそう言うと、私たちを取り囲んでいる人たちの中で、一番私達に近いところにいる、杖を持った初老の男性に声をかける。


「あなた達は何者ですか!ここはどこですか!」


 兄がそう問いかけても、誰も兄の話を聞いていないのか、反応を示さずに、各々が好き勝手に会話をしている。


「2人いるがどっちだ?」


「能力を見ましたが、男の方で間違いないようですね」


「そうか、では手筈通りに、やれ」


 豪華な服を着た人が手を振って指図すると、鎧を着た人が数人私たちに向かって歩いてくる。嫌だ、近寄って来ないで!


「いやっ!」


「何をするんだ!やめろ、離せっ!レナっ!」


「お兄ちゃんっ!いやっ!離して!」


 鎧を着た人たちが嫌がる私たちを引き離す。


 兄と私がそれぞれ2人ずつの男性に腕を掴まれ拘束される。


 もう1人、男性が歩いてきて、兄に近寄っていく。その男性は両手で首輪のようなものを持っている。


「何をするつもりだ!やめろっ!離せっ!くそっ!」


「やめてっ!お兄ちゃんに何をするの!?お兄ちゃん!お兄ちゃんっ!」


 男性は動けない兄の首に、手にした首輪を装着する。がちゃ、と音がした。


 首輪を付けた男性が兄から離れていく。


 代わりに豪華な服を着た人が兄に近寄って言う。


「光栄に思え、其方は勇者に選ばれた」


「勇者だと?」


「これから其方には魔王を倒す旅に出てもらう」


「ふざけるな!誰がそんなことをするか!」


「1人では辛い旅になるだろう。妹らしきその者も一緒に行けば良い」


「レナを巻き込むな!」


「其方が嫌だろうと関係はない、逆らえないからな。『妹と一緒に魔王を倒すのだ』」


「ふざけ……なんだこれは、やめろっ!入ってくるな!嫌だっ、あっう、お、ぅお、ほ、おお、ほっ、おおお」


「お兄ちゃん!?何!?やめてっ!」


「あっあっう、おおオオッ!フホッ」


 兄に先程取り付けられた首輪の穴から、細い管のようなものが2本伸びて出てくる。管はうねうねと蚯蚓のようにのたうちながら、その先端を兄の耳元へと寄せていく。


 管が兄の両耳に入る。兄は声にならない悲鳴を上げながら抵抗するが、体を押さえつけられているため振り払うことが出来ない。私もなんとかして兄を助けようと暴れるが拘束を解けない。


 兄の両耳が管によって犯されていくのを見せつけられる。兄の表情がおかしい、口を大きく開いているのに口角は上がって、まるで餌をお預けされている犬のような表情で、だらしなくよだれを垂らしている。私の頬を涙が伝う。


「オれハ、まオーヲ、倒シマス」


『これが、後の1000年の栄華を盤石にした王国の、伝説の勇者誕生の瞬間であった』




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