こちら起眞鉄道公安室

ワンステップバス

第1話 警乗日和

 20XX年 4月21日 15:31 国鉄起眞本線 急行起眞路きまじ5号 4号車

 私の名前は翔鶴 蒼しょうかく あおい

 起眞中央鉄道公安室に所属する鉄道公安官!


「見つかんないねー」


「ねー」


 この子は瑞鶴 桜ずいかく さくら

 この子も私と同じく、起眞中央公安室の鉄道公安官!


 私達は今、女性のお客様の財布を捜索している。

 タイムリミットはこの起眞路5号が起眞駅に到着するまで。

 この列車は起眞駅に着いたらすぐに車庫に行っちゃうから、それ以降だとお客様に手続きをしてもらわないといけなくなる。


「あ、あの、もう大丈夫ですから!」


「いえいえ、ギリギリまで探しますよ」


 桜ちゃんが自信満々に言う。

 ホントに見つかるかなぁ…。


「財布…あ、コレかな?」


 茶色の革財布が椅子の隙間から出て来た。

 あれ、もしかしてコレかな?


「あっ!コレですコレ!ありがとうございます!」


 お客様は深々と礼をされる。

 見つかって良かった。


「いえいえ、お仕事ですから!」


[――長らくのご乗車、大変お疲れ様でございました。後、5分程で終点の起眞に到着を致します。7番線に着きます、お出口は右側となります]


 起眞到着前最後の放送がされる。

 良かった、何とか間に合った。


[お乗換のご案内を致します。環状線内回りは1番線、外回りは2番線へ、起眞中央線は3,4番線へ、空港線は地下ホーム。新幹線は新幹線乗換改札口へ。地下鉄線は地下鉄乗換口へお越し願います]


 この起眞路5号の警乗が終わったら、今度は空港特急の蒼空21号の警乗。

 警乗と言うのは、公安官や警察官が列車に乗り込んで行う警戒活動の事。

 国鉄は私達の様な公安官が警乗を行う。


[特別急行・急行列車のご案内を致します。起眞本線、特別急行起眞7号の新潟行は16時11分、6番線から、約40分ございます。空港線、特別急行蒼空21号は16時丁度、こちらは約30分でのお乗換、地下ホーム2番線より発車を致します]


 起眞駅が見えて来た。

 列車は速度を落としてゆっくりホームに入る。


[お忘れ物、落とし物などございませんよう、今一度お手回りをお確かめ下さい。本日は日本国有鉄道、急行起眞路5号にご乗車頂きましてありがとうございました。またのご乗車をお待ちしております]


 車掌さんの案内が終わると同時に列車は停車した。

 お客様の邪魔にならない様にデッキの隅っこに立ってお見送り。

 一人一人に"ありがとうございました"と礼を伝える。


[起眞ァ~~~~~~起眞ァ~~~~~~起眞ァ~~~~~~]


 駅員さんの駅名連呼が聞こえる。

 いつ聞いても独特。


「…全員降りたかな?」


「見回り行こっ」


「うん、行こ行こ」


 桜ちゃんの進言に従い、1号車への巡回を始める。

 寝てしまっているお客様が居たら起こして、忘れ物があったら回収する。

 それがこの列車での最後の任務。


「4号車は大丈夫だね」


 貫通路を通って3号車へ。

 停車時間は5分。

 この5分の間に車掌さんと協力して終わらせなければならない。


「あ、蒼ちゃん!コート!」


「えっ、あっ!ホントだ!」


 荷物棚にコートが放置されていた。

 コートを回収して、2号車へ。


「あ、おねむの人だ!」


 桜ちゃんは異常をすぐに見つけてくれる。

 私が見逃しちゃう忘れ物も桜ちゃんなら見つけてくれる。


「あっ、ホントだ……お客様~終点ですよ~!」


「う”え”っ”!?」


 くっさ!

 このおっさん、酒飲んでる!

 まだ16時にもなってないってのに!


「ほら、終点ですよ。降りてくださーい」


 私がおっさんに声を掛けている間に桜ちゃんは忘れ物を探す。

 何も無いと良いんだけどね。


「う"ぉ"ぉ"…そうかそうか…悪ィ~ねぇ~…ねーちゃん」


「いえいえ~、ほら、降りてくださいね~」


 おっさんは千鳥足で列車から降りて行った。

 うぅ…この座席酒臭いよ…。


「忘れ物無かったよー!」


「おっけ~!」


 おっさんが座ってた座席を嫌々捜索する。

 座席に忘れ物は無かったから1号車へ向かおうとしたその時…。


「あっ、お疲れ様で~す」


「「お疲れ様です」」


 5号車から8号車を巡回していた車掌さんが追いついて来た。

 1号車は3人で巡回する事になりそう。


 車掌さんを伴って1号車へ。

 人居なさそう。

 後は忘れ物だけ。


 3人で手分けして捜索。

 当然の事だけど、2人で捜索するより効率が良い。


「あった~?」


「無かったよー!」


 桜ちゃんは何も見つけなかった様だ。

 さてさて、車掌さんはどうかな…?


「こっちも、何もありませんでした」


「「ありがとうございまーす」」


 車掌さんにお礼を言って、列車を降りる。

 ホームは人で溢れていた。


[7番線、停車中の列車回送列車でーす!ご乗車になれませんからご注意下さぁ~い!]


 人を掻き分けながら長いエスカレーターを下って空港線のホームへ。

 高架のホームから直接行けるのは有難い。

 でも、出口と間違えて降りちゃう人もいっぱいいるけど。


「蒼ちゃん蒼ちゃん」


「ん?」


「今日、日曜日だから空港線混んでるかもね」


「そうだね~。でも、特急は全部指定席だから大丈夫だと思うよ」


「デッキとは人立ってないかな?」


「立ってたら降ろさないよね」


「うん」


 蒼空は全車指定席。

 座席未指定券も発売していないから、デッキに立つのもアウト。

 見つけたら即座に次の駅で降ろさないといけない。

 どうか、誰も立ってません様に……。



 15:42 空港線1,2番線


[只今、2番線に停車中の列車は16時丁度発。起眞空港行、特別急行蒼空21号でございます]


 ホームは人でごった返していた。

 家族連れにカップル、それとスーツケースを持った旅行客やサラリーマン。


「特に…ホームに異常は無さそうだね」


「OK、乗ろっか」


 桜ちゃんがホーム上を確認してくれた。

 特に問題無かったので3号車のドアから車内へ。


 車内は空席がちらほら。

 ほとんどの人がスーツケースを持った空港利用客。

 家族連れやカップルも少し確認する事が出来た。


[ご案内致します。この列車は、特別急行蒼空21号、起眞空港行です]


 自動放送の停車中案内が始まった。

 10号車へ向けて歩を進める。


[全車指定席で、自由席はございません。グリーン車は10号車と9号車です]


 空港線は中央区の起眞駅から南下して嶋崎区の起眞空港を結ぶ路線。

 沿線にはオーシャンパレス起眞があり、カップルや家族連れがスポーンするのはこれのせい。


 嶋崎区から更に南下した海上にある人口島に起眞空港は存在する。

 起眞空港は3600mの滑走路が2本、4000mの滑走路が2本、合計4本の滑走路を有する超巨大空港。

 ココは空港利用客のスポーンポイント。


 この2つが同じ路線上に存在するお陰で、空港線の混雑は起眞地区随一。

 私なら絶対沿線には住まない。


「デッキの立ち客は居ないね」


「今の所は安心だね」


「途中から乗ってきたら嫌だね~」


「ね~」


 地味に立ち客の対処は面倒。

 車掌さんの所に連れてって、空席があって乗り続けるなら切符発行して…。

 …と、非常にめんどくさい。

 デッキ立つの許可したらいいのに。


[ご乗車ありがとうございます。特別急行蒼空21号、起眞空港行です。中起眞、中ノ内、嶋野浦、起眞水沢、りんくう起眞、終点起眞空港の順に停車して参ります]


 車掌さんによる停車駅案内が始まった。

 コレが始まったと言う事は、もうすぐ発車。


[お待たせ致しました。16時丁度発、特別急行蒼空21号、起眞空港行発車致します。次の停車駅は、中起眞です]


 列車は人が溢れているホームを横目に、空港へ向けて出発。

 今の所は何の異常も見当たらない。


「ねぇ、あの人怪しくない?」


 またまた桜ちゃんが見つけてくれた。

 あぁ、言われてみればあの人ソワソワしている。


 今度は女性。

 一体どうしたのかな。


「すいませ~ん、防犯警戒で周っているんですけど~」


 話しかけるのは私の役目。

 桜ちゃんが見つけて、私が対処する。


「あっ!あの、助けて下さい!」


「「え?」」

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